おねショタ戦争

お餅ミトコンドリア@悪役ムーブ下手が転生

プロローグ


「ひっく……ひっく…」

「おい、もう泣くなよ。ちょっと擦り剥いただけじゃん」

「ひっく……だって……ひっく……だって……」

「ジョシュア! 頑張れ! 俺も頑張るから!」

「マイク、無駄だって。ジョシュアがそう簡単に泣き止むわけ無いよ。っていうか、それは一体何の応援?」

 レオは、いつまでも泣き止まない友人を前に、「ああ、もう」と言いながら金髪を掻き毟り、ため息をついた。

(ジョシュアは、一度泣き始めたら頑として泣き止まないんだよなぁ。以前、剣士ごっこをしている最中に壁に頭をぶつけた時なんて、日が暮れるまでずっと泣き止まなかったし)

 鬱蒼とした森の中に佇む三人の子どもたち。彼らは、ショタ国の貴族の子どもたちだった。付け加えるならば、マイクとジョシュアは一般貴族だが、レオは次代国王となるべき、ショタ国の王子だった。ショタ国の国民は、生まれたときから見た目が八歳~十歳ほどで、それは死ぬまで変わらないのだが、彼らは見た目よりも更に幼く、まだ五歳である。

 本来ならば、御付きの者無しで王子が外を出歩くなどあってはならないことで、あまつさえ子供たちだけで国境の森に入るなどというのは言語道断だった。しかし、王子とは思えないほどの腕白なレオは、何か面白いことを思いついては、仲の良い二人の友達を誘って悪ふざけをするのが日課だった。

(ああ、今頃ヴィンセントはお冠だろうな。でも、帰り道分かんないし)

 眼鏡を掛けた教育係の神経質な顔を思い浮かべてげんなりするレオ。いつの間にか太陽はその高度を下げ、あたりは夕闇に包まれつつあった。


※―※―※


 事の発端は、昨日マイクに言われた一言だった。

「国境には、決して踏み行ってはいけない森があるんだってさ」

 そんなことを言われて、好奇心の塊であるレオが黙っていられるはずがなかった。案の定、その翌日には森に探検に行くことにした。

「探検か! 探検したら、もっと強くなれるよな! 俺、頑張る! そんで、父ちゃんみたいになる!」

 近衛隊長である父親に憧れて、何かあれば「頑張る!」が口癖のマイクは、とても前向きな一方、前向き過ぎて自分がやろうとしている行動の善悪をあまり考えないところがあり、レオにとっては悪巧みに巻き込みやすい最高の友達だった。


 そして、もう一人の友達は――

「え……でも……許可なく壁の外に出ちゃいけないって、お父さんが言ってたよ?」

「良いんだよ、バレなきゃ。一緒に行こうぜ。それとも、俺とマイクだけに行かせて、お前は来ないのか? 俺たち親友だと思ってたのにな~」

「え……そ……そんな……。わ……分かったよ……。僕も行くよ……」

 気弱なジョシュアは流されやすく、これまた悪巧みに巻き込みやすい、レオにとって最高の友達だった。

 まずは前日の内に用意しておいた、炊事場からくすねたパンと皮革に入れた水を持って、森に近い西側の城壁の警備が交代する直前の早朝に、予め調べておいた警備の死角となる城壁近くの木の下に三人で集合した。

 実は西側の城門近くの城壁には、パッと見では分からないが、小さな穴が開いている。


 レオが、数ヶ月前に父親である国王に、次のように進言したのだ。

「父上! 国を良くするための考えが思いつきました! お姉さん国の人たちは総じて背が高いと思われます。それでしたら、もし戦争になり、戦いに敗れた我が国の兵士が逃げ帰って来たと想定した場合、ショタ国の兵士は通れるけど、お姉さん国の兵士が通れないような小さな穴を作っておけば、城門を開けずとも、我が国の兵士が安全に逃げ帰ることが出来るのではないでしょうか?」

 それを聞いた国王は、「おお! わずか五歳にしてこの聡明さ! 我が息子ながら、天才じゃ!」と、手放しで息子を称賛した。国王は、息子を溺愛するが故に息子に甘く、言われるがままに、西の城門から少しだけ離れた位置にある城壁に小さな穴を作った。

 勿論、その穴はパッと見では分からないようにしてある。

 城壁の内外には、ショタ国の国民の背が隠れてしまう程の高さの草が生えているのだが、城壁の中の一部――地面と接している部分――に、小さな穴が開いているのだ。城壁内から外へと出入りが出来るのだが、ショタ国の国民でなければ入れない絶妙な大きさとなっているのは言うまでもなく、草のお陰で外から一見するだけでは、誰かが出入りしていても全く分からない。

 もちろん、レオにとって、“戦争の際に兵士が安全に逃げ帰ることが出来るように”等ということは、どうでも良いことで、国王への進言は単なる詭弁だった。全ては、「いつか城外に出て遊びに行くために!」と、それだけのためだった。


 そして今日。

 先見の明を持っていた自分の賢さにほくそ笑みながら、レオは西側の城門近くの城壁の穴を他の二人と共に通り、警備が交代する隙をついて、三人で城壁の外――真西――へと走っていった。

 そうして森に辿り着いた三人は、木の棒を拾って剣のようにしてブンブン振り回しつつ(振り回しているのはレオとマイクだけだったが)、しばらく適当に歩いた。ぶらぶらしながら、木や花や虫や動物など、気になるものがある度に近付いて触ったり追いかけたりして、探検を満喫した。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※


(※お読みいただきありがとうございました! お餅ミトコンドリアです。


新しく以下の作品を書き始めました。


【もしも世界一悪役ムーブが下手な男が悪役貴族に転生したら】

https://kakuyomu.jp/works/822139838006385105


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