第55話 闇王戦、合流

「やらかしてくれたじゃないか、ぼん


 大きな斧を担いだ壮年の女性が声をかけてきた。梁山泊りょうざんぱくのアンネローゼ様だ。

 さらに、サウザンアイズのシグムンドきょう三月さんがつウサギのフェンランさんの姿もある。


「まあ、話は聞いたが、つるし上げるのは後回しさね。今は、コイツらをなんとかするよ!」


 アンネローゼ様のパーティメンバーが、孤軍奮闘こぐんふんとうしているアオを支援しようと僕たちの前に割り込んでくる。

 フェンランさんが駆け寄ってきた。


「とりあえず、今はそちらのパーティ同盟に参加させてください、今、シグムンドきょうから申請があるはずです」


 その言葉とほぼ同時に、情報画面に通知が出て、僕は言われるまま申請を許可した。

 三大ギルドの偵察部隊、改め援軍部隊は六パーティ二十四名、攻守のバランスが取れた精鋭部隊。その証拠に、混乱の中へ突入してきたにもかかわらず、崩壊しかけた僕たちの戦線を立て直す時間を稼いでくれていた。


「まあ、真打しんうち登場ってヤツだな、仲間の危機に駆けつけるヒーローってヤツさ」


 余裕ができたアオが、後ろから僕の肩を叩いてきた。

 僕は素直に感謝の念をアオに伝えようと振り返る。


「あ、アオ、ありがと……って、ぶふっ!」


 だが、アオのドヤ顔を見た瞬間、思わず吹き出してしまう。


「な、なんだよ、せっかくカッコよく助けてやったのにその反応!?」

「いや……だって、その顔……くくっ……」


 ダメだ、こんな状況だけど堪えきれない。アオの顔はギルドハウスに放置していたときに落書きされた状態のままだったのだ。額に書かれたの文字、太く塗りつぶされた眉、頬に赤丸、鼻の下に三本髭。これで笑うなというほうが無理だ。

 その時だった。僕の身体が激しく光る。


『えっ?』


 僕とアオの声がハモる。この光はケットシーの危険感知スキルだ。ということは。

 三体のボスの瞳が光り、僕たちのいる場所へ向けて光線が打ち込まれてきた。


『うああああああっっ!!』


 反射的に回避行動をとる僕とアオ。

 距離を取ろうと壁際へと走って行くが、赤と青と緑の光線が入れ替わりに襲いかかってくる。

 思い出したかのようにリーダー狙い攻撃を繰り出してくる闇王やみおう

 だが、それを知ってか知らずかアンネローゼ様の怒号が同盟チャットの中に響く。


「ちょっとぼん! 逃げ回ってないで指揮をりな!」

「そんなこと言われたって敵の攻撃から逃げるので精一杯……ってうわぁっ!?」


 急に身体が浮き上がって僕は驚きの声を上げる。

 なんと、アオが僕の身体を右脇に抱え上げたのだ。


「こうなったら逃げるのは俺に任せろ!!」


 そう言うと「ほっ、よっと!」などというかけ声と共に、光り輝く僕を抱えたまま壁に沿って闇王たちの光線攻撃を避けながら走り出す。

 さすがはマッチョ剣士、僕を抱えて逃げ回るのは楽勝なのか。


「ってか、それどころじゃない」


 僕は両手で頬を軽く叩くと、あらためて戦場をみやる。


「どうやら、闇王は眼からのビームで僕を狙いつつ動くみたいです。なので、その動きに合わせて触手の付け根を狙ってください。触手での攻撃の時に隙ができます。あと、両手の武器の攻撃、特に赤の円刃は気をつけて!」


 敵の動きと攻撃のタイミングを観察しつつ、同盟チャットを利用して全員に情報を伝達する。

 覚悟を決めたメンバーたちの中から、さらに選び抜かれた精鋭部隊だ。互いに連携を取りつつ、敵の攻撃を躱すどころか、上手く攻撃を誘導して、空いた隙へと攻撃を叩き込んでいく。


「うおりゃあーーーーっ!」


 伸びてくる触手に両手斧を叩きつけたかと思うと、その反動で身体を翻し、そのまま斧ごと回転しつつ触手の根元へと突っ込んで、ダメージを叩き込むアンネローゼ様。

 その凄技に他のパーティからも歓声が上がる。

 一方で、シグムンド卿の指揮のもと、触手の攻撃対象となったメンバーたちが訓練された動きで左右に分かれ、その結果、できた触手の谷間に魔法の一点集中攻撃が打ち込まれる。


 ──ぐおおあぁぁっ!!


 闇王の一体が激しい苦悶くもん雄叫おたけびを上げる。


「さすがは三大ギルド、格が違うなぁ……」


 僕はアオに運ばれていることで、戦場全体を眺める余裕ができていた。

 この状況では僕が焦ってもしかたない、開き直ってアオに全てを委ねてしまう。


 壁沿いに光る僕を抱えて走るアオを追いかけるように、三体の闇王が続き、それらに追いすがりながらダメージを加えようとするプレイヤーたち。

 結果的に、ギャグアニメのような光景が展開してしまったワケだが、僕も含めて当事者であるプレイヤー全員はもちろん必死に戦闘を継続していく。


「なんか、こう久々に燃える展開──ってヤツだな」


 興奮している様子のアオに、僕は苦笑してしまう。


「と、いってもアオは僕を担いで逃げてるだけだどね」

「うっせ、だったら俺も戦線に参加できるように、なんとかしやがれ」

「まあ、そうなんだけどね──」


 僕は意を決してアオの顔へと視線を向ける。


「その、あの時は悪か──」


 ──ドカーン!!


 闇王の集中攻撃が至近に着弾した。


「あー、なんか言ったか!?」

「な、に、も、言ってないっ!!」


 僕は頭を振って思考を切り替える。

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