第27話 おうちトレーニング

 冬希が家に帰ると、姉が晩御飯を作ってくれるという。

 どうやら帰ってくるのを待ってくれていたようだ。


「2日前に賞味期限が切れたベーコンをふんだんに使ったパスタです」

「すごい。贅沢な料理っぽく聞こえる」

 2日前ならまぁ、大丈夫だろう。

 市販のパスタソースに、トマトとベーコンを入れて炒め、タッパーにお湯とパスタを入れて、電子レンジでチンしただけの簡単なものだ。だが、一工夫として生バジルとクリームチーズが乗っている。


「このバジルって、庭のプランターから採った奴?」

「そう。お父さんが育ててるやつ」

 育てているというか、ミニトマトを育てるうえで、虫よけにいいということで植えたと言っていたバジル。定期的に姉の餌食になっている。

 母も、海鮮丼を作る時などに、同じく虫よけに植えられた大葉を採取しており、哀れミニトマトは虫に侵食されていた。今では、虫よけに植えたバジルさえ、一部は虫に食われている。


「あんた、今日もごうんごうんやるの?」

 冬希が自室で自転車の固定ローラーでトレーニングをやっていることを言っているのだ。

「毎日の日課だからね。朝より夜のほうが良いでしょ?」

「まあね」


 最近、特に姉の態度が優しい気がする。

 小さい頃は、辛く当たられている時期もあった。だが、今ならその理由がわかる気がした。

 親に言われるがまま、毎週数回、嫌々ながら柔道に行く自分に、きっとイライラしていたのだ。

 なぜ、辞めたいと言わないのか、辛いのに、不満も言わずに柔道練習に行くのか。姉からは理解不能だったし、辞めると言わせたかったのかもしれない。

 今は、多分やりたいことを出来ている。楽しいし、自宅でローラー台でトレーニングするのも、自分がレースで走れるようになっていくのが楽しいからだ。

 姉は、そういう自分を見て、幾分安心しているのではないかと冬希は思った。


 後片付けと言っても、食洗器に入れるだけだが、冬希がやって。リビングでゴロゴロしている姉を残して2階の自室に上がる。

 1時間勉強して1時間トレーニング。足の乳酸を抜くために、軽いギアでくるくる回す。そしてそれが終わると1時間また勉強。

 風呂に入るともう11時を過ぎている。布団に入る。

 今日のレースを頭の中で反芻しながら眠りにつく。あの時ああすればよかった、こうすれば良かったと思い浮かんだことは忘れないようにメモしながら眠りについた。

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