第84話 ミサキへ
ミサキ-1の搭乗ゲートエリアへと続く通路を、僕たちは六人乗りの電動カートで進んでいく。
未だに遠くから爆発音が断続的に聞こえてくる。
「お母さん、大丈夫かな……」
運転している僕の後ろの座席から
「
言ってから微妙に励ましになっていないような気もしたが、双葉には上手く伝わったようだ。
「そうだよね!」と、明るい声が返ってくる。
隣に座る
カートの運転は初めてではないし、それほど速度も出ない仕様なのだが、状況が状況だけに、ハンドルを握る手が汗ばんでくる。
カートを走らせていくうちに通路の壁の色が変わり、ミサキ-1の台座部分の建物に入ったことがわかった。
「あと少し……」
壁面の案内板を確認しようと視線をそらせた瞬間だった。
となりの花月が突然叫び声を上げる。
「
「え、えっ!?」
その声にブレーキペダルを踏みかけた刹那、今度は後ろから、リーフが怒鳴り声を上げる。
「ダメだ! アクセル!! あれは敵だ!」
「って、ええっ!?」
確かに通路の先にグレーの服に全身を包んだ人が歩み出てきて、こっちに気づいて……あれ、なんか銃みたいなのをこっちに向けた……!?
ここまで、ほんの数秒。僕の思考がフリーズしかける。
「いいから、アクセル! 一気に突っ込んで! あとみんな座席の下へ!!」
いつの間にか真後ろに来ていたリーフが耳元で叫ぶ。
「ああっ、ゴメンナサイ!!」
僕は反射的に目を閉じながら、アクセルを一気に踏み込んだ。
ぐいんと加速がかかり……といっても、微々たるモノだけど、それでもカートは最大速度まで出力があがる。
薄目を開けると、通路の人影はすれすれのところで横へ飛んでカートを避けた。
「──!!」
無言のまま座席下にあった工具箱を投げつけるリーフの姿がバックミラーに映る。
──タタタタン!
リズミカルな音が通路に響いた。もしかしなくても銃声とかだったりして──
リーフの声が飛んできた。
「大丈夫、振り切れる!! 念のため航以外は座席の下のままで!」
「うああああああっっ!!」
僕は意味不明な叫びを上げながら、汗に濡れた手でハンドルを握り直した。
○
D-2ゲートと表示された入口の前でカートを止めると、僕は年少組の誘導を花月とリーフに任せて、ゲート入口の側にある非常用の操作盤を開けて携帯端末を接続する。
「頼むから、早く開いて……」
セキュリティシーケンスが開始され、モニタに進捗が表示される。
指示に従って、指紋と
電子音が鳴り、ゲートが開いた。
「早く中へ!」
みんなを急かして自分も中へ入った後、すかさず内側から緊急ロック設定に変更する。
もしかしたら、まだ逃げ遅れた人がいるかもしれないと頭をよぎったが、今は僕たちの安全を優先することにした。手順は今より増えるが、関係者ならロックを解除することもできるからと、自分に言い聞かせながら、施錠を確認して操作盤の蓋を閉めた。
「こっち!」
僕が先導する形で、ホールを駆け抜けてエレベーターへと走る。
ボタンを押すと正常に反応したので、僕はホッとした。
ここから搭乗ゲートがあるフロアまで十階層以上あるのだ、駆け上がるのは正直キツイ。
「兄さん、こういう時にエレベーターに乗っても大丈夫なの?」
翔が不安げに問いかけてくる。それも当然だ、一般的な災害時のマニュアルなどでは、エレベーターの使用は避けるように書かれている。
「うん、これ非常時保守用のエレベーターだから大丈夫。電源供給が断たれても数時間は動くし、他のエレベーターに比べて驚くほど頑丈な設計になってるんだ。火にも水にもビクともしないよ。万一、この建物が崩壊してもシャフトだけが残るくらい」
そう説明しているうちにエレベーターの入口が開いたので、みんなの背中を押すようにして中へ入った。非常モードで動作しているのか、中の照明は薄赤色になっている。
さすがに不安そうな表情を浮かべる年少組たちの様子に、花月がコホンと小さく咳払いをした。
「それでは、上へ参りまーす!」
陽気に声を上げつつ、操作ボタンを押して扉を閉める花月。
「ここからはサービス運営専攻のわたしの仕事だからね」
そういってウィンクしてみせる彼女に、リーフを除く全員が苦笑いを浮かべたのであった。
「急いで! あなたたちで最後よ!!」
搭乗ゲートの前にいた
僕らが駆ける足音が無人のロビーに響き渡った。
側にいた
「全員いるわね?」
「はい、
「報告事項があるなら素早く手短に!」
教官の叱咤に背筋が伸びた。
「はいっ!地下通路での移動中、正体不明の人物に銃撃されました」
僕が答えると、教官は頷いてから、軽く僕の肩を叩いた。
「建物内部まで浸透されているのね……わかったわ。よく無事にここまでたどりついた、頑張ったわね」
そのねぎらいの言葉に、僕は気が弛んでしまったのか、思わず涙ぐむ。
そんな僕の肩に手を置いたまま、教官は後ろのリーフたちに声をかける。
「申し訳ないけど、あなたたちにもミサキ-1に搭乗してもらいます。本当なら、ここから護衛を付けて安全な場所まで送るべきですが、不可能な状況です」
僕たち以外にも保護された一般人がいて、すでにミサキ-1に搭乗していること、一旦、ここから脱出し、地上の安全が確保されたタイミングで、必ず地上に送還するということ。そして、これは緊急避難による強制の措置であることを、相手が子供たちであるにもかかわらず丁寧に説明する桂教官。
リーフは無言で、双子と翔は緊張した声で返事をしながら頷いた。
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