第3話   愛しの我が家

 思ったより安くできた家のローンを組んだ。


 季節は春だ。梅の花が咲き始めている。


 家電品が入り家具が入れられていく。


 キッチンは大地君のお姉さんの真似をして、白を基調にした。


 ただ壁紙は花模様だ。コンロの色もピンクで可愛い。


 念願のオーブンレンジに新しい炊飯器にポットとホームベーカリーも大地君が買ってくれた。食器洗浄機もついている。


 これから新生活が楽しみだ。


 わたしは、大地君のお姉さんの真似をして、お洒落な食器セットを買った。ブランド物のいい物は、そうそう割れないだろうし、お客が来たときにも見栄えがいいだろうと思った。


 引っ越しを終えて、買い物に出かけた後、わたしはキッチンで料理をしている。


 真新しいダイニングテーブルに、大地君に教わった料理を並べていく。


 最近では、早く帰宅できた方が作るようになった。


 わたしの大好物の綺麗な四角で綺麗な黄色で美味しそうな、甘い卵焼きを作る事ができるようになった。


 朝のお弁当は、大地君が作ってくれている。



「お、上手くできてるじゃん」


「へへん」



 大地君に褒められて、わたしも嬉しい。


 スマホの料理レシピで作った簡単な物だ。


 オーブンに付いてきた、お料理本も参考にしてお魚も上手に焼ける。


 圧力鍋も買ったので、短時間でおかずも作れてしまう。


 向かい合っていただきますをすると、大地君が嬉しそうな顔をする。



「美味しい」


「美味しいね」



 ついこの間まで、何も作れなかったのに、ご飯が作れるようになって、激うまご飯を作る大地君が喜んでくれている。


 感無量である。


 でも、大地君のご飯の方が、ずっと美味しいと思うけれど。


 ご飯を食べ終えて、食器洗浄機に食器を入れると、さっと片付けていく。大地君はビールを持って、ソファーにどっしりと座る。



「座り心地もいいなぁ。花菜ちゃんも早くおいでよ」


「うん。ちょっと干してきちゃうね」


「ああ、ごめん。俺の番だったね」


「いいよ。すぐすむから、先に飲んでいて」



 わたしは洗濯物を脱衣所にある小さな干し場に干してしまう。


 下から小さな扇風機を回して、風を送る。


 この家は駅前にあるので、防犯上も外に干すより家の中の方が安心だ。


 ガラスも太陽光を通さないらしく二重ガラスになっているので、明かりは入るが、太陽光で洗濯物を乾かすことは難しいらしいが、電車の音も振動もない。とても静かな家になった。


 大地君が防犯カメラをそこら中につけて、防犯も気をつけている。人通りの多い場所だからと言っていた。


 洗濯物を干して、歯磨きしてから、キッチンに戻って、グラスに無糖サイダーを入れて、大地君の横に座る。


 目の前には、大きなテレビがある。


 今までのような、古くて小さな物ではない。



「座り心地がいいね」



 迷った甲斐がある。いろんなソファーに座り、いろんな店で試してきた。


 結果的に、大地君の釣り仲間の紹介で、ブランド物の家具をかなり割り引いてもらって買った。


 なんでも買ってやる券の一つらしい。


 カーテンも外構も割安でいい物を作る事ができた。


 これも何でも買ってやる券の一つらしい。


 プレゼントだと大地君に満足感がなくなることを、よく知っている。さすが長年の付き合いだ。



「小次郎爺ちゃんも満足してくれるといいけど」


「きっと喜んでくれるよ」



 お爺ちゃんの部屋には、介護用ベッドが入っていて、小さな机と椅子が置かれている。


 持ち物も造り付けの飾り棚に飾られている。お爺ちゃん専用のテレビもある。


 廊下やお風呂やトイレに手すりがつけられて、施設から来たリハビリ担当の技師からも許可が出た。お爺ちゃん自身も調子がいいらしく、自分の事は自分でできるらしい。



「来週の土曜日にお母さんが迎えに行くって言っていたわ」


「そうだな」


「お爺ちゃんのためにありがとう」


「小次郎爺ちゃんを追い出して、家は造れないよ。この敷地は小次郎爺ちゃんのものだし」


「きっと喜んでくれると思う」


「おう」



 大地君は2本目のビールのプルトップを開けて、美味しそうにビールを飲んでいる。



「次は子供だな。花菜ちゃん、早く妊娠しないかな?」


「それは授かり物でしょ?」


「家もできたし、子宝授かるように、お参りにでも行こうか?」



 わたしは微笑んで頷いた。



「ドライブのお誘いは嬉しいわ。でも、その前に、千葉のご両親を呼んでお披露目会をしなくちゃ。お兄さん達にも声をかけて」


「そうだったな」



 ビールを飲み干し、大きなあくびをしている。


 引っ越しで疲れたのだろう。その後に買い物にも出かけたから。



「大地君、ここで寝るの?」

 


 わたしもサイダーを飲み干して、大地君の飲んだ空き缶を片付ける。


 食器洗浄機のスイッチを入れてしまう。



「わたしはベッドで眠るよ?」


「ベッドだ、ベッド、ベッド」



 ソファーで眠りかけていた大地君が、急いで立ち上がる。



「電気、消すよ」


「おう」



 二人で寝室に向かう。


 新しい家で、新しいベッドで、横になる。


 この家は温かい。厚着をしなくても寒くない。


 年中使える洗える羽毛布団を羽織ると、大地君はわたしを抱きしめてきた。



「ベッドも寝心地いいな」


「そうね」



 ふわりとキスが落ちてきて、わたし達は初めての家で初めてのベッドで初めての夜を過ごした。



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