その3

 友達が送ってくれたページは全く知らない配信サイトのようなページだった。

 配信タイトルは【茜の視覚生配信】と書かれており、画面に映し出されているのは、今私が見ている視界そのものだった。

「何よコレ……」

 ページをよく見てみると、現在の配信閲覧人数が表示されていて、現段階で351人がこの配信を見ているらしい。配信画面の下には配信を見ている人のコメントがリアルタイムで表示されていた。

『茜ちゃーん! こんこん』

『いつもこのサイトなんて見ないのに、機器のメンテでござるか?』

『おっ、今俺のコメントを見たぞ。つまり、俺のことが気になると』

『違うって、俺のことを見たんだって』

 そんなコメントが急激に流れてくる。

 一体何が起こっているんだろう? 私には何がなんだか分からずにパニックになっていた。

 唯一分かることは、私が見ている景色そのものが何らかの技術により配信サイトで配信されており、配信中に音は一切流れておらず無音状態ということだ。

 つまり、五感の中で私の視覚のみがこの画面に流れている。

 一体どうして? 友達から更にショートメッセージが届く。恐る恐る見てみると、

《そのサイトはどうやら一ヶ月前に突如配信を始めたみたい。何か心当たりとかは無い?》

 と書かれていた。

 一ヶ月前、私は何かしただろうか。配信……音はなし……視覚のみ……、

「あっ!」

 すっかり忘れていたことを突如思い出した。そうだ、視覚といえばアレしかない。


 そう、【パーソナルシェア】だ。


 そういえば共有するものを入力したのも丁度一ヶ月前くらいの話だ。考えるとしたらもうそれくらいしかなかった。

 私は急いでスマホを取り出して、ダウンロードしたアプリから【パーソナルシェア】を探す。しかし、見つからない。あっ、何も起こらないからってすぐ消したんだっけ。汗ばんだ両手で焦りながらアプリページから再ダウンロードしようと、【パーソナルシェア】を検索する。


 しかし、検索結果は《お探しのアプリは存在しません》という表示をするのだ。


 嘘ッ。確かに私は【パーソナルシェア】をダウンロードして、視覚を全員と共有するように設定したのだ。なのに、存在しないなんて。

 私はアプリページのありとあらゆるページを探したが、【パーソナルシェア】というアプリそのものを発見することが出来なかった。

 もしかして、何か問題が起こったから急遽配信停止になってしまったのかもしれない。配信停止になってアプリは消えてしまったのに、共有だけは生きているんだ。

 仕方ない。ココは配信ページの方を止めるしかない。私は配信ページに戻って、ログインボタンをタップする。すると《パスワードを入力してください》と表示された。

「パスワード? パスワードってなんだろう?」

 私は早くこの配信を止めようと焦ってしまって自分の持っているSNSのアカウントや通販ページのパスワード、自分が知っている限りのパスワードを試してみたがダメで、しかも、何度も間違ったパスワードを入力したもんだから、ロックがかかってしまった。

「どうして、なんで入れないのよ!」

『なになに? 茜ちゃん何してるの?』

『凄く視線がキョロキョロしてるねー、可愛い』

『ロックかけられてるー。草』

 焦る気持ちの私のことなんて知らない閲覧者たちは呑気にコメントで私のことを煽ってきているのが見えた。そのようなコメントが増えるたびに私の焦る気持ちが更に募っていく。

「そうだ。ページを違法だと通報すれば配信が止まってくれるかもしれない」

 大体何処の配信サイトでもあるハズの通報ボタンを私は一生懸命探すのだが、ページを探しても通報窓口が見つからない。

 つまりはこの配信は延々と私の視覚を流し続けるのだ。

 私の生活、もしかしたら鏡に映った私自身も配信してしまっていたのかも知れない、それに……。

 そんな私を見ず知らずの数百人が見つめているのだ。ずっと、24時間。私の視覚は監視されているんだ。

 私の顔がだんだん血の気が引いていく。

「やだっ……誰か助けてっ!」

 私はすごく怖くなって配信のページを閉じるとスマホを放り投げて急いで布団の中へと潜り込み。真っ暗な世界の中でひたすら泣き崩れた。

 【パーソナルシェア】なんてアプリダウンロードしなければ良かったんだ。そうしたらこんなツライ目に遭わずに済んだのに。

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