第184話 高校総体自転車ロード 第2ステージ 表彰式
『第2ステージ優勝は、神崎高校の青山冬希選手です!』
大歓声が上がる。
冬希はステージに上がり、一礼した後に観客たちを見下ろした。
観客の他に、出場している選手たちの姿もちらほらと見える。その数は、昨日の倍ほどはいるように見えた。
恐らく、国内で初めて負けたという露崎の顔を見に来たのだろう、と冬希は意地悪な感想を思い浮かべていた。
観客の中に、真理の姿を見つけた。神崎高校の制服を着ているので、すぐに見つけられた。小さく手を振っているので、冬希もヒラヒラと小さく手を振る。
地元の高校の制服を着た女子が2名ステージに上がってきて、一人にメダルをかけてもらい、もう一人に花束をもらう。どちらも別嬪さんだなと、冬希はぼんやり思った。
女の子たちが下がると、冬希は、片手でメダルを持ち、花束を掲げてみせた。これは撮影タイムなのだということを、冬希は経験上知っていた。
全国高校自転車競技会では、第1ステージから第10ステージまで全ステージで表彰台に上がった。一回の表彰式で四回登壇したこともあった。冬希ほど表彰式慣れしている1年生は、全国にもいないだろう。
結局、冬希たちはメイン集団とはタイム差はつかなかった。冬希と露崎、少し開いて坂東、また少し開いて、郷田を吸収したメイン集団が入ってきたが、タイム差をつけるほどの差はつかなかったというのが、審判たちの判断だった。
■第2ステージ
1位 青山冬希 神崎高校 0:00
2位 露崎隆弘 慶安大付属 +0:00
3位 坂東輝幸 佐賀大和 +0:00
『続きまして、総合成績です。第1位は、慶安大付属高校の露崎隆弘選手です』
中間スプリントでの1位から3位に与えられるボーナスタイムは、逃げていた、総合タイムに関係ない4人で消化した。
ゴールスプリントでは、冬希に負けたが、露崎自身、2位に入ったため、ボーナスタイムは1秒しか縮まらず、総合リーダージャージの移動はなかった。
露崎は、ちょっと複雑そうな表情でステージの中央に用意された小さな台に登った。
ステージで勝てなかったのが悔しいのではなく、負けた露崎の顔を見に来ている旧知のライバルたちに、ニヤニヤした顔で見られているのが、バツが悪いのだ。
露崎が見渡すと、見つけただけでも、松平、土方、草野、柴田はいる。普段は、自分の出ない表彰式には絶対に姿を現さない坂東ですらいる。
それほど、露崎がステージで負けて、尚且つ表彰台に上がるという事態が珍しいことなのだ。なにしろ、露崎が負けること自体が初めてなのだから。
表彰式に上がるということがなければ、もしかしたらこいつらは慶安大付属のテントまでわざわざ来て、負けて微妙な顔をしている自分の顔を見て、満足げに帰っていったのではないか、と露崎は思った。恐ろしい絵だ。
■総合成績(ボーナスタイム含む)
1位 露崎隆弘 慶安大付属 0:00
2位 青山冬希 神崎高校 +0:02
3位 赤井小虎 清須高校 +0:08
『スプリントポイント賞です。第1位は、神崎高校の青山冬希選手です』
冬希も、露崎も、中間スプリントでポイントは獲得できなかったが、ゴール時に与えられるスプリントポイントだけで、スプリント賞の維持はできた。
中間スプリントポイントは、1位から順に20pt、17pt、15pt、13pt・・・と与えられていくが、ゴール時に与えられるポイントは、30pt、25pt、22pt、19pt・・・と、中間スプリントより多くなっている。
冬希は、プレゼンターの女の子にグリーンジャージを着せてもらった。
明日も、スタート時からグリーンジャージを着用してスタートすることになる。
■スプリント賞
1位 青山冬希 神崎高校 72pt
2位 露崎隆弘 慶安大付属 63pt
3位 坂東輝幸 佐賀大和 59pt
『山岳賞です。月山高校の秋葉速人選手です』
ど平坦と言っていいコースだったが、途中にあった坂に無理やり設定された4級山岳を先頭通過して1pt獲得した秋葉が、昨日に続いて山岳賞を獲得した。
■山岳賞
1位 秋葉速人 月山高校 2pt
『新人賞、総合成績で1年生の中で最も総合順位が高い選手は、神崎高校の青山冬希選手です』
慌ただしくグリーンジャージを脱ぎ神崎高校のジャージ姿に戻った冬希は、またプレゼンターの女の子たちから白いジャージを着せてもらった。
明日は、またグリーンジャージを来て出場するため、新人賞2位の清須高校の赤井に繰り下げとなる。
■新人賞(1年生総合成績)
1位 青山冬希 神崎高校 0:00
2位 赤井小虎 清須高校 +0:05
3位 植原博昭 慶安大付属 +0:07
3位 立花道之 福岡産業高 +0:07
3位 天野優一 佐賀大和高 +0:07
3位 千秋秀正 洲海高校 +0:07
『以上で、表彰式を終わります。みなさま、ご来場ありがとうございました。また明日はスタート前に、最終第6ステージのルール変更と、総合成績除外についてのブリーフィングを行います』
冬希は、待機エリアに戻りかけて、立ち止まった。
第6ステージは、当初予定されていたコースが、6月の大雨によって道路がダメージを受けた影響で、自動車やバイクのレースで使用される筑波サーキットの周回コースに変更となっていた。
まぁ、明日になればわかるか、と冬希は能天気に考えていた。
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