傲慢な侯爵令息様をビンタした結果、なぜか彼のお兄様に溺愛されることになりました
下柳
第1話
伯爵令嬢である私、スーザン・パーセルは、思い出したくもないとある理由によって借金を背負っていた。
そして、その返済のために私は、伯爵令嬢でありながら診療所で働いていた。
私には少しだけれど、治癒の力が備わっている。
これは、この国の一万人に一人が備えていると言われている力だ。
そんな私を、この診療所は受け入れてくれた。
そしてすぐに仕事を任せられ、いつの間にか頼られる存在になっていた。
診療所の皆とも打ち解けて、少しずつだが借金も返済している。
まあ、まだまだ全額返済には程遠いけれど……。
そしてある日、私は困っている同僚に助けを求められた。
「大変なんです! 手に負えない患者様がいて、私たちではどうしようもなくて……」
「わかりました、私が対応します」
私はその患者様の元へ向かった。
手に負えない患者かぁ……、骨でも折れているのか、それとも原因不明の病気とかかしら……。
「私は侯爵令息だぞ! いったい、いつまで待たせるつもりだ!? この診療所の悪評を広めてやってもいいんだぞ! それが嫌なら、さっさとこの私を診察しろ!」
あぁ、手に負えないって、そういう……。
そこにいたのは、順番待ちを我慢できずに喚き散らすジャレット侯爵令息様だった。
どうやら彼は出先で体調を崩し、主治医もいないのでこの診療所へ来たらしい。
ずっと大きな声で文句を言っている彼に、ほかの患者様たちは眉をひそめている。
しかたなく、私はジャレット様に説明することにした。
「あの、ジャレット様、ここではお静かにしてください。それと診療所内では、順番をお待ちいただくことになっています。それが、ルールですので」
「なんだと? 貴様、この私に意見するというのか! ……なんだ、どこかで見た顔だと思ったら、貴様、最近噂になっていた伯爵令嬢だな? 家族から見捨てられ、借金を背負わされたそうだな。それで、こんなところで働いているというわけか。こいつは傑作だな。はははははは!」
触れられたくないことに触れられてカチンときたが、私は努めて冷静に答える。
「あの、ジャレット様、先ほども言いましたが、ここではお静かに……」
「黙れ! 伯爵令嬢の分際で、この私に指図するな! いいか? そもそもだな、侯爵令息である私を待たせるのが間違っているわけで──」
いくら説明しても彼の暴走は収まらず、いつまでも喚き散らしていた。
やれやれ、本当に困ったものだ。
いつまでもこの調子だと、ほかの患者様たちの体調に支障をきたす可能性がある。
いくら注意しても聞く気はないようだし、しかたないわね……。
私は右手を振り上げた。
そして、喚き散らしているジャレット様の頬に、思いっきりビンタをした。
この結果、まさかあのような展開になるなんて、この時の私は予想もしていませんでした……。
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