台場悠里③ 天敵、台場 悠里
天敵『台場 悠里』がマウントポジションからオレを殴ろうとしている。
「くぉら!!!!!!! 女の子を泣かせるなああああああ!!!!!!」
「ま、待て、なんかお前、勘違いしているぞ。
オレが、そんなマネするわけ――」
『わたし、不安だったんです。皆がこの指輪のこと――』
「……ゴメン。やっぱり泣かせたの、オレだわ」
「歯ぁ、くいしばれぇぇぇえええ!!!」
悠里の拳が空高く掲げられる。
振り下ろされれば、オレは二度目の転生チャレンジを行うことになるだろう。
彼女のバックにうっすらと三途の川が見えているのは、鑑定眼の力か?
「待ってください!!!!!!」
直後、ギリギリのところでちっちゃな人影が彼女の背中に飛びついた。
驚いて後ろを振り向いた悠里の眼前にリタが迫る。
その顔はさっきとは別の意味で泣き出しそうだ。
「違うんです! あれは、なんと言いますか……うれし涙みたいなもので……」
「? こいつにいじめられていたんじゃないの?」
リタが無言で首を縦に振ると、ようやく悠里の拳がゆるんだ。
とりあえず三人で店前のイスに腰掛け、オレは彼女に昨日のことを語る。
「へえ、この娘を助けたんだ。やるじゃないの」
「別に、単に仕事上のなりゆきだ。
てか、なんでここへ来た?
オレを探してたわけじゃあ、ないんだろ?」
「助けを求める心の声が聞こえた」
アホだ。
「それにしても、昨日ってお忍びだったの?
護衛の人がいればこんな奴の出る幕もなかったと思うんだけど」
こんな奴扱いもヒドいが、その通りだ。
「いえ……、今もですが影で警護をしてくれているようです。
もっとも助けに入るのは本当に危なくなった時だけと伺っています。
普段は自主性を重んじてあまり出てこないと……」
「へえ、そうなの。じゃあ、安心だね」
って、悠里は言うが、本当にそうか?
てか、昨日なんか人質に取られそうになって結構危なかったよな。
そもそも、店にはオレとチンピラとリタしかいなかったような気もするが……。
どこかに隠れていたのか?
『父さまも母さまもわたしが邪魔になったって、周りが噂を』
なんてリタはさっき言ってたが、邪魔だから護衛もいらない、とか。
……まさか、な。
「それにしてもアンタ、午後はこんなところにいたんだね。
なるほど、いつもここでトレーニングとかサボっていたんだ。
これはいいことを知ったよ」
「お前、まさかオレをサボらせないように店を粉砕する気じゃないだろうな?」
「そんなことするか!
もしトレーニング前にアンタの姿がなかったらここを見に来ようかな、って話」
「……ふう、いい加減、勘弁してくれよ。
お前も知ってるだろ?
オレが一ヶ月後に学園から追い出されるって」
「なに諦めてるの!
今から学園長を見返せば撤回されるかもしれないでしょ!?」
「そんなにオレが辞めるのがイヤなのか?
……ひょっとしてお前、オレに惚れてる?」
「あん?」
瞬間、オレの襟首をむんずとつかむ悠里。
同じ『あん』でもまったく聞きたくない類いの声だ。
そこには色艶もなければ思慕のような感情もまったく存在しない。
「うっ、大体、見返すってムリに決まってるだろ?
鑑定士のオレじゃあ、どうあがいたってみんなの足手まといになるだけだって」
「なんでそう決めつけるの!
頑張れば、戦士みたいに戦えるようになるかもしれないじゃない!」
「前にも言ったけど、それは絶対にない。
才能のないオレがいくら鍛えたって、戦士のようには――」
「そんなのやってみないと分からないでしょ!
わたしだってそこそこ戦えてるんだから!
才能なんかなくったって!
戦いに向いていない加護しか与えられてなくったって!」
「いや、だって、お前は才能あるだろ。
オレとは違う」
「は? なに言ってるの?
面倒だからって、口からそんなでまかせなんて言わないでよ!」
「いや、確かに面倒だが、でまかせじゃない。
これは鑑定士としての判断で言ってるんだ」
「鑑定士がなんでそんなこと分かるんだ!」
「だからこそだよ。
オレは、人を鑑定できるんだ。……みんなには言うなよ?」
……ああ、もう面倒になってまたバラしてしまった。
一度自分ルールを破るとホント、タガがゆるむな。今後気をつけないと。
だがその甲斐あって、と言うべきか。
ようやく悠里が襟首をつかむ手をゆるめ、オレを解放してくれる。
「人を鑑定できるって、アンタ――」
「まあ、聞けよ。
実際のところ、与えられる『神の加護』って奴はシステマチックなモノで――」
「?」
「あーー、簡単に言えば資質による法則性があるんだよ」
「! 本当!? それ!?」
オレは悠里の問いかけを肯定する
その人物がどんな加護を受けられるか、それは大雑把に言って
『筋力』
『体力』
『知力』
『精神力』
『敏捷性』
『魔力』
この6つの資質が影響する。
そして各資質が条件を満たしていれば神の加護をえられる。
「オレはその資質の度合いを文字で見ることができるのさ」
「ホント!? それって鑑定士の力なの?」
「まあな、できるのはオレだけだけど。例えば……」
筋力 :B
体力 :B
知力 :SS
精神力:S
敏捷性:A
魔力 :D
と、近くの土がむき出しになっている所に木切れでおもむろに書いてみる。
「オレはこんな感じだ」
「これって、SS>S>A>B>C>Dの順番で素質があるってこと?」
「そういうこと。オレの場合、戦士系の加護を受けるには筋力や体力が足りない。
そして魔力が絶望的にないので魔法系もムリ。
結果、オレが受けるのは鑑定士の加護ってわけだ」
「……で、あたしはどうなの?」
「お前の場合は――」
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