第3話 愛しの我が家
☆
思ったより安くできた家のローンを組んだ。
季節は春だ。梅の花が咲き始めている。
家電品が入り家具が入れられていく。
キッチンは大地君のお姉さんの真似をして、白を基調にした。
ただ壁紙は花模様だ。コンロの色もピンクで可愛い。
念願のオーブンレンジに新しい炊飯器にポットとホームベーカリーも大地君が買ってくれた。食器洗浄機もついている。
これから新生活が楽しみだ。
わたしは、大地君のお姉さんの真似をして、お洒落な食器セットを買った。ブランド物のいい物は、そうそう割れないだろうし、お客が来たときにも見栄えがいいだろうと思った。
引っ越しを終えて、買い物に出かけた後、わたしはキッチンで料理をしている。
真新しいダイニングテーブルに、大地君に教わった料理を並べていく。
最近では、早く帰宅できた方が作るようになった。
わたしの大好物の綺麗な四角で綺麗な黄色で美味しそうな、甘い卵焼きを作る事ができるようになった。
朝のお弁当は、大地君が作ってくれている。
「お、上手くできてるじゃん」
「へへん」
大地君に褒められて、わたしも嬉しい。
スマホの料理レシピで作った簡単な物だ。
オーブンに付いてきた、お料理本も参考にしてお魚も上手に焼ける。
圧力鍋も買ったので、短時間でおかずも作れてしまう。
向かい合っていただきますをすると、大地君が嬉しそうな顔をする。
「美味しい」
「美味しいね」
ついこの間まで、何も作れなかったのに、ご飯が作れるようになって、激うまご飯を作る大地君が喜んでくれている。
感無量である。
でも、大地君のご飯の方が、ずっと美味しいと思うけれど。
ご飯を食べ終えて、食器洗浄機に食器を入れると、さっと片付けていく。大地君はビールを持って、ソファーにどっしりと座る。
「座り心地もいいなぁ。花菜ちゃんも早くおいでよ」
「うん。ちょっと干してきちゃうね」
「ああ、ごめん。俺の番だったね」
「いいよ。すぐすむから、先に飲んでいて」
わたしは洗濯物を脱衣所にある小さな干し場に干してしまう。
下から小さな扇風機を回して、風を送る。
この家は駅前にあるので、防犯上も外に干すより家の中の方が安心だ。
ガラスも太陽光を通さないらしく二重ガラスになっているので、明かりは入るが、太陽光で洗濯物を乾かすことは難しいらしいが、電車の音も振動もない。とても静かな家になった。
大地君が防犯カメラをそこら中につけて、防犯も気をつけている。人通りの多い場所だからと言っていた。
洗濯物を干して、歯磨きしてから、キッチンに戻って、グラスに無糖サイダーを入れて、大地君の横に座る。
目の前には、大きなテレビがある。
今までのような、古くて小さな物ではない。
「座り心地がいいね」
迷った甲斐がある。いろんなソファーに座り、いろんな店で試してきた。
結果的に、大地君の釣り仲間の紹介で、ブランド物の家具をかなり割り引いてもらって買った。
なんでも買ってやる券の一つらしい。
カーテンも外構も割安でいい物を作る事ができた。
これも何でも買ってやる券の一つらしい。
プレゼントだと大地君に満足感がなくなることを、よく知っている。さすが長年の付き合いだ。
「小次郎爺ちゃんも満足してくれるといいけど」
「きっと喜んでくれるよ」
お爺ちゃんの部屋には、介護用ベッドが入っていて、小さな机と椅子が置かれている。
持ち物も造り付けの飾り棚に飾られている。お爺ちゃん専用のテレビもある。
廊下やお風呂やトイレに手すりがつけられて、施設から来たリハビリ担当の技師からも許可が出た。お爺ちゃん自身も調子がいいらしく、自分の事は自分でできるらしい。
「来週の土曜日にお母さんが迎えに行くって言っていたわ」
「そうだな」
「お爺ちゃんのためにありがとう」
「小次郎爺ちゃんを追い出して、家は造れないよ。この敷地は小次郎爺ちゃんのものだし」
「きっと喜んでくれると思う」
「おう」
大地君は2本目のビールのプルトップを開けて、美味しそうにビールを飲んでいる。
「次は子供だな。花菜ちゃん、早く妊娠しないかな?」
「それは授かり物でしょ?」
「家もできたし、子宝授かるように、お参りにでも行こうか?」
わたしは微笑んで頷いた。
「ドライブのお誘いは嬉しいわ。でも、その前に、千葉のご両親を呼んでお披露目会をしなくちゃ。お兄さん達にも声をかけて」
「そうだったな」
ビールを飲み干し、大きなあくびをしている。
引っ越しで疲れたのだろう。その後に買い物にも出かけたから。
「大地君、ここで寝るの?」
わたしもサイダーを飲み干して、大地君の飲んだ空き缶を片付ける。
食器洗浄機のスイッチを入れてしまう。
「わたしはベッドで眠るよ?」
「ベッドだ、ベッド、ベッド」
ソファーで眠りかけていた大地君が、急いで立ち上がる。
「電気、消すよ」
「おう」
二人で寝室に向かう。
新しい家で、新しいベッドで、横になる。
この家は温かい。厚着をしなくても寒くない。
年中使える洗える羽毛布団を羽織ると、大地君はわたしを抱きしめてきた。
「ベッドも寝心地いいな」
「そうね」
ふわりとキスが落ちてきて、わたし達は初めての家で初めてのベッドで初めての夜を過ごした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます