第46話
「わー、素敵!エミリーが準備してくれたの?おいしそう!」
テーブルの上には、クッキーにビスケット、マドレーヌにビスコッティ、パイにトルテ……。ちょっと手に取って口に運ぶのにちょうどいいサイズの焼き菓子たちが所狭しと並んでいる。
それから果実水が準備されていた。
「おいしそう?」
エミリーがくすりと笑った。
「それから、もちろん、かわいい!」
小さなお菓子が並んでいるのを見て、今まで思ったことはなかったけれどかわいい。
「あは、そうね。かわいいわよね。でもやっぱり、リリーが一番かわいいわ」
「エミリーもかわいい」
「きゃーありがとう。ふふ、うれしいわ。さぁ、座って、食べながらお話しましょう!秘密のお茶会の始まりよ!」
「ああ、でもこんなにたくさんのお菓子食べきれないわ……」
エミリーがくすりと笑う。
「やだ、全部食べる気だったの?さすがくいしん坊さんね」
エミリーが私の鼻をちょっとつまんだ。
「ぜ、全部食べるつもりなんてないけれど、でも、残しちゃうのも……もったいないわ」
エミリーがニコリと笑う。
「っふふ、もったいないなんて言葉が出てくるなんて。リリーは育ちがいいのね」
「え?あれ?育ちがいい?な、なんでそんなこと……!」
もったいないなんて貧乏してる貴族の娘だと思われても仕方がないことを口にしたのに、逆に育ちがいいと言われるなんてちょっとビックリする。
「あら、だって、残して当たり前、貴族であれば贅沢するのが仕事みたいな傲慢さがないのだもの。それは育てられ方が良い証拠でしょう?」
ああ、そういうことか。
「でも、贅沢は仕事だと学んだわ。お金は流さないといけないと」
「ふふ、確かにそれもそうだわね。だけれど、仕事としてお金を流すために使うのと、浪費するのは違うとリリーは分かっているわよね。そこが分かっていない人は多いのよ……残念なことにね」
エミリーがふぅっとため息をつく。
「このお菓子は大丈夫よ。元々舞踏会の会場に並んでいるものを少しずつ分けてもらったものだし。余ったものは、捨てることはないわ。公爵家で働く使用人たちのお楽しみになるのよ」
ほっと胸をなでおろす。
下賤の者には過ぎた物でしょうと、残ったお菓子を床に投げ捨て、拾わせて楽しむ人もいると聞いたことがある。それを聞いた時は、そんなことをして何が楽しいのか分からなかった。
けれど、残念ながら人には「自分が上だ」ということを見せつけることでしか、人間関係を築けない人がいると知った。
好きだという気持ちで人間関係を築けない人がいると……。
立場でいえば、侍女のメイより私は上だ。けれど、上下の関係じゃない。私はメイが好きだし、メイをも私のことを思ってくれている。
雇われているからメイは私のために何かしてくれるわけじゃないと知っている。
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