サクラ・サク
カキツ
前日譚 大切な友達 夏目ver.
私の町には有名な伝説の自殺スポットがある。
どうやら、その自殺スポットは行くと必ず、誰にも邪魔されることなく死ぬことができるらしい。
しかも、その死体は町近くの墓地近くにきれいな状態で遺棄されている、と聞く。
その墓地については、警察やら幽霊系やオカルトの研究者やらがいつも周辺をワラワラしてることもあってか規制線が張られて、特別な許可がない限り一般人は立ち入り禁止になっているんだけど……。
中で実際に何が起こっているのかはこの町に住んでいる人にもほとんどわからないそうだ。
でも、私は少し知っている。
なぜかって?
それは、あの墓地の中を巡回員であり、死体を見つけたことのある警察官をお父さんに持つ女の子が、偶然にも私の友達だったからだ。
昔から霊感の強かった私は、そうした伝説とか、学校の七不思議みたいなのが好きな、ちょっと―――いや、かなり特殊な女の子だった。
いわゆるオカルト女子―――というほど歳いかないオカルト女児だった私は、クラスでその話を聞いていてもたってもいられなくなって、その日の放課後から自殺スポットを見つけに町を自転車で駆け回った。
結局、見つけられないまま21時になって、お腹がなったから家に帰ると「いつまで外にいたの!」なんて怒られたのはいい経験だった。
それから数年後の4月、新高校生になった私は相も変わらずオカルト女子を突っ走っていた。
子供のころに好きだった仮面ライダーやプリキュアは、あるときを境にぱったりとブームが終わる人が多いと思う。だが、私は高校生になった今でもこの町の怪異事件、もとい伝説を探していた。
大人になるにつれ、色々と落ち着くだろう――――そう思っていた親や親友からは、「あんたは頭がイってる。」なんて言われる始末ではあったが・・・。
だがしかし、今はUFOや宇宙人なんていう「いま、このとき」にないようなものについては興味をなくしてしまっている。 というか、調べれば調べるほど情報のうさん臭さを感じ、自分の霊感的な勘が何か違うといってたから、信じるのはやめてしまった。
だけど、この町の伝説は違う。
あれは私が小学生のころ。県外から来ていた観光客があるときを境に消え、いつもの墓地に死体として現れた。
さらに中学生のころには、ふと見たニュースで、隣町で起きた中学校のいじめの被害者生徒が電車に乗ってこの町に来たことがわかったものの、行方不明届けが出て数日後に、例の墓地に死体として現れたと報道していた。
死体が発見されるまでの一時は、誘拐や監禁等で殺されてしまったのでは?とささやかれて「不審者注意!」なんて近くの小中学校が休校になったけど、犯人なんてわかるわけもないと感じていた。
少し経てば、また別の行方不明だった人の死体が墓地に現れた。
これ以上この町の伝説を調べようにも、本物であることは確信できるけど、これといった確たる証拠は一切なかった。
だからこそ、オカルト女子としての興味はどんどんと高まり、現在に至ったというわけだ。
ほんとに、両親にはこんな子供になってしまってごめんと思ってる。
紹介が遅れたが、私の名前は夏目。
田中 夏目。
ただのオカルト好きな普通のJKだ。
そんな私には2人親友がいる。
それは、オカルト仲間の真紀ちゃんと、私と真紀ちゃんがオカルト話をしててヒートアップするのを制するストッパー役の夕ちゃん。
ちなみに、夕ちゃんはめちゃくちゃ美少女だ。小学校からずっと、なんなら高校の入学式を終えた今の時点でクラスのマドンナ的存在になってる。
小学校からずっと私たちはいつも一緒に過ごしていて、学校、放課後、お休みの日の(夕ちゃんによる強制連行の)ショッピングも行ったりしていた。
ずっと、仲良し3人組だった。
高校に上がってもその関係は崩れないと思っていた。
5月ころ、クラスのカーストが出来上がっていた。
もちろん、夕ちゃんは明るい方にいる。
クラスのマドンナで、私たち2人を制御できるくらいに面倒見がいい。
それは、もう明るいグループにもってこいな人材だった。
でも、私と真紀ちゃんは、そんな明るすぎた夕ちゃんといるには周りからしたら、とんだお邪魔虫だったようだ。
クラスのマドンナが陰キャ、なんならそこにオカルト女子という要素まで入っているやべぇやつらに付き合わされていると思われたのだろう。
5月中旬くらいから、私と真紀ちゃんはクラスから省かれるようになっていた。
それでも仲良くしてくれる……いや、ここは敢えてこう記そう。
「仲良くしてこようとする夕ちゃん」
に、私たちの関係はおかしくなっていった。
少しでも、前みたいに一緒に過ごして仲良くしていたいと思った私は、なんとか劣等感を押さえつけて
「学校で話さなくてもさ、真紀ちゃん家とか、休日にショッピングに行ったときにでもすればいいんじゃないかな?」
なんて3人のトークグループで言ってみたものの、結局返信が返ってきたのは夕ちゃんだけで、真紀ちゃんは既読さえしていなかった。
仲の良い「いつもの3人組」でいられるよう、みんなで解決策を考えようと思ってたのに、だ。
ついカッとなった私は次の日の放課後に真紀ちゃんを学校の屋上に呼び出して怒ってしまった。
このまま関係がこじれたままでいいの!?
私は、絶対やだ!また、3人でいたいのに、なんで協力してくれないの!?
なんて。
そのときすでに真紀ちゃんが、クラスのみんなから、私も受けていないような苛烈ないじめを受けていたことに気付いていれば、そんなこと言わなかったのに。
7月上旬。
私へのいじめはなくなって、むしろ、気づいたらクラスの輪に入れるようになっていた。
夕ちゃんが懸命にクラスのみんなに私たちの良いところとか、こういうところが面白いんだよとか、説得をしていたことが背景にあったからだろう。
一応、私自身も、結構頑張った。
なるべく夕ちゃんのお誘いに乗ったり、そこから交友関係を広げたり……。
でも、その分――――真紀ちゃんは私からも遠ざかった。
トークグループは停止していて、仲を取り戻すことを私も夕ちゃんも言わなくなった。
どこかで私と夕ちゃんは真紀ちゃんを諦めていたのかもしれない。
そんな私たちを知ってか知らずか……。
より孤立感の増した真紀ちゃんを、クラスメイトはいじめの標的として絞ってしまった。
もちろん、最初は自分をクラスに馴染ませようと頑張ってくれた夕ちゃんみたいに、私も真紀ちゃんをLINEで誘ったりしてた。
でも、真紀ちゃんは変わらなかった。
せっかく私が動いて、夕ちゃんも周りに仲よくしようと働きかけてくれていたのに、何もしようとしない、クラスに馴染もうとしない真紀ちゃんの自業自得だ。真紀ちゃんが悪い。
いつからか、そう、思うようになった。
7月のこの蒸し暑い季節。
それは急に訪れた。
「倉人真紀さんが、お亡くなりになられました。クラスの皆さん。もし、何か知っているのなら、怒らないので先生に話してくれませんか?」
帰りの会のこと。
自分の持っているクラスから一人生徒が亡くなった悲しさで涙がこぼれそうな先生が、なんとか声を振り絞って私たちに問いかけた。
大人として泣くまいと、毅然と優しく語りかけてくれる先生のその言葉に、それまでがやがやとしていたクラス全員が静まり返った。
一瞬、何を言われたかわからず、でも、何か言おうと口をパクパクさせる………。
人を殺してしまった責任感か、それとも恐怖からか。それとも、驚きか。
それぞれに抱える罪の意識を軽くするために、誰もが声を上げようとした。
「ぼくたち、わたしたちがいじめを行って、彼女を追い詰めました。」
こう、言えたら、自分たちは救われるのか?
誰もそれがわからないまま、口を閉ざした。
その日、どうやって家に帰ったかわからない。
きっと、夕ちゃんも同じだっただろう。
ついこの間まで仲の良かった3人組。
その一人が消えてしまったのだ。
しかも、喧嘩別れしたままだった。
真紀ちゃんとは、一生馬鹿なオカルト話をお酒を飲みながら話して、でも夕ちゃんにこれ以上飲まないで!なんて注意されながら、
ずっと、ずっと、一緒に生きていく
そう…………、思っていたから。
せめて、仲直りして、また2人していやいやながら夕ちゃんにショッピングモールにいって、また…
そんなもうありもしない妄想なんてしているくせして、
でも、それを壊したのは、真紀ちゃんを殺してしまった原因は…………、
――――あぁ………。私なんだろうなぁ……っ。
そう、思うと、胸がぎゅうっと締め付けられるようで、
とても、苦しかった……。
真紀ちゃんが死んでしまってから数日。
私はいつものように学校に行っていた。
真紀ちゃんのいない日常で、虚無な心持で過ごした。
そんなおり、学校が終わって家に帰ったタイミングで警察がやってきた。
どうやら、私についてきてもらいたい場所があるらしい。
精神的なダメージが大きいし、別に行かなくてもいいよ。って、めちゃくちゃ親に心配されたけど、私はそれに黙って応じて、パトカーに乗り込んだ。
今から、警察署にいって、色々事情聴取を受けて……。いじめのきっかけとして、裁判沙汰になって刑を受けるんだろうと思って、今後のことや、親のことについて考えて泣きそうな気持ちを抑え込んでいた。
でも、パトカーが向かったのは警察署じゃなくてその逆の方向。
最近は行けていなかったが、昔から、そこへ通っていたことで既視感があったことも幸いしたのか、私は向かう先が新田町近くの墓地であることに気づいた。
墓地につくと、私は規制線の先。
一般の人が入れない区画へと案内された。
普段一般人が立ち入ることの許されない未知の領域には、簡易のプレハブ小屋が6棟並んでおり、そこを研究員や警察官、報道人など様々な人が出入りしていた。
そこに夕ちゃんの姿があった。
「夕ちゃん!」
「…っ!?」
だが、そのときの夕ちゃんは、クラスのマドンナと言われた美貌、明るさはそこにはなく、
私の声に驚き、身を縮こまらせる、どこか幼子のような雰囲気を漂わせていた。
つい、いや、私も今こうしてほしかったのかもしれないけど、夕ちゃんの肩にそっと触れ、それと同時にあふれ出る涙を止められないまま抱き合った。
「な、夏目ちゃん…。わた、、わたし、わたしが…」
「ううん。私も。なんなら、多分私が最後のきっかけだったのかも…」
真紀ちゃんが死んだとわかった日から学校を休んでいた夕ちゃん。
お互い、自分が犯してしまった罪に苛まれながら日々を過ごしていたんだと思った。
「ごめん…、ごめんよぉ…真紀ちゃん……」
「わたしも……。あんなこといって、ごめん……」
もう伝えられない懺悔を、涙が枯れる数分間もの間呟き続けた。
「おふたりさん。倉人真紀さんから遺書を預かっています。
ただ、これはここで彼女の死体とともに見つかったものなので、この現象の解明研究のための資料として保管しなければなりません。
でも、せっかく彼女が今こうして泣いているあなたたちに書いた手紙を読ませてあげられないのはかわいそうなので特別にこちらにお呼びさせていただきました。」
涙も枯れ、泣き止んだ私たちに、私を案内してくれた警察官の人が2通の手紙をもってやってきた。
「ぜひ、読んであげてください。この謎事象を解明するという研究の目的上、手紙の中身を検閲してある。大丈夫。きっと、君たち二人にとって、悪いものではないよ。」
促されるまま手紙をそれぞれ受け取り、すでに切られた封から手紙を取り出した。
そこには、私が真紀ちゃんに怒ったことへの謝罪や、これからも3人組仲良くしていきたいこと。私の知らなかった、苛烈で、身体的暴力も含まれたいじめがあったことなどが記されていた。さらに、その内容は口外せず、秘密にしてほしいとも。
手紙を読んで、枯れた涙の代わりにさらに胸が締め付けられるようで、でも仲良くしたかった気持ちが一緒だったことに泣きたくて、泣けなくて、胸にするどい棘が刺さったように思えて、でも…、とても胸が温かくなるようで…………、すごく変な気持ちだ。
となりでもう一通の手紙を読んでいる夕ちゃんの嗚咽を聞きながら、私はふと手紙の文末に目を落とした。
――――これはッ!?
目を見開きながら、脳ではありえないと思いつつも、でも、こうしてこの墓地に真紀ちゃんの死体があったこと、追伸の最後のところに小さくかいてある殴り書きのような宝箱のマークを見て私は知った。
それは、私と真紀ちゃんとの秘密の暗号。
絶対に使うことのないと思っていた暗号。
あれは、いつの日だったか……
「なっちゃん!」
「真紀ちゃん、どしたの?」
「もし例の伝説の噂がほんとで自分が死にそう!って時になにか残さない?」
「えぇ!?それって遺言じゃん!死ぬのやだよー!」
「いやいや、もしも!もしもの話だから!」
「えぇー、じゃあ、新田町の伝説って話だし……。んんー………、
あ、伝説と言ったら、お宝でしょ!宝箱のマークとかいいんじゃない!?」
「なっちゃん、めっちゃ適当!でも、いいかもね!じゃあ、もし――
―――もし、誰もたどり着けない自殺スポットにたどり着けたらお宝マークを何かに残そう!」
真紀ちゃんは、きっと………。
あの場所にたどり着いたのだろう。
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