第6話 大事な人を取り返すために


「ぐふっ!!」


 咄嗟に腕でガードするもその隙間を縫われ、脇腹に重い衝撃が走る。



「メージュさん!!」

「はははっ、姫を護るナイトにしては軟弱過ぎるな! シーラ! さっさとコイツにトドメを刺せ!」


 ぐううっ……このまま大人しく殺されてたまるか。


 身体を襲う激痛に耐えながらも、ナイフを持ったシーラの腕を必死で掴み続ける。

 どう考えても女性とは思えない力強さだ……でも、死んだって離すものか。



「シーラ! 止めてっ、メージュさんは私を救ってくれた人なのよ!!」

「逃げろリアラっ! 今の彼女は……キミの知っているシーラじゃないんだっ!!」


 しかしリアラは僕の制止を無視し続ける。

 泣きながらシーラにしがみついて、必死に止めようとしてくれていた。


 くそっ、僕が死んだらリアラが連れていかれてしまう。

 暗闇の世界からやっと抜け出し、せっかく外の景色を知ることが出来たのに……ちくしょう、何か策は無いのか!?



「お願いシーラ……私、ようやく貴女の姿を見れたのに……シーラを真似た人形だって、今なら上手にできるのに……!!」


 リアラは泣きじゃくりながら、手の平からシーラと同じ姿をした小さな人形を生み出した。

 どうやら最初に見たあの真っ黒な土偶はモンスターではなく、シーラがモデルだったようだ。

 目が見えない中でも、リアラは彼女を想って人形を何度も作り続けていたのだろう……。


 敵国のスパイだったとはいえ、きっとシーラも彼女を愛していたに違いない。

 その証拠に……そうだ、これならもしかすると……!!



「ごめん、リアラ。実は一つ、キミに隠していたことがある」

「え?」

「僕の祝福……『コネクト』は、自分の見たモノを相手に伝えるだけじゃない。相手の記憶や感情を、自分の中に取り込むこともできるんだ……」


 これは僕の大事な秘密だ。

 過去に人の記憶を覘いて自分自身が傷付き、それ以来封印していたもう一つの能力。



「もしかして」

「……あぁ。僕はコイツに触れ、記憶を覘かせてもらった。そしてシーラの本当の気持ちも。だから繋がせてもらうよ。一度は切れてしまった、二人の絆を」


 リアラとシーラに触れている今なら、それができる。

 二人を救えるのは――僕しかいない!



「コネクト、発動っ……!!」


 空いている方の手をリアラの頭にそっと乗せる。

 二人の間にいる僕を中継し、意識が両方を行き来していくのを感じる。


 ――成功した。これで記憶が共有され、過去の思い出が甦るはずだ。



「うぐっ……」

「……シーラ!!」


 情報を一気に脳に叩き込まれた影響か、シーラが床に崩れ落ちた。

 だがお陰で正気を取り戻すことができたみたいだな。


 息を荒くさせながら、僕を見上げるシーラ。

 その潤んだ黒い瞳には、動揺と罪悪感が混ざっていた。



「……すまない」

「良いさ……それよりも――あとは頼んだ」


 僕の言葉の意図を理解し、シーラはナイフを持った手を引いた。

 そしてヨロヨロと起き上がると、今度は騎士の方へと向き直る。



「ふっ、無駄な足掻きを。そんなナイフ一本で何ができる。貴様はイイ女だったが、こうなってしまっては仕方がない。俺が直々に始末してやろう。安心するがいい、貴様の大事な姫様は俺が大事に使ってぎゃあああっ!?」


 シーラは騎士の台詞を最後まで聞くことなく行動に移した。

 持っていたナイフを投擲し、瓶を握っていた手に見事ヒットさせたのだ。


 完全な不意打ちを喰らってしまった騎士は地面にエリクサーを取り落とし、瓶はコロコロと転がっていった。



「貴方は一々、喋り過ぎなんですよ。――さぁ、リアラ様。手伝っていただけますか?」

「シーラ……えぇ。メージュさんを傷付けた報いは受けていただきましょう!!」


 リアラの手から次々と現れる凶悪な武器たち。

 それを手にしたシーラが騎士に向かって駆けていく。


 あの様子ならもう、大丈夫だろう。


 僕は薄れゆく意識の中、男の悲鳴を聞きながらゆっくりと目を閉じていった。

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