第47話 皇帝からの招待状。
皇帝名義の招待状が届いたのは初夏に差し掛かろうとした頃だった。
帝室の祝賀行事――特に今回は今上即位十五年の記念行事だ——には、全ての領主が
もちろん辺境の貧領であるメルドルフも例外ではない。
「行かないとダメかしら」
皇帝の紋章が型押しされた招待状を私はアロイスに押しつけた。
災禍から解放されメルドルフはようやく復興にとりかかかったところだ。
わずか三週間ではあるが、領から離れるのは気が進まなかった。
アロイスは招待状を流し読みし、
「欠席は許されません。むしろ新生メルドルフをアピールする良い機会でございますよ。胸を張って乗り込めばよろしいかと。メルドルフの業務はご心配なく。滞りなく処理しておきます」
と処理済みの箱に投げ込んだ。
私の最大の役割はメルドルフの旗印であること。
最終判断と責任をとるのが仕事だ。
細々とした実務に関しては、いようがいまいが大して影響はない。
アロイスとイザークという“メルドルフの双頭”により組み上げられたシステムが、実にうまく作用している証だった。
持つべきものは優秀な部下、である。
「きれいさっぱり解決してきてください。コニー様ご自身のためにも、メルドルフの将来のためにも」
そう。
帝都にはハラルドとウィルヘルム、そして聖女シルヴィアがいる。
メルドルフの知能であるアロイスは領主代行として業務があり、今回の帝都行きに同行はできない。
アロイスなくして古狸どもを薙ぎ払うことはできるのだろうか。
不安を察したイザークが私の肩に手をおき、
「大丈夫です。私がおります。コニー様」
「イザーク……。そうね、私にはあなたがいるわ」
私はイザークの手を握りしめた。
半月前、イザークと私は結婚した。
貴族の、特に領主の結婚となれば、数ヶ月前から告知やら前宴やら盛大に行うのが常である。
が、皇室の圧を避けるために決めた婚姻であるために、私たちはすぐに結婚をする必要があった。
故にハイデランド侯爵家と帝室に結婚の報告をし、家臣と領民の代表を数人招いただけの小さな宴を開いて形ばかりの挙式を行った。
急遽決定し準備期間がなかったために簡素で質素であった……というのは建前になっているけれど、メルドルフの財政上、それが許される限界であったのだ。
けれど私もイザークも満足していた。
お互いに気持ちはある。この関係になれただけで幸せだ。
特にイザークは、周囲から怪訝がられるほどに険しい表情をすることもなくなり、館に勤める人々からの評価も上がったようだった。
ただ、女性陣からも黄色い声があがるようになったのは、ちょっと気に入らないけれど。
アロイスは生暖かい眼差しを向け、
「まぁ、帝都行きをご心配なさることはございません。イザーク卿はコニー様の露払いには最適ですから、危害を加える者はいないでしょう。ご安心ください。いい機会です。仕事を忘れて甘い新婚のひとときを楽しまれては如何でしょう」
自信にあふれたこの言いぶり。
何かひっかかる。
「アロイス、あなた何かしたの?」
「大したことはしておりません。メルドルフに在りながらでは、出来ることは限られますから。以前、
「……まったく」
アロイスがいつの間にか
一体何をしでかしているのだろう。
結局アロイスは私に何一つ語る事なく、メルドルフ出発の日を迎えたのだった。
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