第42話 決着、そして……
「ア、ウ……ア……?」
レブラに付与した称号は《愚者》と《怠惰》。
知能と魔力のステータスを下げる称号だ。
「霧が消えた……か」
クリス副長やリアとルルカも麻痺が解けて動けるようになっていた。
レブラの魔力ステータスが称号付与で下がったことにより、発生していた霧も黒い渦も今は消えている。
「ウ……ガァ……!」
レブラは狼狽しながら自分の手を見つめていた。
何度も黒い渦を出そうと手を掲げるが何も変化が起きない。
「ガガガァッ……!」
レブラは俺が何かしたと気付いたのか、両手を突き出しながら俺に向かってくる。
フェイントも何もない、単調な動きだった。
――レブラ。お前がもっと真っ当に道を歩んでいたら、俺も違った称号を付けてやれたかもしれないのにな。
そんなことを考えながら剣の腹を向け、俺はレブラの胴へと横払いの一撃を振るう。
「グ、ゴァ……」
峰打ちを受けたレブラは悶絶し、だらりと体を折った。
気絶したらしい。
「そ、そこまで……! この戦い、ギルド《白翼の女神》の勝利とする!」
――ワァアアアアア!
状況を理解した審判が試合終了の宣言をする。
それから少し遅れ、観客たちから割れんばかりの歓声が巻き起こった。
ルコットを始めとしてギルドメンバーが最前列から手を振り、サーシャ王女が胸の前で合わせた手を握りしめているのが見える。
「やった、やりました! さっすがアリウス様です!」
笑顔を弾けさせて、リアが抱きついてきた。
ルルカとクリス副長も駆け寄ってきて、俺たちは健闘を称え合う。
「これで決着だな、アリウス」
クリス副長がそう言って、気絶したレブラを見ている。
「何が?」とは聞かないでおいた。
***
「ルルカ! 大丈夫でしたの!?」
「だ、大丈夫です、お姉様。師匠が守ってくれたので」
控室に戻るとマリベルが心配をしていたようで、ルルカに駆け寄っていた。
妹の無事を確認してほっとしたのか胸を撫で下ろしている。
「決勝進出、お見事ですアリウスさん」
「ありがとうございます、マリベルさん」
「これで私たちが勝てば決勝はルルカとの姉妹対決ですわ。何としても勝ってきますので待っていてくださいな」
「えー? 大見得を切って負けないでくださいよ、オバサン」
「くっ、このチビっ子ったら……」
リアが茶々を入れ、マリベルがそれに反応する。
そうして言葉を交わしていると、マリベルのチームが審判に呼ばれた。
「じゃあ、言って参りますわ」
マリベルは言って、アリーナの中へと進んでいく。
それを見送った俺たちは、控室の椅子に腰掛けて一つ大きく息をついた。
「これであとは決勝を残すのみ、か……」
あと一つ。
元々はサーシャ王女から依頼され、王族を救うためにという目的で始まった大武闘会への参加。
思いがけずレブラと戦うことになったが、決勝に勝ち進むことができた。
これから行われる準決勝の第二試合を勝ったチームと戦うことになるが、順当にいけば賢者のジョブを持つマリベルのチームと戦うことになるだろう。
そう思っていたが……。
「そこまで――!」
終了の宣言と共に勝者として告げられたのはマリベルのチームではなかった。
「勝者、《
「お姉様が、負け……」
その戦いは一方的だった。
マリベルを筆頭として魔法職のエキスパートが繰り出した凄まじい攻撃。
それを《赤鱗の大蛇》のチームリーダーである男は全て躱し、素手だけでマリベルの魔道士チームを制圧してみせた。
「あんなの、人間の動きじゃありませんわ。しかも、ジョブ能力すら使っていないようで……。恐るべき身体能力でした……」
足を引きずりながら控室に戻ってきたマリベルが放ったのはそんな言葉だった。
「これは……、思わぬダークホースですね。アリウス様」
「ああ。あの動き、確かにマリベルさんが言う通り尋常じゃない」
「お姉様がこんな簡単にやられるなんて……」
「他の三人は数合わせだったのだろうか? ほとんどあのリーダーの男だけで戦っているように見えたが……」
控室からアリーナを覗いていると、《赤鱗の大蛇》のリーダーがこちらを向いて目が合う。
――笑った?
リーダーの男は俺の視線に気づき、微かに口の端を上げたように見えた。
***
「これより、大武闘会の決勝戦を開始する! 《白翼の女神》と《赤鱗の大蛇》の代表者は前へ!」
――ワァアアアアア!
決勝戦の時間を迎え、観客席から大歓声が湧き起こる。
準決勝が終わった後の休憩中、控室には様々な人たちが訪れた。
ルコットたちギルドメンバーやサーシャ王女をはじめ、キール協会長など、ギルドを立ち上げてから今まで依頼などで関わってきた人たちもやって来てくれていた。
その激励を受け、これは負けられないなと、決意を新たにした俺たちは再びアリーナの中央へと歩を進める。
「……」
《赤鱗の大蛇》のリーダーの男は白い髪の奥からこちらを真っ直ぐに見つめている。
――やっぱり、か……。
俺は一つの答えを得て、開始の宣言を待った。
「始めっ――!」
その宣言とともに、俺はリーダーの男に向けて一直線に疾駆する。
「アリウス様!?」
リアの声を背中で受け、男の頭上に剣を振り下ろす。
――ギィンッ!
聞こえたのは鈍い金属音。
男はどこから取り出したのか、手にした短剣を交差させて俺の剣撃を受け止めていた。
そうして鍔迫り合いの格好になりながら、俺はリーダーの男に向けて一言を放つ。
「お前、呪術士ガルゴ・アザーラだな?」
「……ほう。さすがはアリウス・アルレイン。私の変身術を見抜くとはな」
「「「なっ――!?」」」
俺と男の、いや、ガルゴのやり取りを聞いた後ろの仲間たちが驚嘆の声を上げる。
鍔迫り合いから一転して距離を取ると、ガルゴの周りから黒い
そして靄が収まり、そこから現れたのは赤い髪に赤い瞳。
ガルゴ本来の姿があった――。
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