第49話

「ねぇ、リリー……聞いてちょうだい……おかしなことを言っていると思うかもしれないけれど……」

 おかしなこと?

「私と、婚約しない?」

「え?エミリーと婚約?」

 驚いて体を離すとエミリーが真剣な目をして私を見た。

「ええ。婚約者ということなら、今よりももっと、自由に会うことができるようになるでしょう?一緒にいても怪しまれないし、二人きりになりたいというのを誰も止めないわ」

「で、でも、エミリーは嫌じゃないの?」

 エミリーが首を傾げた。

「何が?」

「だって、私の前でまで、男のふりをしなくちゃいけなくなっちゃうの……辛くないの?」

 エミリーがエミリオの顔を見せる。

「リリー、僕のことカッコいいって言わせてみせるよ。リリーのかわいいと言う言葉もカッコいいという言葉も、僕が独り占めするから」

 どきりと心臓が跳ねる。思わず頬が染まる。

「あら、やだ。ちょっとエミリオに嫉妬しちゃいそうだわ。エミリオも私なんだけど、なんか腹が立つわね。リリーは私だけを見てほしいなんて、我儘なのかしら?」

 すぐにエミリーに戻って頬を膨らませる姿に思わずおかしくなる。

「私から見えれば、全部エミリーだわ。今のも、エミリオの演技をしているエミリーがカッコイイって思うだけよ?」

「そうだったわ……リリーは、私を受け入れてくれているんだもの。いいえ、むしろ、本当はエミリーの方だと分かってくれているんだもの。……ねぇ、リリー。婚約のこと、一度考えてくれるかしら?」

 エミリーの言葉に頷いて見せる。

「私ね、本当ははじめて会った時に婚約者のふりをしてほしいってお願いしようと思ったの。……でも、エミリーに男のふりをしてほしいって言うことと同じだと思うと、エミリーは嫌なんじゃないかって、言えなかった……」

 エミリーがぎゅっと私を抱きしめた。

「ありがとう、私のことをいつも考えてくれて。大丈夫よ。男のふりなんて慣れっこだもの。それよりリリーに会えなくなる方が何百倍も何千倍も辛いの」

 エミリーの背中に手を回して、私もぎゅっと抱きしめた。

「うん。エミリーが嫌じゃないなら、婚約しましょう、そうして、好きなだけ会うの」

「ああ、想像しただけでも、幸せよ……。リリー、私、生まれてきて今が一番幸せ」

「うん。エミリー、これからもっと幸せになりましょう」

 どうしようか。私が公爵家だと伝えた方がいいかしら?

「本当は、今すぐにでも婚約したいわ……でも……」

 エミリーが体を離して小さくため息をついた。

「片付けないといけない問題がいくつかあるの」

 問題? 

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