第37話 今日は大福。おやつの話ばっか1月5日
女性の使用人がお茶と菓子をもってきてくれた。
「どうぞ、かまってください。お菓子のおかわりってできたりします?」
紅茶に、菓子は大福だった。九乃カナは遠慮なく食いつき、白い粉を前にこぼした。
「定食のあとに杏仁豆腐と、お汁粉まで食べたのに、よく食べられますね。太りますよ」
「わたくし、太らないんで。あ、これはドクターXのキメぜりふのつもり」
九乃カナは美しすぎるお腹をもつことで有名である。大福を1個や2個余計に食ったからって問題にはならない。
お城の主人は双子で、コピペしたみたいに並んですわっている。執事よりすこし若いくらい、40代か。かっちりした執事にたいして、主人の方はすこしラフ、だらしないとまではいかないけれど、休日にゴルフを楽しむサラリーマンくらいにはくだけている。
「それで、ハイデはどちらが殺したのですか」
「そんなことを聞いて答えたら事件解決、警察も仕事が楽ですけど、まだどちらかが犯人と決まったわけでもないですよね」
無月兄さんは自分に容疑がかかっていないと思って安心しきっている。他人をかばうとは余裕ね。
「では、質問をかえましょう。この城に常駐しているのは誰ですか」
「私たちふたり、執事、メイド、料理人、庭師、小間使いです。それと通いですが、運転手がいます」
「全員が双子で14人いるってことはありませんか」
「双子は私たちだけです」
「双子じゃなくて4つ子とかいうのでは」
「兄弟はいるかもしれませんが、双子以上のものはおりません」
双子は声を揃えて、まったく同じ答えを返してきた。長いせりふなのに、さも自然なことという顔で澄ましている。ギターを弾かせたら完璧なユニゾンを奏でるに違いない。
「密室の謎は解けたので?」
執事のくせに口をはさむとはずうずうしい。だが答えてやろう。
「大方のところね」
ハッタリだけれど。
「隠し通路があるのだから、密室でもなんでもありませんよ」
余裕を見せた。
「すごいですね、九乃さん。どうやったんです? 犯人もわかるのでは?」
無月兄さんは本当に油断しきっている。わかっていたってそんなことを今の段階で犯人がいるかもしれない場所で話すわけにはいかないでしょ。
わかっていそうだけれど、わかっていないかもという状況が大事なのだ。犯人が逃げようか、いやまだ大丈夫、逃げたらかえって犯人だとわかってしまう。そんな心理に追い込むのだ。探偵の作法とはこういうものさ。
「今の段階では発言を控えます。まだ確認が必要なこともあるもので」
うん、名探偵っぽい。小説を読んでいるときは、そんなのいいからいま考えていることを教えてよって思うものだけれど。探偵も実はわかっていないうちから、わかった風なことを言っているだけなのかも。
「では、使用人の人たちを集めてください」
主人の双子が指示をして執事とメイドが呼びに出て行った。今がチャンス。
「ハイデを日本に連れてきたのはどちらなのですか」
「ふたりで」
双子はいつも一緒に行動しているのか。
「部屋はさすがに別々ですよね」
「別々ですね、一応」
「悲鳴を聞いたとき、お互いが部屋にいることを確認しましたか」
「私たちの部屋は4階なもので、悲鳴は届かなかったらしく、睡眠中でした」
なるほど、現場にやってこなかったし、そういうことか。でも、アリバイはないとも言える。
執事とメイドがもどってきた。庭師、料理人、小間使いの男の子、運転手が一緒だ。九乃カナは立ち上がり、使用人たちの前に出た。
「犯人がわかりました」
「本当ですか」
みんなで一斉にいうから誰のセリフかわからない。
「庭師に化けていましたか、橙 suzukake さん」
「ちがう、殺してない。ここで容疑者をでっち上げようとして登場させられただけですよね!」
「犯人はそうやって探偵の発言を無価値なものにしようとするのです」
「だったら、料理人が犯人かもしれないですよ。ハイデさんが料理人の作る和食を食わないから。小間使いだって怪しいことになります。ハイデさんにかわいがられて、恋愛感情を抱いていたに違いないんだから。若造はすぐにその気になる。メイドだって、ご主人たちの関心がハイデさんに移ってしまって面白く思ってなかったし。運転手は知らないけれど」
運転手立場ない。
「容疑者がこんなこと言っていますけれど」
メイドは悲しそうな顔をして手を差し出した。
「大福のおかわりです」
透明なフィルムに包まれた大福がぽぬんとたたずんでいた。
「無罪!」
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