第29話 タイトルつけ忘れた12月29日

 ざぶん。

「はあぁあ!」

 湯船につかって九乃カナは魂を取り戻した気分になった。悪魔退治なんてして人間を超越してしまっていたから、魂が人間とズレ気味だった。ズレた分はため息とともに口から出て行った。

 やっぱり自分の家のお風呂が一番だね。


 湯船からあがり手で体の表面の水分を切って、用意したバスタオルを浴室のドアから手を伸ばして引き寄せる。

 浴室だって寒い。手早く体を拭いて、ボディウォッシュタオル、ソープ関係のボトルをもって浴室を出る。ボディウォッシュタオルに菌が繁殖することに気づいてからは浴室にかけっぱなしにしないことにしている。ボトルもカビ防止のため浴室に置かない。毎日もってはいって出る。

 服を着て、髪をタオルドライ、ドライヤーをかける。九乃カナのロングヘアは10分くらい、乾かすのにかかる。なかなかの手間だ。


 洗い流さないトリートメントをつけたあと、エビアンを飲んでから部屋へ戻る。化粧水と乳液だけつける。一応コラーゲン配合なんてボトルに書いてあるけれど、顔に塗ってどうなるというのか。安くて肌が乾燥しないだけで十分。それ以上のなにを期待しても無駄だ。


 パソコンの前にすわる。家に着いたときにもう日付が変わっていて、今は1時過ぎたけれど、寝るまで今日だぁ! というわけでリアルタイムを書かなくてはならない。この数日は投稿どうしていたかって? 作者なのだからどうにかしていたのだ。すごく強引。

 1時間かけて書いて投稿した。ツイッターをチェックしたら、鈴懸 suzukake さんが心配してメッセージをくれていた。カズキ殺しの容疑をかけたのに心配してくれるとは。やさしいのね。

「でも、容疑が晴れたわけではないからっ!」

 ノルマを達成して、やっと今日が終わる。お布団に潜りこもうとしたら、誰か先に寝ていた。

「おいぃ! なぜそこで寝ている」

「客に床で寝ろと言うのか? 冬に?」

 チュッパチャップスを寝るときまで口にくわえていた。しかも器用にしゃべる。探偵が部屋どころか布団に入りこんで寝ていやがった。作者の顔がみたいものだ。この部屋に鏡はないからな!

「いま何時だと思ってる!」

「本当だよ、もう寝ているのだから電気を消してくれ。まぶしくてしかたない」

「いや、ずっと1時間くらい明るかっただろ」

 背中を向けて丸まろうとしている。許すまじ。

「青汁を口と鼻に流し込んでやろうか」

 肩をむんずと掴み、耳元にささやいてやった。

「やめてくれ、聞いただけで味とにおいが襲ってくる」

「だったら出ていけ!」

「鈴懸 suzukake に容疑をかけるには根拠がなにもないだろ。そろそろ4万文字になるのに捜査がなにもすすんでいないじゃないか」

 探偵にまともなことを言われるとカチンとくる。お前にだけは言われたくない。

「こっちはいろいろ大変だったの! ただ文字数を無駄にしたわけじゃないんだからねっ」

 ぜんぜん無駄にしてよいのだけれど、強がってみた。あと1万文字くらい書いていないといけないくらいのペースだ。

「だいたい、カズキの死体消えちゃったし、調べるといったって調べようがないじゃない」

「そこからしておかしいじゃないか。死体が消えるなんて、アリな小説なのか、リアルタイムは」

 悪魔出しちゃったり、作者のチート能力使っちゃったりしているからアリといえばアリな小説になっちゃったかも。でも探偵に言えない。

 探偵は勝ち誇ってハイチューを口に入れた。チュッパチャップスがなめ終わっていないのに。器用なやつだ。

「死体が消える世界なんて書くわけないでしょ。バッカじゃない」

「だったら、説明がつくのだよ。不思議なことなどなにもないのだ、九乃くん」

 ババーンと、チュッパチャップスの棒を口から飛び出させて言われても説得力ゼロだけれど。京極堂じゃないんだから。

「だったらその謎、解いてみせる! 作者の名にかけて」

「いんちきくせえ」

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