第32話 称号士と始まりの遺跡


「アリウス。本当に……、本当に礼を言う。私たちを助けてくれたこと、深く感謝する」


 俺はクリス副長を始め、かつてのギルドメンバーから頭を下げられる。


「いえ、本当にみんな無事で何よりです。それに、これは俺たちに声をかけてくれたポールのおかげでもあります」

「そうか、ポールがアリウスを連れてきてくれたのか。ありがとう」

「は、はい。でも、クリス副長やみんなが無事で本当に良かったです」

「リアにルルカも、サポートしてくれて助かったよ」

「いえいえ」

「師匠のお力になれて良かったです」


 俺たちはエンシェントゴーレムを倒した後で互いの健闘を称え合う。


「それにしても、なぜエンシェントゴーレムが動き出したんでしょうね?」


 リアが動かなくなった黒水晶の巨人を見ながら呟く。


「それについては分からないことが多いな。呪術士ガルゴが操っているのかとも思ったが、その様子は無いみたいだし……」

「むむむ。まだ《大災厄の預言》の時期でもないんですけどねぇ。災厄の魔物がいなければあんなデカブツ動けるはずがないんですが……」


 リアが頭を抱えながら唸っている。


 そういえば、《大災厄の預言》についてまだ深く聞いたことが無かったな。

 これまでは時期も遠かったし、妹のルコットやギルドを軌道に乗らせることに手一杯だったが。

 そろそろリアともちゃんと話をしなければならないだろう。


「とはいえ、まずは《黒水晶の洞窟》から脱出することか。まだ洞窟内に残ったモンスターも少なからずいるだろうし、負傷しているメンバーもいる。帰り道も気をつけないとな」

「……あの、師匠。あそこの壁が崩れたところ、何か奥に通じてる感じがしませんか?」


 ルルカが魔女帽子の奥から俺に問いかける。


 見ると、先程エンシェントゴーレムが叩きつけられた壁面が崩れ、奥へと通じているようだった。


 ――これは、隠し通路か?


 慎重に近づくと、ポッカリ空いた穴の奥は通路のようになっていた。

 通路の方からは冷たい風が吹いてきている。


 リアに気配探知の力を使ってもらったが、この先にモンスターの気配は無いとのことだった。


「もしかしてどこか出口へ通じているのかもしれないな。ちょっと確かめてくるか」


 俺は負傷している者たちをクリス副長とルルカに任せ、リアと一緒に先行して奥の通路を確かめることにした。


 歩く途中で「んふふー。こう暗い中で二人っきりとかドキドキしますねぇ」とか言って腕を絡ませてきたリアは無視して、通路を進んでいく。


 ――何かこれ、既視感があるな……。


 そう思いながら歩いていると、案の定だった。


 開けた場所に出たかと思うと、そこには巨大な石柱が規則正しく二列に並んでいる。


 リアと初めて出会った、あの遺跡だった――。


「なぁるほど。あの遺跡と黒水晶の洞窟は繋がってたと。だからあの時突然モンスターが出てきたりしたんですかねぇ?」

「それは分からないが……。とにかく、こっちからなら安全に外に出られそうだ。みんなを呼んでこよう」

「えー? もうちょっとこう、思い出に浸りません? 初めてアリウス様と出会った運命的な場所ですしぃ」

「却下。今はみんなの安全が先」

「ですよねぇ……」


 リアががっくりと肩を落とすのが面白くて少し笑ってしまった。


 ――確かに、ここでリアと出会って、それから始まったんだよな。


 あの時から色んなことがあったけど、この女神様は変わらないなと、俺はどこか感慨深くなった。


 思えばあの時、リアと出会わなければこんな風にはなってなかったんだろうと、そんなことを考える。


(――リア、ありがとうな)


「ん? 何か言いました? アリウス様」

「いいや、何にも」


 小さく呟いた俺の声は女神様には届かなかったようだった。

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