第70話

 サンマが好きっていうのは、このキャラの設定なの?それとも私のこと?確かに魚の中では一番サンマが好きだけど。言ったことあったっけ?

「大根おろしとポン酢でサンマを食べるのが大好きで、丸っと太ったサンマを食べるとそれだけで幸せになれます」

 いや、優斗はなんで知ってるの?

 不思議な顔して優斗を見ると、優斗がにぃーっと笑った。それと一緒に画面の春も幸せそうに笑う。

「まさかのサンマ!」

「スィーツ類じゃなかった!」

「サンマはうまいから仕方がない!」

「ちょっと今からサンマ買ってくる!!」

 と、コメントが流れていく。

「次の質問です。好きな男性のタイプはどんな人ですか。アドリブ」

 ん?

「アドリブ?」

「アドリブができる男性ってことか?」

 あれ?

 優斗がノートに慌てて文字を書く。

 アドリブって書いてあるところは台本に書いてないことしゃべって!

 うえ?

「あ、アドリブって、その、いえ、だ、台本にそう書いてあったから、あああの」

 あわわわ、焦って言わなくていいことを言ってしまった気がする。

「台本?」

「台本??」

「どゆこと?台本?」

 どうしよう……。これ、大失敗だ。

「やっぱり、一人で配信してるわけじゃないんだ」

「彼氏持ち?旦那持ち?誰と配信してるんだ?」

 優斗が隣で青い顔をしている。

「彼氏も旦那もいないって否定して!」

 と、優斗が殴り書きでノートで支持をする。

「あいや、あの、台本を書いてくれてるのも、一緒に配信しているのも、旦那でも彼氏でもなくて、旦那も彼氏もいないから……あの……」

 息子ですって言えないよね。そこまで言って言葉に詰まる。

 優斗がノートに文字を書いた。その文字を何も考えずに口にする。

「お兄ちゃん」

 はい?優斗がお兄ちゃん?そういう、設定?

「来たー!お兄ちゃんだって!」

「35歳の春たんの兄!」

「いい、40歳のお兄ちゃんだってオッケーってことだ!」

「俺もお兄ちゃんって言われたいぞ!46歳にもお兄ちゃんって呼ばれる権利があった!おじさんじゃない!」

「いいなぁ、お兄ちゃん、弟だったら俺にもワンチャンだったのに!なぜ俺はまだ32歳なんだ!」

 なんだか、なんとか乗り切ったの?

「お兄ちゃん……えっと、兄……その、家族でやっています……だから、えーっと、あ、その、質問の答えですね。好きな男性のタイプ……」

 助けを求めるように優斗に視線を向けると、優斗は今度は何もノートに書いてはくれない。さっき目に入ったお兄ちゃんの文字が目に留まった。

「お、お兄ちゃんみたいな人……」

 と、思わず口にする。

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