第45話 全国高校自転車競技会 第1ステージ(佐賀空港~博多)②

 いまだに200名以上の人数を保ちながら、集団は「かささぎロード」と呼ばれる鳥栖。筑紫野道路に入って行った。

 もともと有料道路だったそうで、出口はそれぞれ「〇〇インター」と呼ばれる。

 原田インターと城山インターの間に、スプリントポイントが設けられていた。

 ちなみに、今回のステージの、唯一の中間スプリントポイントとなる。

 中間スプリントポイントは、通過順によって以下の通りのスプリントポイントが与えられる。


順位ポイント

1位:20(ボーナスタイム:-10秒)

2位:17(ボーナスタイム:-6秒)

3位:15(ボーナスタイム:-4秒)

4位:13

5位:11

6位:10

7位: 9

8位: 8

9位: 7

10位: 6

11位: 5

12位: 4

13位: 3

14位: 2

15位: 1


 スプリント獲得ポイントが一番多い選手が、緑色のスプリント賞リーダージャージを着ることが許されるため、多くのスプリンターは、この中間スプリントポイントを狙ってスプリントを行う。

 ただ、平坦ステージでは、ゴール時にもスプリントポイントが与えられるため、ゴール狙いの為に温存して、スプリントポイントを狙わない選手もいる。


 神崎高校は、かささぎロードに入ってから、船津のもとに集まってきた。

「もうすぐスプリントポイントですね」

「青山、興味あるなら行ってきてもいいぞ」

 船津が冗談めかして煽ってくる。

「船津さん、冬希が行ったところで、何かする前にもう終わってますよ」

「柊先輩、見くびってもらっては困ります。こう見えても、俺は神崎高校のスプリンターですよ。1ポイントぐらい取って帰ってきますよ!」

「たった1ポイントかよ!」

 功名心にかられた冬希は、中間スプリントにチャレンジするために、少しずつ集団の前の方に上がっていった。


「1ポイントも取れませんでした・・・」

「1ポイントも取れなかったのかよ!!」

 柊の言った通り、冬希がスプリントを行おうと頭で思った時には、既に集団スプリントは随分前の方で終わっていた。

 そもそも、逃げ集団の3人が1位から3位通過で、ポイントを獲得し、4位以降の争いだったのだ。

 4位以降の争いは、上位4人が僅差で、山梨の柴田が4位通過、北海道の土方、福島の松平、島根の草野、佐賀の坂東と続いていった。

 松平は、スプリント開始時に佐賀のアシスト天野に前を一瞬塞がれたが、それでも草野と坂東を躱して集団の3番手で6位通過、10ポイントを獲得している。

 9位以降は、熊本の小泉、鹿児島の加治木といった各校のエーススプリンターたちが獲り、残りも各校のスプリンターのアシストたちが、惰性でスプリントポイントを通過して入線していった。


「とにかく迫力がすごくって、あの中に入ろうとは思わないですね」

 冬希は苦笑しながら、定位置である船津の後ろに戻る。

「まあ、1年で初めてならそういうもんだろうな、まあ、お疲れ様」

 船津は、冬希の労をねぎらった。


 冬希の他にも、1年生でスプリントに挑もうとした男がいた。福岡の立花道之だ。

 立花は、中学時代は日本一にもなった、強力なスプリンターだった。ゴールが平坦だったレースでは、植原を倒したこともある。

 立花は、県内の公立高校に入学してそこから全国を狙うつもりだった。しかし、県議会議員である父親がそれを許さなかった。

 福岡は長らく、エースの近田徹を擁する私立福岡産業高校の一強が続いていた。

 立花の父は、他校に進学しても立花が全国に出れる可能性は低いと考え、旧知の仲である福岡産業高校の理事長と話し、立花の福岡産業高校入りを決めてしまった。

 福産の自転車部は、近田が中心のチームを作る予定だった。前年の全国高校自転車競技会では、第6ステージで落車して鎖骨を折り、リタイアしたが、それが無ければ、静岡の尾崎ともかなりの接戦になったと言われている。

 しかし、顧問も学校に雇われた教師であり、理事長の意向には逆らえない。立花をメンバーに加える以外の選択肢はなかった。

 近田、舞川、古賀、黒田といったメンバーは、立花に歩み寄ろうとした。しかし、立花の方から距離を置いた。

 父が無理矢理ねじ込んだ挙句、チームの1枠を埋めてしまった後ろめたさと、自分以外の4人は近田の総合優勝に向けてのメンバーで、ゴール前で立花をアシストすることは絶対にないという事で、立花は完全に心を閉ざしてしまった。

 チームや監督から立花への指示は何もないし、自由に動ける気楽さはあるが、ボトルの補給や位置取りの確保は、全て自分で行わなければならなかった。

 スプリントポイントが近づき、立花は熊本、鹿児島と言ったスプリンターを擁するチームが上がっていくのに合わせて、自分のポジションを上げていった。

 しかし発射台付きのスプリンター達とは勝負にならず、1ポイントも獲得できずに脚だけ使って後ろに下がることになった。

「無様だ・・・!」

 立花は、悔しさに震えた。他の選手たちは、チームごとに集結しつつある。しかし、立花には行くべき場所も話す仲間もいなかった。

 近くでは、自分と同じ1年生と思われる選手が、同じくスプリント出来ずに下がってきて、チームのメンバーと談笑している。

 負けて笑っていられるなんて、立花には考えられないことだった。同学年中では最強のスプリンターであるという自負もある。父からは、最低でも1度は表彰台に上がって来いと言われていた。

「なかよくせんといかんとよ」

 立花は、幼馴染の女の子の言葉を思い出した。歯を食いしばる。道を間違えたかもしれない。だが引き返す道などないのだ。

 立花は、ゴールスプリントまで静かに脚をためることにした。

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