第8話 エンデューロに参戦②

 ライダーズミーティングで、スタート後の最初の一周はゆっくり走るようにと、係の人から説明があった通り、みんな最初はゆっくり走っていた。


 冬希も、がちがちに緊張しつつも、40人ぐらいの集団の最後方について走っていく。


 一周終わったところで、集団前の方は一気にペースが上がり、後方はバラバラと振り落とされていく。


 冬希も、集団から50メートルぐらい離れたところから付いていこうとしたが、集団はあっという間に見えなくなってしまった。


 ぽつん、と取り残された冬希。

 後ろは子供と伴走している親だったり、のんびり走ろうとしている人たちで、はるか後方。

 前の方は、しっかりレースをしようとする人たちでもう見えない。


 とりあえず自分の出せる限りのペースで走ろうと試みたが、5周ぐらい走ったところでもうバテてしまった。

 レースは残り1時間20分。ありえん・・・。


 ひいひい言いながら走っていると、小学生ぐらいの子供に追いつかれる。

 芝生広場ぐらいで、その子にパパと思われる大人から「絶対に離されるなよ!」と檄が飛ぶ。


 冬希は合点がいった。

 その小学生は、冬希の後ろで空気抵抗を避けながら走っているのだ。

 たしか、ドラフティングっていうのだったか。


 そうだ。一人で走っているんだったら、別に江戸川を走っているのと変わらない。

 レースに出るのであれば、集団走行を練習しなければ。


 小学生に教えられた冬希は、よし、良いことを教えてくれたお礼に引っ張ってあげよう、と小学生を後ろに貼り付けたまま、早すぎないように、遅すぎないように、ペースを保つ。


 しかし、交代の為か、残り1時間になったあたりで、気が付いた時には後ろの小学生はいなくなっていた。

というか、冬希も限界だ。

 後方に向かって手を上げて合図しつつ、チーム参加用の交代ゾーンから芝生広場に入り、自転車を置いた後、芝生に倒れこんだ。


 息が整ってきて、空を見る。

 青い。


 シャーと、自転車の走る音がして、声援が飛ぶ。


 体を起こしてコースを見る。


 みんな頑張って走っている。

 とてつもなく速い集団があっという間に通り過ぎれば、ゆっくり走っている子供の後ろを大人が伴走している。

 どちらもカッコ良く見える。


 コースを走っている選手みんなが主役で、とても羨ましく見えた。


 よし、と体を起こすと、水を口に含み、ゆっくり飲み干す。

 自転車を起こし、再び跨り、交代ゾーンの出口からコース内に合図を送りつつ、再びレースに復帰した。


 最初は不安だったが、体を休め、レースを外から見たことにより、今は気力にあふれている。

 今日のレースの目的は、集団走行を経験すること。

 少なくともそれは達成しなければならなかった。

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