第13話 霊峰

「ここが霊峰……確かになんだか力を感じるでござるね」


「ですね。こんな素晴らしい物と出会えるから冒険者は辞められません。それでどうです?お二人も竜に繋がる何か、この霊峰から感じ取れましたか?」


「どう?ノーちゃん、竜に繋がるものはありそう?」


「それはまだわかんないけど……ここまでエネルギーに満ちてる場所は珍しい。竜の影響か、それとも自然に累積したものかわかんないけど、何か手がかりはあると思う」


 雲を纏った霊峰の麓、霧に覆われた樹海の中で4人はそう雲を貫く荘厳な霊峰を見上げながらそんな会話をしていた。


「それなら、なんとしてでも手がかりを掴もうねノーちゃん!」


「うん!」


 あれから2週間が経過し、なんとかそんな霊峰へとルシィーナとノートゥーンも竜の手がかりを見つけようと張り切っていた。


「でもまさか依頼を受けた山が竜の伝承がある山とは驚きでしたよ」


「しかしこちらとしても知識が豊富なルシィーナ殿と力があるノートゥーン殿、お2人が来てくれて助かるでござるよ。さて、それでは何処から登るかでござるが……」


 そう天裂は言うと目の前に親方から渡された霊峰の南西部が描かれた地図を3人の前に広げる。


「親方から聞いた話では主に今回の調査で使えそうな道は三本、山の中腹の湧き水から流れる川伝いの道、見晴らしのいい岩の道。そして……」


「森に覆われた登るのは楽だけど魔物が現れる可能性が高い森の道……ですね。ルシィーナさんはどの道がいいと思いますか?」


「えー……っと、川伝いの道は水の消費が抑えられる。岩の道は見晴らしがいい、森の道は体力の消耗が抑えられる……という利点がありますね。しかし……」


「しかし?」


「どれも無視し難いデメリットがあります。まず川伝いの道は足場が悪い、そして水を求めてやって来た魔物に出くわしやすいですね」


「なるほど」


「次に岩の道、ここは単純にメリットはデメリットにもなってますね。開けすぎてるせいで隠れられず襲われやすい、それに木がないという事は風化で岩が崩れやすくなってるはずです」


「ふむふむ」


「そして最後、森の道ですが見通しが悪いし足場も悪く、時期的に食料になる木の実もない。それに魔物が出るならわざわざ通る理由はありません。正直論外です」


 そう言いながらルシィーナは地図を指さしながらそれぞれの道の利点と悪い点を即座に上げていき、それを見た二人は頭を悩ませ、一人は胸を張って喜んでいた。


「嬉しそうでござるな、ノートゥーン殿」


「シィーは頭がいいからね!頼られて当然なのさ!」


「ははっ、ノートゥーン殿はお姉さんが大好きなのでござるな。しかしどの道から行ったものか……」


「大丈夫、もちろん代替案を用意してありますよ。この道で行きましょう」


「これは道……というより崖ではござらぬか?」


「はい、崖です」


「まさかこれを登る……なんて事はないですよね?」


 ルシィーナの指さした地図でずっぱりと線の入った崖を示す場所を見て、何を馬鹿なといった顔をしながらそう尋ねる2人を前にルシィーナは説明を始める。


「崖が生まれるには幾つかの原因が必要となります。河川による岩盤の侵食、風化による崖崩れ、地すべりなんかの地形変動……この場合地形的に原因は地すべりでしょう」


「ほう……それで?」


「地図を見た限りこの山は幾つか枯れた水源がある様な後があります。ですからこの霊峰の地下には洞窟が存在すると思われます」


「洞窟……ですか?」


「はい。そしてこの崖には付近に水源が枯れた後があり、尚且つよく風の当たる場所です。つまり洞窟の入口がここにある可能性はとても高いです」


「それで洞窟があると」


「はい。そもそも今回の目的は調査であり登山ではありません。それに洞窟の方が鉱石はあると思いますから、調査するならこちらの方がいいかと」


「なるほど、確かにそれなら利点もある上に調査もできる。一石二鳥ですね」


「そういう事です。という事で私はここに行く事を提案しますが、皆さんはどうですか?」


「拙者は賛成でござる」


「私も賛成です」


「ノーちゃんは?」


「僕はシィーが行くならそこで」


「なら決定ですね!位置はここから丁度北に行った所ですし、今日はここで野宿して明日向かいましょう」


 ルシィーナのその提案に全員が賛成した所で、4人は手早くそれぞれここ数週間で身についたテントの設営や料理といった役割をこなして行く。

 そして1時間も経たないうちに少しだけ開けた会議を行っていたその場には、立派なテントと干し肉がメインとは思えない美味しそうなご飯が用意されていた。


「あんまりこういうのは言うべきではないのかもしれませんが、やはり女性の方が1人でもいると冒険中の食事が彩り豊になってとても楽しい物になりますね」


「そうでござるな。どうも男のみだと干し肉をそのままであったり、狩った獲物を焼いただけであったり、そもそも食べなかったりするでござるからなぁ」


「えぇっ?!冒険者は体が資本なんですから、きちんと食べないとダメですよー!少なくとも私達がいる間はきちんとした物作りますから、覚えて行ってくださいねー?」


「シィーの料理は天下一なんだから!見て覚えてもそう簡単に再現は出来ないぞー?」


「褒めすぎだってノーちゃん。それに、こんなに美味しいのはノーちゃんが美味しい果物とか野菜を見つけてきてくれるからだよー」


「ははっ!お2人は本当に仲が良いんですね……っと、どうやら美味しい物に釣られたのは我々だけではないようですね」


 マシュウさんのセリフを聞いて各々が自らの傍に置いてあった武器を手に持つと、それを合図にしたかの如く茂みから無数の赤い瞳が覗き始める。


「ふむ……魔物ではなく狼でござるか」


「これならルシィーナさんのデビュー戦に丁度良さそうですね。ルシィーナさん、基礎は大丈夫ですね?」


「は、はい!」


「ではここはルシィーナ殿に攻撃を任せるでござる。後ろは我らが、そちらの守りはノートゥーン殿にお願いするでござるよ」


「ん、シィーは僕が守る」


 4人は軽くそう打ち合わせをすると、焚き火を中心に囲まれている事を前提とした布陣に付き、茂みから姿を表した狼達に対峙する。


 敵は5匹、狼だから動きは早い……なら!


石水渦陣ヴォルテ・ラピア!」


「ギャウッ!」「ギャンッ!」「グァフッ?!」「ンギャアウ!」


「よ、よし!上手く決まっ!?」


「ガァウッ!」


「はっ!」


「グギャアッ!」


「あ、ありがとノーちゃん。助かったよ」


「ん、任せて」


 ルシィーナが呪文により現れた魔法陣から出た砕石混じりの渦潮は狼の大半を倒したものの、打ち漏らしていたルシィーナに飛びかかった1匹をノートゥーンが殴り飛ばす。

 そしてそんなやり取りをしている間にマシュウと天裂のの方の戦闘も終わっていた。

 こうして、ルシィーナの初戦闘は危なげもなく終わったのだった。

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