第16話 文句の止まらない俺と鑑定(優也視点)

 俺が俺に隠れる聖也を抱き上げると、ポチがジャンプをして椅子に下り、そのまま騒いだ男に唸りだした。にゃんにゃんも俺の膝から下り、ポチの方へ移動すると、『シャアァァァッ!!』と、男を威嚇し始める。聖也はコップとぬいぐるみを持ったまま、俺に抱きついたまま。コップを落として怪我をしないと良いけど。

 

 それにしてもあの男! 俺はそのまま男を睨み続ける。


「お主が大声を出したせいで、セイヤが怯えてしまったではないか。そもそも彼らがここへ来たのは、我らにとっては、神からの賜物。だが彼らにとっては、何も知らない彼らを、無理やり連れて来てしまっているのだ。文句を言うのは当然の事。反対に我らが彼らに文句を言う事などありえん」


 男が何か言おうとするが、アーネル王はそれを許さず、それからも男への言葉は続き。最終的には納得がいかないのであれば、今すぐこの部屋から出て行けと言われていた。納得はしていないんだろう表情はしていたが、男は黙り。これ以降話すことはなかった。


「はぁ、すまんかった」


 はぁ、頼むぞまったく。俺はポチ達に落ち着くようにと、そっと2匹の背中を撫でてやる。すると少しして2匹は静かになり、だが男のことをじっと見たまま、一応は落ち着いた。その後は聖也を抱き直し、離さないコップに気を付けながら、話の続きをすることに。


「それで、俺達はすぐに元の世界に、戻ることができるのでしょうか?」


 1番大事な事だ。あっちの世界でいきなり俺達が居なくなったら大問題になるし。聖也をこんな知らない世界に、ずっと置いておくわけにはいかないからな。

 と、俺の質問に部屋の中が静まりかえる。顔を伏せている者もいるし、じっと俺達を見てくる者も。1人以外を除いては。ちなみにフリップさんは少し沈んだ顔をしていた。フリップさんの表情を見て、大体は分かってしまったが。1人除いてと言ったのは、あのさっき騒いだ男だ。あいつだけはニヤニヤと笑っていて。


「…帰れないんですね」


「申しわけないがの。昔おこしくださった勇者殿とその仲間が、元の世界に戻ったという記録は何処にもない。そして、帰る方法を記している物も、今のところは存在しておらん」


 はあぁぁぁぁぁぁ。俺はため息をついた。人生で1番大きなため息だったんじゃないか? ため息もつきたくなるだろう。勝手に呼ばれ、帰る方法はないと言われたんだ。王の前だが、これくらい許してほしい。

 小説なんかじゃ、元に戻れる魔法陣みたいな物があったりなかったり。後は扉があるとか。まぁ、この世界に魔法みたいなものがあるかは知らないが。どっちにしろ、呼ぶくらいなら、帰る方法くらい考えておけよ。


「で、帰る方法が本当にないのか、それとも帰る方法を考えようとしていないのか知らないけど、勇者として呼ばれたのだから、魔王を倒せと?」


「…」


 まだまだ文句の言い足りない俺は、その後も少しの間、色々と文句を言い続けることになった。帰れないんだぞ。魔王と戦えと言うんだぞ。俺はただの料理人なんだ。そんな事できるわけがないだろう。


 やっと文句を言い終えたのは、3杯目の紅茶のような飲み物を飲み終わってからだった。本当はもっと言ってやりたかったが。これからの事について聞くのは、文句以上に大切な事だからな。

 本当に帰ることできないのか分からないが、ここで暮らしていくことのなるのだから。これからの俺達に付いて、きちんと聞いておかなければ。勇者としてここへ連れてこられたのだから、何も知らない俺達を、外へほっぽり出すことはないと思うが。


 俺がこれからの事を聞くと、先ずは鑑定を受けてほしいとのことだった。『鑑定』とは、これまた小説なんかで良く出て来るものと同じで、その人物の力を見る物らしい。歳や名前、どういった能力を持っているか。称号はあるのか。犯罪歴なども見ることができるようだ。

 その鑑定を俺に使い、俺が、本当に勇者なのかを確認したいそうだ。


 突っ込みそうになった。いや、自分では声に出しているつもりはなかったんだが。声に出ていたらしい。勇者として呼んだんじゃないのかよってな。それにフリップさんが答える。


「すまない。確認する決まりなんだ。昔色々あって、必ず確認するようにと、言われ続けているんだ。それに勇者としてどんな力が使えるか、それを確かめる必要もある。魔法を使うのか、それとも剣か。他の力かを」


 言われればそうだが、何か納得がいかない。納得はできないが、フリップさんの言った通り、力がどういう物か知るのは必要なことだ。その力で聖也を守る事にもなる。と言うか今、魔法って言ったか? やっぱり魔法があるんだな。


 鑑定には道具ではなく、鑑定魔法を使える人間がするらしい。鑑定をする人物のことを鑑定魔法師と言い、王宮に勤めている鑑定魔法師は、一般の人々よりも深く鑑定をする能力をもっているんだとか。

 すでに鑑定魔法師は隣で待っていて、鑑定に掛かる時間はほんの少し、すぐに終わるらしい。他にも鑑定に関する方法はあるようだが。今は鑑定魔法師が行うと。


「取りあえず鑑定を受けて、それからまた、これからの事を話し合おう。どうじゃろうか?」


「…分かった」


 俺がそう言えば、すぐに鑑定魔法師が呼ばれ、部屋に入って来た魔法師は老人だった。老人は俺を見た後、あの男に怒鳴られてからしょんぼりしてしまった聖也を見て、そっと近づいて来た。そして、優しい声で聖也に声をかける。


 聖也が振り向くと、老人は手の平を聖也に見せ、次の瞬間手の平の上に丸い小さな光りの玉が現れた。そしてその光の玉が消えると、手のひらの上には、聖也の手のひらよりも小さい、可愛いターコイズブルーの小鳥が乗っていた。

 その小鳥を見た聖也の表情、一気に明るくなった。

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