第50話 ほっとミルクしたいの1月18日
九乃カナは中庭の小屋へ橙 suzukake さんを訪ね、床に隠し扉を見つけた。
「ほらね」
「こんなところに扉が」
「とぼけても無駄です。調べはついていますよ」
「なんのことですか」
「まあいいさ。話は歩きながら聞きますよ」
ボタンでロックをはずし、扉を引き上げて橙 suzukake さんへ目配せした。先へ行けと。あとにつづいて九乃カナも地下通路の階段をおりる。2階分おりて、通路を進む。
「それで、なんでハイデを殺したことになるんですか」
「この通路はお城と一緒に作ったのでしょう、古いものです。20年もお城で働いているのだから、自分の部屋に隠し扉があることを知らないなんてトボケてもそんな言い訳は通らない。となると、二又に分かれた道の一方は教会に、一方はお城の地下倉庫に通じていることだって知っているはずです」
九乃カナは言葉を切った。橙 suzukake さんからの反論はない。
「お城には、どうでしょう。お年頃のメイドが熟れた肉体を持て余しています。双子の主はパツ金美女にしか興味がありません。執事は枯れたおじいちゃん。運転手は通いで、夜はおうちで妻としっぽりと過ごしていることでしょう。となると、歳は離れていても庭師のおっさんの魅力が増すというもの。おおっと、小間使いの少年に手を出したら犯罪だし、ショタに興味はないみたいですな。好みのわかれるところではあるのですけれど」
九乃カナはウケケケと笑った。
「だからって、なぜハイデを殺すなんてことになるんですか」
メイドとの情事は認めた。あともうひと押し。
「そこです。その話をするためにはメイドとの情事について語らねばなりますまい。地下通路を情事に利用すると言っても、こんな狭くて暗いところを女がひとりでやってくるのは心細すぎる。橙 suzukake さんがこの通路をせっせと通ってメイドのところへ日参していたわけですな」
通路を折れ城へ向かって、今は階段に差し掛かっていた。
「さあ、あと少し。階段をあがってください」
促され橙 suzukake さんが階段をのぼってゆく。九乃カナはロボットじみた動作で階段をのぼる。カシャン、カシャン。
「扉で行き止まりまできましたよ」
「開けてください、広いところに出ましょう」
「開けろと言ったって、ボタンを押してロックを解除しないと」
橙 suzukake さんが押しあげると、素直に扉が動いた。
「あれ、なぜ」
「そうです。普段から通っているから、扉にはロックがかかっているものと思っている。つまり、メイドと申し合わせ、ここでロックを解除して待ってもらっていたのです」
「やりますね、九乃さん。どうしてこんなことができるのかわからないけど」
「簡単なことです。午後に地下倉庫にやってきて、ロックをはずしておいたのです」
「小屋にきた時点で全部わかっていたってわけか」
「論理的帰結です」
話しながら二人とも扉から地下倉庫の小部屋に出た。
「でもわかっちゃいませんぜ。なぜメイドとできているとハイデを殺すことになるんですか」
「九乃カナに抜かりはありませんよ。メイドとねんごろになっているところにハイデが登場した。ハイデはハイデで、双子の相手をしていたら毎日同じ顔の人間といたしているようなもの。しばらくしたら飽きがきたのですな。橙 suzukake さんに色目を使ってくる。橙 suzukake さんはハイデと双子の主人との関係に隙ができたと思って口説きにかかる。面白くないのはメイドですよ。自分というものがありながらパツ金美女に手を出そうってんですからね。あの日、口論になったのですな。それでメイドはぷいっと部屋へ帰ってしまう。ひとりこの場所にのこった橙 suzukake さん。はい、ハイデの部屋へと向かいます」
「どうやって密室に忍び込むっていうんですか」
「簡単です。ノックしてハイデに入れてもらったのです」
「おかしいですよ。だって、ハイデは賊と出会って悲鳴をあげたんですから」
「ハイデの悲鳴は別のタイミングだったってだけです。そうです。カーテンにからめられるときに悲鳴を上げたのですな。日本人男性はマニアックな性癖の人間が多いのですよ。だからアダルト動画を海外に売ろうとしてもマニアックさが仇になって人気が出ない。閑話休題。
カーテン・プレイなんて思いもよらないハイデは驚いて悲鳴を上げた。でも、橙 suzukake さんがこういうプレイなんだと身振り手振りで説明することで大人しくなった。でも、ナイフを取り出して胸に刺そうとなれば、悲鳴をあげるのも当然というもの。二度目の悲鳴です」
「カーテン・プレイってすごいっすね」
「このヘンタイ!」
「いや、やってませんて。それだと密室はどうやってつくったことになるんですか」
「そんなことは犯人をつかまえて吐かせればいいんですよ」
「ダメなやつだ」
橙 suzukake さんは後ろを向いて背中を見せている。
「だが、メイドとのことが主人に知られるとメンドウなんでね、黙っていてもらえますか」
ハサミを握って振り向いた。
九乃カナは突撃した。どごーん。
「ぐへえ」
「わたくしの体重に鎧兜の重量も加算されますからね。重たいことでしょう」
「つぶれるつぶれる」
「男につぶれると叫ばせるとは、わたくしもなかなかのものですな。なにがつぶれるのか言ってみてください」
「胸と、腹が。うえっ」
「そっちね。鎧兜の九乃カナにハサミで挑んだのが無謀でしたな」
ウケケケケと、二度目の笑い声をあげた。
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