告白
ある日、いつものように深夜の区役所で練習していた時の事だ。
突然、元彼にストーカーされているとマサミに告白された。
一踊りして軽い疲労を感じながら床に座り、ソウルからヒップホップ、ハウスやエレクトロまで雑多に流れる曲の中からお気に入りの音を追っている時に、なんてこともないように言われて、俺は驚いた。
思わず後ろを振り返った俺の腕を引っ張り、今日は来てないみたいとマサミは言った。
実際、周りには顔なじみのダンサーばかりで、この中に知らない奴が紛れ込むのは難しく感じた。
俺は心の動揺を隠すようにペットボトルから水を一口飲みながら、チラリと横を見た。
ビルのガラス越しにマサミの表情を探ったが、普段と特に変わった様子は無かった。
そいつは高校時代の同級生で、東京の有名大学の医大生だったらしい。
名前はヤダガミと言って、医大に合格した暁にマサミを捨てたそうだ。
しかし、よく分からないが、奴は医大を辞めて地元に戻り、マサミによりを戻そうと言ってきたそうだ。
ふざけた奴だ。
当然マサミは断った。
そして、俺と付合っている事も告げたとのことだった。
それから、奴はストーカーになった。
「プライドが凄く高い人なんだよ。
独占欲が強く、バカにされることを何よりも嫌ってた」
と、マサミは奴の事をそう評していた。
「だから、大学も辞めちゃったんじゃないかな」
と何故かマサミは悲しそうに呟いた。
「シメてやるよ!
ストリートの連中に声をかけてさ!
ボコボコにして引きこもりにしてやるよ!」
俺は興奮気味に叫んだ。
周りのダンス仲間達がその声に気付き、なんだなんだといった視線を向けてきた。
マサミは焦ったように言う。
「ダメだって!
一緒にいてくれるだけでいいって!
そしたら、そのうち諦めるから」
スマホで連絡しようとする俺をマサミは必死で止めた。
その時、俺は釈然としなかったが、マサミの薄茶色の涙目を見たら引っ込むしかなかった。
次の日から、俺はマサミの大学やバイト、練習とかの送り向かいをするようになった。
初めのうちは俺も気合いが入っていた。
マサミを守るのは俺だと、ナイトになった気でいた。
マサミといる時、常に周りを警戒していた。
ちょっとやり過ぎとマサミは苦笑いしていたが、それでもうれしそうだった。
現れたら捕まえて、マサミの前に引きずり出す。
そして、懲らしめてやるんだと妄想していた。
しかし、ヤダガミは俺の前に現れなかった。
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