4-⑸
秋になって、私は毎日デッサンの練習に取り組んでいた。坂口先生から実技はデツサンになるからと、いろいろアドバイスをもらいながら、水槽とか袋入りの野菜とか数をこなすようにしていた。
お母さんに、それとなく
「お兄ちゃんは、まだ、アメリカから帰ってこないの?」
「今は、雑貨屋さんで働いているらしくって、約束の5年はとっくに過ぎているから、もう帰ってこなきゃぁね。最近は便りも来ないわ」
「ウチ、メールしてみるね、夏休みにみんなで行った海の写真も送っておく、少し成長した私見せとく」
お兄ちゃんは、反対するお父さんを説得して、突然、大学を中退して勉強と称してアメリカに行ってしまった。何年も会っていないが、帰ってきたら、私も家を出て行きやすくなると作戦を考えていた。
クリスマスが近づいた頃、私宛に国際荷物が届いた。送り主に『SIN MOTOMACHI』とあった。本町紳、お兄ちゃんからだ。ゴールドとシルバーでデザインされた結んだリボンのイヤリングだ。二つの大きさが違う、右と左で違うのかな。
中にメッセージカードが入っていた。
「少し大人になった絢へ メリークリスマス
君の気持は充分に理解した。考えた結果だから、思い切って進むことだ。応援するよ。
僕は4月末になってしまうけれど、家に戻るつもりだが、まだ、親には内緒にしておいてくれ。決まったら、話す」
私は、心強い味方を得た。担任の先生には、受験のこと打ち明けているが、まだ、親には黙っているようにお願いしている。年が明けたら、打ち明けなければと思っているが。受験の日が近くなるので。
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