第18話 異世界を旅した12月18日
クローゼットに頭を突っ込んで発見した、異世界への扉。たぶんライオンが王様をやっている国にゆくのだろう。
クローゼットによつん這いになり、背板にできた扉を押す。体をどうにか通せるくらいのトンネルが出現した。
期待していたものとちがうぞ。もっと広い異空間を期待していたのに。お城の壁と同じ材らしき石が四方を囲み、トンネルは奥につづいている。
いったん戻ろう。クローゼットから降りる。きょろきょろ見回したら、ベッドの横に懐中電灯が設置されていた。懐中電灯あるんじゃん。なぜ執事はランプをもちあるいているのか。雰囲気出すためかな。小説に協力的な執事、嫌いではない。
懐中電灯を試みにつける。うん、電池生きてる。使える。
クローゼットへ突撃だ。もう一度クローゼットの奥の扉へ。懐中電灯を手にダンジョンへ這い入る。入ってみると天井がすぐに高くなった。幅はかわらず、体が通るくらいでつづく。これ、ずっとこのままで行き止まりなんてことになったらもどるのがメンドクサイな。行き止まりってことはないか。そんなものは作らない。
狭い場所で立ち上がるのは苦労する。肩をすぼめながら足を踏ん張ってどうにか立ち上がった。ふぃー。
九乃カナは理解した。
これは秘密の地下室へ続く隠し通路だ。地下室には殺人者が各種の凶器をコレクションしている。今夜はナイフだった。
この城の主人は外国からかわいそうな被害者を連れてきては地下室にいる裏の主人に殺させている。
もちろんおもてと裏の主人は双子の兄と弟。
ああ、さらにわかってしまった。表の主人はハイデを凌辱し、裏の主人は命を奪う。そういう役割分担ができているのだ。山奥のこと、外国から連れてきて殺し、山に埋めてしまえばことが露見することはない。そうやって何十年も陰惨な儀式が繰り返されてきたのだ。
「ん?」
階段があらわれた。階段はあがっている。地下へおりる階段ではないの? いや、階段に聞いても答えてはくれないけれど。それはわかっている。あえてだ。あえて。
おかしいな、シナリオが狂ってしまった。
九乃カナは怪訝な足を階段に乗せた。
階段をあがり、折り返し、またあがる。天井が低くなって、板の壁があらわれた。取っ手が付いている。手前に引く。今度もクローゼット。でもハンガーに服はほとんどない。
クローゼットに這い出て、今度はクローゼットの扉を押し開ける。クローゼットから出れば、それは部屋の中に決まっている。
普段使われている感じはしないけれど、物は置いてある。ここはどのあたりの部屋なのか。
部屋のドアを出たら、廊下。これもわかる。あちこち懐中電灯で照らしてみる。床のカーペットに白い小さなものが落ちていた。ドアを出たすぐといったところ。
懐中電灯で照らしながらしゃがみ込んで、つまみあげる。これは、知っている。
メロンパンのカスだ。
ということは、今出てきたのは無月さんの部屋だ。
執事に部屋へ案内されて落ち着いたところでメロンパンを食べたのであった。そのときにコートにこぼしたメロンパンのカスが、無月さんと廊下で会って、腕を組んだりした時に落ちた。これはそのメロンパンのカスだ。
ハイデの胸にナイフを突きたてたのは無月さんだった!
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