第34話 称号士は王女に出会う
「お前は、確か弓矢を扱うのが得意だったな。なら、命中率をアップさせるこの称号はかなり効果があるだろう」
「そんなことが……」
「試しにそこの的を射てみるといい。たぶん違いが分かるはずだ」
「――おお、凄いですアリウスさん! 今までの精度とは桁違いですよ!」
「それは良かった」
称号付与したギルドメンバーが喜んでいるのを見て、俺まで嬉しくなった。
かつて《黒影の賢狼》で共に戦った仲間。
今は俺たちのギルド《白翼の女神》の仲間だ。
《黒影の賢狼》におけるギルドメンバーの大量脱退、及び《白翼の女神》へのギルドメンバー大量加入は、たちまち人々へと知れ渡ることになった。
そのこともあり、《黒影の賢狼》はA級からC級に、《白翼の女神》はB級からA級へとギルドランクが変更になっていて、今王都ではちょっとした……、というかかなりの話題になっている。
「ふう。これで称号付与は全員かな?」
「お疲れさまです、アリウス様」
移籍してきたギルドメンバーに称号付与を終えると、リアが覗き込んできた。
ギルドの1階部分では、称号付与により自身の能力が大きくパワーアップしたことに感動するギルドメンバーが多数。
先日までは俺、リア、ルルカ、ルコットの4人しかいなかった空間に大勢の人数がいるのを見ていると、何だか実感が湧かない。
広々としたギルドで良かったなと、そんなことを考える。
「それにしても、順調ですね。アリウス様の強さに加えてこれだけのギルドメンバーがいれば《大災厄の魔物》にだってきっと立ち向かえますよ」
リアがギルドメンバーの賑やかにしている様子を見ながら微笑む。
非常に強大な力を持っているという「漆黒の竜」。
「今年の暮れにこの竜が現れグロアーナ大陸全土を脅かす存在となる」というのが、リアの預言した内容らしいが。
「しかし感慨深いですねぇ。アリウス様とふ・た・り・で、立ち上げたギルドがここまで発展するとは。いやまあ、アリウス様と二人きりの時間が減ってしまったのはアレですが。む、待てよ? ギルドメンバーが増えたということはそれだけアリウス様の時間も増えるということ。であればデートなどもやり放題なのでは?」
「……」
やり放題、ではない。
災厄の魔物に立ち向かうという話から一転、リアはとても個人的な妄想にふけっているようだ。
もはや日常的な光景になりつつあったが、こういう時はそっとしておくに限る。
「アリウス。ご苦労だったな」
リアが隣で妄想にふける中、クリス副長に声をかけられた。
「それにしても、本当にそのジョブ能力は凄まじいな。これだけの人数の力を引き出すのだから。かくいう私も称号付与をしてもらった一人だがな」
「いえ。前にもお話した通り、この力はその人の行いによって付与できる称号や効果が異なりますからね。プラスに働く効果が得られているのはその人がこれまで頑張ってきたからですよ」
「ふふ。謙虚なことだな」
クリス副長がそう言って対面の椅子に腰掛ける。
「そういえば、クリスさんこそありがとうございます。副長の任を引き受けてくれて」
「いや何。というか本当に新参の私で良かったのか?」
「ええ。リアもルルカにも、ガラじゃないって断られてましたから。それに、これだけの人数となると俺一人じゃ細かいところまで見てやることはできないと思います。元のギルドでも関わりのあったクリスさんが一番適任かなと」
「そうか。そう言ってくれるのは素直に嬉しいよ。それに、ギルドの空き部屋を
言って、クリス副長は膝に乗せていた熊のぬいぐるみを撫でている。
クリス副長はこのギルドにやって来る際、大量の荷物を持ち込んできていた。
その大半が動物のぬいぐるみで、クリス副長のことをあまり知らないリアやルルカ、ルコットは驚いていたっけ。
まあ、俺も前のギルドで見慣れているとはいえ、そのクールな立ち振舞いとのギャップを感じるけど。
それに、ぬいぐるみを膝の上で抱えられると、その……、少し目のやり場に困るところがある。
「ううむ。それにしてもデカいですねぇ」
「ん? 何がだ?」
リアが手を顎に当てながら言ったところ、クリス副長が分からないと言った様子で聞き返す。
リアの視線は、ぬいぐるみの上に乗っかり強調されたクリス副長の胸に集中していた。
デカいというリアの意見も、……まあ分かる。
「自覚がないとは……。クリスさんは何というか……、凄いですね」
「よく分からんが、女神様に褒められるのは悪い気がしないな」
「ぐ……! こ、これが天然……!」
リアが頭を抱えて仰け反り、クリス副長は怪訝な表情を浮かべてそれを見ていた。
ちなみに、クリス副長を始め今のギルドメンバー全員にはリアの正体を明かしている。
このギルドの一つの目的である《大災厄の預言》に立ち向かうということについてもだ。
その唐突な事実に新参のギルドメンバーが付いてこようとしてくれるか不安だったが、「恩を受けた分は返しますよ!」と皆が口を揃えて協力を誓ってくれた。
本当にいい奴らだ。
「アリウス、今後のことなんだが」
「ええ。ギルドの活動をどうしていくか、ですね」
クリス副長が座り直していったその言葉に、俺も姿勢を正す。
「まず、以前アリウスが言っていた呪術士ガルゴという男。この男がレブラと何らかの関わりがあったのは間違いないだろう」
「ええ、クリス副長が《黒影の賢狼》にいた時、レブラの執務室でガルゴ見たということからも明らかでしょうね」
「この男にどんな目的があったのかは分からんが、不穏なものを感じるのも確かだ。とはいえ、あのグロアーナ通信の記者からも特に情報は入ってきていないのだろう?」
「はい。タタラナ温泉郷でフロストドラゴンと戦った時以来消息は不明でして」
「ふむ。奴のことは気になるが、今は地道に情報収集をしていくしかない、か。レブラから聞き出せれば良かったのだがな」
レブラはあれ以降、ギルドに姿を見せていないらしく、行方が分からなくなっていた。
と言っても、ギルドメンバーが自分一人だけではギルドでやることも無いのだろうが……。
「となると、やはり《大災厄の預言》で現れるとされている漆黒の竜について、ですね」
「ああ、女神様の言うところによれば――」
「もう! クリスさんってば。『リア』で良いって前に言ったじゃないですか」
「む、そうだったな……。リアの話では今年の暮れに現れるということだったが、まだ詳しく話を聞いていなかったな。何か知っていることはあるのか?」
「そうだな。それは俺も聞きたい。リアがこの世界に伝えた預言ってことは、女神の力によるものなんだよな?」
リアが俺とクリス副長の質問に対し、ムムムと考え込んでいる。
「ええ。確かにアリウス様の仰る通り、《大災厄の預言》は女神の力によるものなのですが、私も時期以外は詳しく分からなくてですね。その漆黒の竜が超強いってことは分かるんですが」
「今年の暮れ……。あと半年ちょっとか。となると、そこまでにギルドの依頼をこなしながらみんなで強くならないと、だな」
幸いにもA級ギルドに昇級したことによって寄せられる依頼の数も増えるだろう。
人数も多くなったことだし、皆で分担して依頼に当たれば経験値を積んでいくことができるはずだ。
「ふむふむ。となると新しく依頼を受注したいところですねぇ」
「ああ、それについては早速今日話があってな。ウチのギルドに依頼者が一人来るってことをギルド協会のキールさんから聞いているが」
「ほう。そうなのか、アリウス」
「ええ。もうすぐ来る頃かと――」
「失礼致します。ギルド《白翼の女神》さんはこちらでしょうか?」
鈴の鳴るような声とともにギルドに入ってきたのは一人の女性だった。
フードを
「初めまして。《白翼の女神》のギルド長、アリウス・アルレインと申します。キール協会長が話していた依頼者の方ですか?」
「ええ、その通りですわ」
生地のしっかりした外套を羽織ったその女性は、端的ながらも丁寧な口調で答える。
話し方や風貌からして高貴な身分の人のようだ。
その女性が、フードを取る。
妖精かと見まごうようなブロンドの髪に整った顔立ち。
こんな女性が街中を歩いていたらさぞ目を引くだろうと、そう思わせるような容姿だった。
どんな依頼者なのか興味があったのか、リアも俺の隣にやって来て感嘆の声を上げる。
「ふわぁ、綺麗な方ですねぇ」
「ふふ。そう仰っていただけると嬉しいですわ」
リアの言葉に、その女性は口に手を当てて上品に笑っている。
やっぱり、何かしら地位のある人なのだろうか?
「失礼、自己紹介がまだでしたね。……初めまして、アリウス・アルレインさん。私、この国の第三王女、サーシャ・ド・ヴァリエールと申します」
「ええ、初めまして」
「なーるほど、王女様でしたか。どうりで」
「……」
「……」
沈黙の後、リアと顔を見合わせる。
このお嬢さん、変なことを言わなかったか? と確認するかのように。
そして、先程放たれた言葉を消化した後、二人で揃って絶叫した。
「「お、王女様ぁ!?」」
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