第17話 セレクション:個人タイムトライアル①

願書は無事に提出された。

冬希は、学年主任の浜池に願書を渡し、浜池は、冬希の担任の安田から、自ら調査書を受け取り、内容を確認後に発送自体は冬希の副担任の橋口が行った。


冬希は、橋口から願書を無事に提出されたことを聞き、自分のやるべきことに集中することが出来た。

平日の朝練、学力試験の勉強。

土日には渡良瀬遊水地への試走も行った。


広く、きれいな公園で、谷中湖という湖を通る道と、北側の外周を回る、一周5.5kmのコースだった。

自転車は、左側通行と左回りの厳守が求められ、歩行者も多かったのでスピードを出したりはしなかったが、一周走れただけで十分だった。


推薦入試は2日に分けて行われた。

初日は、神崎高校校舎での筆記試験。


校舎は古いものと新しいものがあり、古い方は年季を感じさせ、新しい方は、高級感もある洒落た外見だった。

試験は古い校舎で行われた。教室の中央にはストーブが置かれており、煙突が天井に伸びた後、窓から外に繋がっていた。


冬希の好み的には、古い校舎の方が落ち着いてよかった。

5教科すべて終え、わからない問題もいくつかあったが、とりあえず解答は全部埋めて出した。


2日目のセレクション当日、受験者は渡良瀬遊水地に現地集合となった。

受付で受験票を見せ、ゼッケンを受け取る。

ゼッケンには中学校名と受験番号が記載されていた。


受験者は18名。

親に車で送ってもらった人も多く、固定ローラーや、三本ローラーでウォーミングアップを行っている。

全員、本格的に自転車をやっている選手に見える。

気後れしそうになるのを我慢しながら、冬希は貸し切りになっているコースを全力で走り、心拍数を上げていく。

日々の練習の中で、一度心拍数を上げておいた方が、その後が苦しくないことに気づいた。


1周流して、もう1周全力スプリントも交えて回った後、係の人からコース外に誘導された。

自転車をラックにかけ、受験者は全員集められた。


ラックにかかっているのは全てロードバイクである。

入試要項には次のように書かれていた。


・セレクションは、タイムトライアルにて実施する。

・コースは、渡良瀬遊水地北コースとする。

・タイムトライアルバイク、DHバーの仕様を禁止する。

・受験者は15秒間隔で、係員の指示に従いスタートする。


冬希は、気になった点が1つあった。

過去に参加した個人タイムトライアルでは、「ドラフティングを禁止する」といった類の記載があった。

しかし、要項には記載がない。

スタート間隔は15秒なので、冬希は、あっという間に追いつかれる自信があった。


冬希は、ハッとなった。

(スタート間隔を短くしているのは、もしかして・・・)

と冬希の中で、とある結論にたどり着こうとしていた時、受験生の前で話していた教師らしき男の

「何か質問はありますか?」

という一言で現実に戻される。


ドラフティングについて質問してみようかと、冬希は思ってその男の目を見た。

顔全体が笑ったような形になっており、その眼鏡の奥の目からは、表情をうかがい知ることは出来ない。

だが、

だが、こちらをまっすぐ見ているような気がした。


冬希は余計なことを言うのを止めた。

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