第20話 決戦の終わり
完全なる巨人型の
王を模した騎士型の
2人は、現状での最強戦力といって過言ではないだろう。すでに、彼女たちは辺境都市ヴェンターを襲う脅威を単独で撃破しているのだ。たったひとりで、どんな強敵でも倒しうる、そう王女や勇者が信頼しているからこそ彼女たちはこの場を任されたのである。
騎士型の
彼女は、元の世界では超人的な格闘家だ。多くのライバルと切磋琢磨しその腕を磨き上げ、そして自分たちの夢を妨害するような敵を相手に、その力を振ってきた。
生身で、格闘ゲームのような動きができる超人。それが元の世界でのリューコだ。ライバル達も同じような超人ばかり。そして、そんな超人と戦う時のリューコには、ひとつのクセがあった。
強敵と戦う際、彼女は笑うのだ。それが師匠たちから習った心構えであり、強い敵と戦えることを喜ぶリューコの本心だ。
そして、リューコは今、
強い、ただそう思った。
これまで戦ってきた巨人のような
だが、眼前の騎士からは、達人のような気配がするのだ。足運び、剣の持ち方、こちらに向ける気配、どれをとっても自分がかつて戦った達人たちと同じであった。
さっき王女様は、騎士型は自分の父親を模した
一瞬で距離を詰める騎士。その手にしている大剣は、おそらく王城で拾ってきたものなのだろう。なんらかの魔法がかけられた見事な剣であった。
それを王国最強の剣士が振う。真っ直ぐに、空気を切り裂いて大剣がリューコを襲う。
その剣をひょいと躱すリューコ。剣の表面に描かれた呪文を綺麗だなと思いながら、
大剣を握る手を殴られて、大剣が吹き飛ぶ。だが、手から離れた大剣が地に落ちる前に、リューコは次の一撃。
鎧騎士の黒い胴体に2発。ドドンと重なって聞こえるほどの速度で拳をたたき込む。その衝撃に騎士が後ろに吹き飛ばされる。
リューコは軽く地面を蹴って、吹っ飛ぶ
王城の壁を突き破って内側に飛び込む騎士とリューコ。倒れる騎士の頭に拳、胴体に拳、全身に拳の連打を叩き込む。
加護の力で拳に障壁を展開し、それを武器に殴り続けるリューコ。
最強の騎士の力を奪い、聖女を返り討ちにしようとしていた騎士は、たったの一撃も反撃できず粉砕されてしまうのだった。
「……あ、お城の壁、壊しちゃった! 強敵だったから、ついつい力が入っちゃって、周り見てなかったー!!!」
悔しそうに呟くリューコ。
一方その頃、もう一つの決着もあっさりついていた。
巨人が堀の中で立ち上がる。超能力の一撃で、吹っ飛ばされたものの、そんなもの効いていないとばかりに、巨人は腕を伸ばしカリンに掴みかかる。
その腕を、カリンの超能力が叩きつぶす。
意志の力で物体を操作する念動力、いわゆるサイコキネシスを、カリンは自分の手の延長だと認識していた。
遠くのものを持ち上げる時は、透明な手が伸びていってそれを掴んでいるようなイメージだ。
だが、今回のカリンはその透明な手を攻撃に使っている。しかも、元の世界と違ってエネルギーは無尽蔵。
王都周辺からは、
王都上空を吹き抜ける風の力、王都の堀に流れ込む水の力、王都の都市を支える大地の力。
それを練り上げて、カリンは自らのテレキネシスへと転化する。
今回、巨人と戦うにあたって、カリンがイメージしたのは巨大な手だ。
目の前の巨人よりも大きな手、それを無数に連想した。
時を同じく、丁度リューコとカリンの元に、シズクとタマキも合流しようとしていた。
シズクは
カリンのテレキネシスが霧を押しのけて、透明な力の手がうっすらと浮かび上がっているのだ。
カリンは、その巨大な手で
黒い泥で作られた巨体が、凄まじい力で歪む。一瞬で巨人の腕は圧縮され、ただの煙となって散っていった。
別の手が巨人の胴体を掴む。堀からそのまま持ち上げて空中につり下げる。次々に手が巨人の体に掴みかかる。
そして、握りつぶされた巨人は、一瞬で煙となって散っていくのだった。
「……あれ、リューコおねえちゃんが、もうお城の中にいる? ……今からそっちに行くねー!」
王城からぶんぶんと手を振るリューコを見かけて、カリンは超能力でひとっ飛び。
同時に、壊れた橋の残骸をぴょんぴょんと器用に飛び渡ってくるのはタマキを背負ったシズクだ。
4人の聖女は合流し、さて王城の仲間たちを手伝いに、王城の中へと突入していくのだった。
――――――
そして、王城でも戦いは続いていた。
兵士たちは手分けして、王城の各所を確保し安全確認をしていく。
王城に残っていた
そして、とうとう王女と勇者は王城の中央部へと辿り着く。
そこは謁見の間、そしてその広さから王城に押し寄せた
そこにはもう、
そして王女と勇者が立ち尽くしていると、エルの部下たちが王城全域の安全確保を行った知らせが伝えられた。
聖女たちも集合し、『霧刃の聖女』シズクの加護によって、王城にもう
こうして、王女一行は王城を取り戻した。
王城から逃げ延びて数ヶ月、とうとう彼らは旅の大きな目的を果たしたのだった。
エルの部下である兵士たち。その大部分はかつて騎士だった者たちだ。
彼らは歓声を上げて、王城を取り戻したことを喜んでいた。
王女ワンダも、この地で命を落とした父と母のことを思い、そして自分たちが
聖女たちも、彼女たちが召喚された大きな目的を果たしたことを喜び、笑い合っていた。
そして、勇者ワタルは、この次にどうするべきかを考えていた。
聖女たちは強かった。自分の思う以上に強かった。
ならば、次の目的だって達成できるだろう。
そしてそのためには、さらなる聖女の召喚が必要になるだろう。
そう思いながらも、今だけは全てを忘れて喜んで良いだろうと思って、勇者ワタルは王女ワンダに抱き付いて、大いに喜びの声を上げるのだった。
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