第27話 崩壊の果て
数時間の宇宙旅行を経て、聖女たちは月へと到着した。
「宇宙服は必要そう、博士?」
「いいや、必要なさそうだよ。さすがは異世界の月だね……観測結果から分かってたけど、地球並みの重力とちゃんとした大気が存在するみたいだよ」
エルの質問に答えるハツミ。月には地球を模した重力と大気が存在したのだ。その安全を確認した一同は、準備していた宇宙服をそのままに、機外に出る。そこには、薄暗い空と真っ白い荒野が広がっていた。
「……周囲に生命体は存在しません。その痕跡も存在しないようです」
機体を切り離した『機巧の聖女』ノエルは、周囲を調査しながら一同に告げた。
足下に広がっている大地を構成しているのは、生気のない白い砂と荒れ地。そこは一切の生命が存在しない死の平野らしい。地平線の果てまで、一本の木々もなくわずかな起伏がある程度。
そんな不思議な光景に一同が言葉を失っていると、周囲に別の気配が突然現れ始めた。
「……やっぱりここが本拠地なら、手荒な歓迎があるだろうね! 全員戦闘準備!」
『硝煙の聖女』エルの号令で、全員が身構える。
同時に、ノエルは分離した月着陸艇を発射させ、空中で待機状態へと移行させた。月から帰るための手段を破壊されないための措置だ。
そうやって、聖女たちが戦うための準備を進めている間にも、次々と気配が出現する。
それは空中や地中からわき出るように現れる、あらゆる姿の
地上で良く見る人型の
「ノエル、ハツミ博士、
「はい、調査と対応のために相応の時間が必要となります。現在、
「常時報告するけど、情報が集まれば用意したプランのどれかがきっと使えるはずだよ。拠点を作りつつの防衛戦になるけど、指揮はエルにお任せするよ!」
「了解、じゃ予定通り月着陸後の作戦は、プランA! 『まずはみんなで大暴れ!』、みんな、好き勝手暴れて良いからね!」
「「「「「了解!!」」」」」
聖女たちは、揃いも揃ってやる気十分。
周囲一帯を埋め尽くす勢いで押し寄せる崩壊者を前に、全員が全力で戦い始めるのだった。
エルは、全体の指揮を担当する。通信機で常に周りと連絡を取りながら、彼女は自分の力を最大に活かせる相手と組むことにした。
「よし、ノエル! 武器の管理は任せたよ!」
「はい、承知しました。生成された武器を接続します。接続可能数は、現状700個ほどと想定されます。では、接続後戦闘を開始します」
最初の聖女エルと最後の聖女ノエル。女神の加護の力によって、エルは武器を生み出し、ノエルは接続した機器を全て自分の一部として扱う。その結果、『機巧の聖女』エルは数百の銃器が接続された鋼の要塞と化した。
その弾幕の背後で、『発明の聖女』ハツミは持ち込んだ装置を展開。次元魔法を活用して造り上げた空間を折りたたむ機構により極限まで圧縮された自動機械の群れが展開する。小さな機械が現地の素材を使用し大きな機械を組上げる。そして、瞬時に月の荒野に巨大な構造物が出現した。
「よし、自己展開型防衛拠点『ディプロフォート』展開完了! 続いてわたしの武器も展開開始!」
展開された拠点の内部で、自動機械たちが組上げるのは、巨大な外骨格装甲服、高度な自律能力と調査機能を備えた無敵の巨大ロボが拠点で組上げられ外へと踏み出してきた。すぐにそれに乗り込むハツミ。
「搭乗完了! あっはっは、地上では披露できなかったからこっちでは大暴れさせて貰うよ! あ、弾丸の補給はお願いね!」
「あいよ! ま、今回の私の役目は兵站管理ってところだからね!」
優れた自己生成能力や、空間圧縮能力があっても消耗品である多数の弾丸全てを用意するのは限界があった。だがエルがいれば、ほぼ無限に弾丸を補給することが可能なのだ。
召喚されてから、始めて全力で戦闘を開始するハツミとノエル。彼女たちに負けないように、他の聖女たちもこれまで以上の力で大暴れを開始していた。
「今日のために、力をたっぷり貯めてきましたし……ここなら全力を出しても、大丈夫ですよね!」
『超能の聖女』カリンは、生まれて初めて全力を出してみることにした。地上で貯めに貯めたエネルギーを爆発させ、全力で地平線を埋め尽くす軍勢に、念動力をぶつける。渦巻く破壊の力は全てを分解し、月の地表すら削り取っていった。
「やっと盾の力の使い方が分かってきたから、ちょっと練習させてね!」
『鉄拳の聖女』リューコは、全身を女神の加護によって防護した。そうすることで加護の力を、最強の守りであり最強の武器として身に纏ったのである。さらに攻撃の瞬間、手脚の延長に展開した盾を巨大化させる。そうすることで、まるで巨人のように
「あはは、なにこれ楽しい!」
元気に笑い声を上げながら、リューコの拳が月の大地に突き刺さる。
巨人型の
「リューコはすごい技を見つけたみたいですね……私も負けてられませんね」
刀を手に、するすると進む『霧刃の聖女』シズク。これまで彼女の霧の力は、
手にした愛刀の刃に沿うように、霧の力を纏わせる。刀がどこまでも伸びていくように霧を伸ばし、一閃。
すると、果てしなく長く伸びた霧が刃となり、シズクの眼前の敵を切り裂いていく。
霧を枝分かれさせれば、刃は無限に増えていく。やがて、使い方を把握したのか、シズクは霧を纏った刃を縦横に振って敵陣を切り拓いていくのだった。
ただの一刀で、軍勢が小間切れになる。巨大な相手でも伸ばした刃が切り裂いていく。幻惑を纏い、隠れた敵を霧で探し出し、シズクは目に映る全ての
「……ここです、見つけました!」
そして『霊威の聖女』タマキは、魂の痕跡を辿り、
すぐさまその情報はハツミに共有される。ハツミは拠点の中で動き続けていた
この世界から、
そこで、ハツミは恐ろしいことに気付いた。
勇者ワタルが、この世界を救うために呼び出した聖女。それはこの世界のために、他の世界からやってくる存在だ。
召喚時に女神の加護という、この世界を救うための力を与えられた聖女たち。
それは、エネルギーをこの世界に与える存在。つまり、
崩壊者はこの世界からエネルギーを奪う存在。熱的死に抗うために、他の世界から全てを持ち去る脅威。
その本拠地に、力の塊とも言える聖女たちがやってきたらどうなるだろうか?
「…………しまった! 全員、ここから逃げないと!」
「そうか、この
月に存在した
月の大半を飲み込み、崩壊させるとともに、巨大な穴は消滅した。
あとには静寂だけが遺された。
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