第34話 犯人はお前だったか1月2日
お腹がすきましたといって歩き出し、すこし大きな通りに出たから通り沿いを歩いて中華屋さんを見つけた。
「四川風麻婆豆腐定食」
「自分は回鍋肉定食で」
注文したらさっそく突撃である。
「それで、なぜ逃げるんですか」
「そ、それは」
うんうん、それは?
「リアルタイムを読んでいまして」
いつもありがとうございます! それで?
「毎日綱渡りだって、ネタをひねり出すのが大変だって」
言っていますね、コメントに書いたりツイッターに書いたりしていますね。
「それで」
それでそれで? なんだいなんだい、なにが言いたいんだい。はっきり言っちゃって。
「ごめんなさい!」
へ?
無月兄さんはテーブルに鼻をぶつけそうなくらい近づけて謝罪している。頭を見ていると、むんずと頭をつかんでテーブルに叩きつけたい衝動が。ううう、右手よ、静まれ。
「頭をあげてください。意味が分かりませんよ。リアルタイム書くのが大変だとなぜ無月兄さんが謝るんですか」
「それはそのう」
あわれそうに顔をあげて、小動物みたい。抱きしめてやりたくなる。
「鉄パイプで襲いました」
ああ、鉄パイプでね。って、お前だったんかい!
「なにさらしとんじゃい!」
「すみません」
またテーブルに顔をふせてしまった。荒ぶる右手を押さえるのに苦労する。
コップの水をひと口。
「わたくしは冷静ですよ。落ち着いて説明してください」
左手が右手を押さえてぷるぷるしている。わたくしは冷静だ。
「もしかして、鉄パイプ黒パーカーの正体は無月兄さんだったのですか」
ごくりと、息を飲んでから。ゆっくりうなづいた。お、落ち着け九乃カナ。相手はカクヨム仲間の無月兄さんだ。憎くてそんなことをやったというわけではないだろう。さっきのひと口でコップの水は飲み切っていた。
「すみません、水!」
水がピッチャーでやってきた。コップに注いで飲む。ぷはあ。
「なぜそんなことを」
「ですから、ネタのために。本当にケガをさせようなんて思っていませんよ?」
「当り前です」
「ホームセンターで鉄パイプを買いまして、598円税抜きです」
「値段はいいけどね。でもやっぱり、やけに新しい感じがしましたよ」
鉄パイプ黒パーカーの正体が自分からやってくるとは、なんてご都合主義な小説なんだ、読者に飽きられてしまうぞ。とっくに飽きられているって? ごめんなさい。行き当たりばったりはダメですな。
んんん? ということは。
「無月弟さんはどうしました? いつも一緒ですよね」
「そんなことはありませんけど。弟は九乃さんを助ける役で」
「ということは、無月さんなんて言って無月一族代表みたいに勝手に言っていたけれど、無月弟さんでしたか」
「はあ」
「ああ、だから無月兄さんの顔を見てどこかで会ったと思ったんですな」
「すぐに気づかないのでかえって驚きました」
髪型、髪型がすこしちがうよね、うんだからすぐにピンと来なかったんだな。ひとの顔なんてたいして見てないしね。見てもおぼえるの苦手なのだ。忘れっぽいのが玉に瑕。てへ。
「ということは大変ですよ。無月弟さんは美女ハイデをお城で殺しました!」
ががーん!
「お待たせしました、四川風麻婆に回鍋肉です」
「食べてからにしましょうか。お腹すいた」
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