第一章 スローライフ?

1話 ど田舎?

 美形な死神と、美女な女死神に、抗議しようとしたものの意識はだんだん薄れていく。

 有里は薄れていく意識の中で、短くて何となく残念な人生を愛しく思いながらも、新しい生に期待を持った。

『ああ……転生するんだな……田舎でスローライフ……のんびりしたいな……』


 まだ雪が残る早春、なだらかな丘陵地が続いている田舎の景色を三日月が照らしている。風除けの木が数本植えられた窪地に、ちょこんと建ってる小さな家の窓から、夜明け前なのに明かりが漏れていた。

 何となく慌ただしいしい、何かを待ちわびてる雰囲気を切り裂くように大きな産声が上がる。

「おぎゃ~! おぎぎゃ~ぎゃ~!」

 生まれたばかりの赤ん坊は暖かい安心できる所から、眩しい光にさらされて、寒さと孤独に抗議の声をあげる。

「可愛らしい女の子ですよ」

 産婆さんから綺麗に洗われた赤ちゃんを渡されたローラは、少しぎこちなく抱きしめて、泣き疲れて少しぐったりしてる我が子を見つめる。

「ローラ! 女の子だったんだね……よく頑張ったね」

 産婆からやっと寝室へ入れて貰った夫が、心配し過ぎて目の下にくっきりクマを浮かべているのに気づいて、ローラは微笑みを浮かべる。

「わ~! なんか、こんなに小さいのに、指にちゃんとちいちゃい爪があるんだね……」

「当たり前ですよ」

 産婆は新米パパの舞い上がり振りを笑う。ウィリーは産婆にお礼を述べて、貧しい生活の中から精一杯の謝礼を払った。


 産婆が引き上げた後、ウィリーとローラは生まれたばかりの赤ちゃんを愛しそうに眺める。

「ウィリー、抱っこしてみる?」

 ベッドの上に座って赤ん坊を抱いているローラに勧められたが、落としそうで怖いと尻込みする。ベッドに腰掛けて、赤ん坊の手を取ったウィリーは、目をうるうるさせて感慨に浸る。ローラは、新米パパの微笑ましい姿に胸がキュンとした。

「ウィリー、名前は何にする?」

 初めての赤ん坊に、半年前から二人でいろんな名前を考えていた。でも、どれにするかはまだ決めてない。余りに候補の名前が多すぎて決めれなかったのもあるが、昔ながらに赤ん坊を抱いて、一番に浮かんだ名前を付けるという風習に従って決めようと話しあったからだ。

 ウィリーは恐る恐る赤ん坊を腕に抱いて、顰めっ面してる我が子をうっとりと眺める。

「ユリ………ユーリ! ユーリが良いと思うよ。あっ、勿論、ローラが良かったらだけど……」

 ローラはユーリと口の中で唱えて、何だか他の名前ではいけない気持ちがした。

「ユーリ、あなたはユーリでちゅよ」

 落としたら大変だと、あたふたと渡された赤ん坊の頬に口づけしながら、ローラは幸せを実感する。


『ユーリ!』

 有里ゆりのまんまじゃんとつっこんで………

『え……ちょっと記憶が……ある? なんで??』

 赤ん坊の体力で意識を保つのは困難を極めたが、有里はどうやら急いでた死神カップルのやっつけ仕事のせいでか前世の記憶消去ミスが発生したのに気づいた。

 色々と死神カップルには文句をいいたいところだが、赤ん坊なので身体の欲求に従うしかない。

 おっぱい→寝る→泣く→おっぱい→寝るの繰り返しで、寝てばかりで有里……ユーリは当分の間、満足に考える時間が取れなかった。


 ぼんやりとした視力で新米ママのローラと、新米パパのウィリーを眺める。金髪に緑色の瞳の美人がママ、栗色の髪と茶色の目のハンサムがパパ……外国人なの? どう見ても日本人では無さそうな両親だと思う。

 あれっ、二人の言葉がわからない。

『外国なの? ユーリってのが私の名前だとはわかったけど、二人の会話はわからないわ』

 パニックになって泣き出したユーリをあやしながら、この子は私達の話がわかっているみたいね~とトンチンカンな親バカぶりを発揮してる二人だった。

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