第23話 孤児院

「ここだよね?」


「そのはずだけど……」


 ファトルメイトと親睦を深めた翌日、ファトルメイトから伝えられた冒険者組合を訪れ、その後ここにもいた受付のエコーさんに指示された場所へと二人はやって来ていた。


「冒険者組合で言われた通りに来たから間違ってはないはず……でもこんな宮殿みたいな建物が孤児院っていうのは─────」


「あ!おじちゃんといたお姉ちゃん達だー!」


「ほんとだー!お姉ちゃん達だー!」


「本当だったみたいだよシィー」


「……そうだね、ノーちゃん」


 一体何処に潜んでいたのか、本当にここが冒険者組合に指示された場所である孤児院なのかと、立派な建物の前で立ち尽くしていた二人に子供達が群がってくる。

 そんな元気な子供達は一体誰かというと─────


「みんな元気にしてた?ハグラァドさんに迷惑かけてない?」


「「「うん!」」」


 カルラドアコアで出会い、ウィーギンティーに押し付けられ、ハグラァドがこの大陸まで連れてきたコルド・ア・カルドの子供達である。


「そっかそっか〜♪それじゃあそんなみんなにはお姉さんがお土産をあげよう!みんなで分けて食べるんだよー?」


「「「わーい!」」」


「まぁでも、呼び出しって聞いたから身構えてたけど、ハグラァドさんからこの子達についての事後報告って感じだったね」


「わざわざ冒険者組合に置き手紙しなくても、居場所が分かってるなら直接来ればいいのに」


「まぁまぁ、そんな事言わないのノーちゃん。ハグラァドさんもお仕事だったりで忙しいんだよきっと」


「ねーねーちっちゃい方のお姉ちゃん。今日は羽ないのー?」


「だーれがちっちゃいだってぇ?」


「わー!」「おこったー!」


「あはは。楽しんでおいでー。さってと……」


 ーーーーーーーーーーーーーー


 コンコンっ!


 書類の積まれた簡素な机と、壁の棚や額に子供達から送られた沢山の贈り物や絵などが飾られた部屋の中、老齢の男の耳にノックの音が届く。


「はい」


「院長、お客様です」


「どなたですかな?」


「緋色の長髪が美しい冒険者の方です」


「ふむ。冒険者の方、ですか……わかりました。ここへお通ししてください」


「かしこまりました。どうぞお入りください」


「失礼しますー」


「……さて、この大陸は平和な故冒険者自体が珍しい。そんなただでさえ冒険者が珍しい場でこのような子供達の為の場所へわざわざ起こしになる冒険者となると、ハグラァドの差し金ですかな。お嬢さん?」


「差し金なんて大したものじゃ無いですが……えっと、出直して来た方がいいですか?」


「ははっ、そう気にしないでください。お嬢さんはハグラァドに任された子達の関係者の冒険者なのでしょう?こんな場所で申し訳ないですがゆっくりしていってください。それに、妹さんには子供達と遊んでもらってますし」


 職員の女性に入室の許可を出し、開けられたドアから直ぐに入ってきたルシィーナに院長と呼ばれた男はそう言って椅子を持ってくる。


「では改めて、私はここハァンドラング孤児院の院長を務めておりますデトロアと申します。以後お見知り置きを」


「デトロアさんですね。私はルシィーナ、妹のノートゥーンと共に旅をしてます」


「ハグラァドから聞いてはいましたが、その歳で旅で度とは。いやはや、これは将来大冒険家になりそうですな」


「ありがとうございます。所でデトロアさんはハグラァドさんとだいぶ親しそうですが、お知り合いなんですか?」


「ははっ、知り合いも何も。あの「諸刃」と私は数十年冒険を共にした仲ですから」


「諸刃?」


「おや、知らないのですか?諸刃のハグラァド、あの風来坊に与えられたファーステッドを示す二つ名ですよ」


「そうだったんですか……ってハグラァドさんと数十年冒険を?それってまさかデトロアさんも……」


「はい。私もファーステッドの端くれとして「撃砕」という二つ名を頂いております」


 ルシィーナは少し驚かされながらもデトロアと互いに自己紹介を交わした所で、ちらりと窓から外で子供達と遊んでいるノートゥーンと目配せをする。


「お二人もその歳でサーティアなのですから、いずれファーステッドにも手が届くと思いますよ」


「ありがとうございます。所でデトロアさん、天気も悪いですし、そろそろ子供達を中に入れた方がいいのでは?」


「おや、その方が良さそうですな。では子供達を院に上げますので、御一緒に来ていただいても?」


「勿論です」


 ーーーーーーーーーーーーーー


「疲れた」


「お疲れノーちゃん」


「いやはや、子供達の相手をして下さってありがとうございます。この老骨では子供達の元気に付き合うには少し厳しくて、また来た時にも是非よろしくお願いします」


「まぁ、たまになら」


 子供達を抱えて、と言うよりは体のあちこちに抱きつかれた状態で院内へと子供達と一緒に入ったノートゥーンは、ようやく子供達から解放され疲れきったようにそう答える。


「所でシィー」


「ん、分かってるよ。ではデトロアさん、少し風の音が騒がしいかも知れませんので、子供達が怖がらないよう奥にやっておいてあげてください」


「ご親切にどうも。お2人も濡れないようお気をつけて」


「お姉ちゃん達ばいばーい」「また遊びに来てねー」


「みんなまたねー」


「ん、また来る」


 別れの言葉を交わし、デトロアが院の奥に子供達を連れて行くのを見送った後、孤児院を出て扉を閉めた所でルシィーナはブレードロッドを、ノートゥーンは拳を構える。


「さて、それじゃあまずは炙り出さないとね……地波撃陣アゥムプルズ・フルク!」


 そしてルシィーナがそう呪文を唱え魔術を発動させると、ルシィーナから黄色い波動が地面を這う様にして広がり─────


 ドゴン!


「ビンゴ、流石シィー」


「ありがとうノーちゃん。それじゃあ、引っ張り出すのはよろしくね」


「まかせ……って!」


 孤児院周りの林の中から岩柱が飛び出し、そこへ向かってノートゥーンが凄まじい勢いで突っ込み、何度か凄まじい音がした後に緑の迷彩色の外套を纏った男と攻防を繰り返しながら戻ってくる。


「シィー!」


四方岩壁陣サグスムルズ・クヴァル!」


 そして二人の姿が林から出てノートゥーンに呼ばれたルシィーナはその男を逃がさない様にすべく、四方へと岩の壁を作り男と二人を包む場所を作り上げる。


「さて、それじゃああの子達の為にも─────」


「悪い天気は払う!」


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