第7話 チラ胸

「へえー、太郎さんって凄い神秘の力があるんですう。私、魔法や神秘がサッパリなので、すごいですう」

 ボニータは、「ぴと」という擬音語がしっくりくるように太郎の服を掴んでいる。


 白いニット帽から覗くあどけない笑顔。

 16歳というが、まだ12,3歳くらいに見える。


「う、うん。一応は神官だからね・・・」

 太郎は少し早苗を気にしているようだ。


 ボニータは、くい、という感じで太郎を下から覗きこむ。

「太郎さん、なんだか安心しますう。ね、ずうっと手を握ってていいですかあ?」

 太郎は、にこりと笑いかけるが、ふとボニータの襟元から微妙に小さいピンク色のものが見えていることに気づいて、慌てて視線を逸らした。


「あっ、私、またブラジャー忘れちゃったあ。テヘっ。ちっぱいだからヘーキですう。あ、太郎さんひょっとして見えましたですう? わたしのつるぺた」


「ちょっと太郎くん?」

早苗は少し注意するが、

「い、いやゴメン! その・・・」

「けど、太郎さんならヘーキですう」

「ボニータちゃん、ちょっとくっつきすぎ・・・」

 

ボニータは自慢のつるぺた胸をぴとりと太郎の腕に押し当てており、早苗は少しばかりむっとしているようだ。


「どうも私たちはお邪魔みたいね、さ、行きましょミルキさ・・・」

 そう早苗が言いかけてミルキを振り返ると、

 ゴゴゴゴゴ・・・

 と暗黒の魔力で空気が歪んでいた。


 ミルキの周囲に、即死系統の魔力の球が浮かび上がっていた。


「ミルキさん!? そんなに即死矢を出しちゃだめよ?」


「ずいぶんと、一瞬で仲良くなったようねえ、太郎・・・そんなにチッパイの方が好きだった・・・? どおりで、私にほとんど興味ないワケよネエ!?」

 ミルキは怒髪天で、銀色の髪が逆立っている。


「ミルキさん、そんなじゃないよ!」


「あーれえ? ミルキさんは、太郎くんと私が手を繋いでるのがイヤですかあですう」


・・・・・・・・・・・


「・・・早苗のパーティはまずまずの状況か。さて、他はどうなったかな?」

 俺は、遠くまで飛ばしていた”百里眼”の蜻蛉を山々に飛ばして見下ろしていた。


「・・・冒険者、ボージャン、レイミー、キズー、アウトか。大者ゴブリン《ホブゴブリン》くらいに負けてるようじゃあな」


 千メートル離れた距離で、早くも冒険者パーティが全滅寸前だ。

 大物ゴブリン《ホブゴブリン》の膂力を侮っていたらしい。大者ゴブリン《ホブゴブリン》は、通常ゴブリンの四倍もの大きさで、並の戦士三人分の力はある。


「ここで死ぬならそれまでだけど、鍛えればもう少し強くなる余地はあるかな・・・」


見た所、新米冒険者のレイミーは、なんとかしてまだパーティを生き残らせようと剣を必死に振るっている。

「みんな、そこに岩場まで逃げればなんとかなる!」

どうやらリーダーらしいレイミーが、ダメージを負ったボージャンとキズーを逃そうとしている。


 俺は石ころを一つ拾い上げる。

 目的は早苗を鍛えることで、他は知ったことじゃない。

 しかし、見殺しにする必要もないだろう。

 ピン。

 と石ころを弾くと、それはとんでもない弾丸となって一直線に空を駆け、そしてレイミーの眼の前の大物ゴブリンの首に突き刺さった。


 痙攣してから、大者ゴブリンは息絶える。

「や、やった・・・? 誰かが助けてくれた・・・?」



(剣の筋はいいが、腕力が足らなすぎだぜ、レイミー。筋トレからやり直せば、そこそこの腕にはなる・・・・)

 俺は心中でそう思う。


”百里眼”のトンボを飛ばしてみているが、どいつもこいつもまさに『銅級勇者』志願者という実力で、ゴブリンや一角兎ユニコーン火蜥蜴サラマンドラのような初級モンスターにかなり苦戦している。


「会長さん、あんたをやってるな」


 そこには弓を構えた男がいた。


「今のはなんだ・・・? 指で弾いただけで、あれをやったのかい・・・? クロリア会長」


ジェフリー・レイアーチャーだった。


「・・・お前には、試験生のサポートの役割があるはずだ」

俺は少し腰を浮かせた。

ジェフリーは今にも飛び掛かってきそうな様子だったからだ。


しかし、彼の体から殺気は消えた。


「いや・・・会長さん、あんたが実力を隠してるのは知っていたが、それにしても今のは異常だぜ? ・・・・どういう意図で、この学園に入って、そんなヘンテコな役割をやってるんだい?」


「・・・・答える必要はないな。ジェフリー、会長の命令だ。さっさと試験生のサポートに行け」


 ジェフリーは、素早く弓矢を構えた。

 矢じりで俺の眉間に狙いをつけている。


「いや、これなら少しは答えてくれるんじゃないか? 会長さんよ」



 

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