第15話 「その作戦──行っちゃダメだ」
「あ、
絹柳も誓矢たち同様、力に覚醒したガーディアンの一人である。
「あれ? 避難民を送っていくから遅くなるって連絡したはずだけどな」
「ああ、そうだったのね──で、それはそれとして」
頭を掻きつつ応える光塚に、絹柳は了解したという風に手を動かしてから、あらためて二人に向き直る。
「帰ってきてすぐのところで大変だと思うんだけど、出動命令がでてるの」
「出動命令──?」
そう呟いた誓矢は、少し遅れて数人の生徒がこちらへ向かってきているのに気づいた。
全員同じクラスの生徒──
眉をひそめる光塚。
「もしかして、このメンバーで出るっていうのか? 珍しい──というか、もしかして
光塚が
力を隠している誓矢以外の光塚、厳原、絹柳、風澄、森宮の五人は、ガーディアンズの中でもより強力な力を持つと評価されている存在だ。基本、出動するガーディアンズはクラス単位で決定されるのだが、この五人に限ってはリーダーとして他のガーディアンを率いることが多く、このメンバーでチームを組むことは今までなかったのだ。
剣道部の期待の新人と目されていた優等生風の厳原が皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「今回の護衛対象は
「まあ、それは私たちにとってはどうでもいいことだけど」
森宮が静かに言葉を続ける。休み時間はいつも読書をしている大人しいイメージの少女だ。
「大量の援助物資も調達してきてくれたらしくて、確実に迎え入れたいという話だそうよ」
「最近、学校の環境も悪くなるいっぽうだし、これで改善するといいのだけれど」
そうため息をつく絹柳に、結った長い黒髪を背中まで伸ばしている姿勢の良い、凜とした雰囲気の風澄も同調する。
「本当に──避難民を受け入れるのも重要だけど、その結果、ガーディアンたちのモチベーションが下がるのでは本末転倒よね」
互いに顔を見合わせて苦笑する五人に、誓矢がおずおずと声をかける。
「……えっと、それじゃ、僕は教室に戻るね。みんな気をつけて無事に帰ってきて──」
そう言って立ち去ろうとする誓矢だったが、そんな彼の後ろ襟を絹柳がガシッと掴む。
「勝手に自分で判断しない。今回の作戦にはあなたも参加するのよ──氷狩くん」
「え、そうなの?」
ギギギッと振り返る誓矢に、それぞれの表情でうなずく、絹柳、厳原、風澄、森宮。
光塚が笑顔を見せる。
「氷狩だって重要な戦力なんだぞ、いつも的確にサポートしてくれるし。あまり、自分の力を低く見積もるなよ」
絹柳がみんなを促す。
すでに移動のための自衛隊の車両は準備ができているという。
「さあ、立ち話なんかしている暇ないわよ、緊急の案件なんだから。さっさと行動!」
「あ、はいっ!」
ポンと背中を叩いてくる絹柳に、思わず背筋を伸ばしてしまう誓矢。
そこへ、さらに二人の生徒が息を切らせて走ってくる──ユーリと
「セイヤっ!」
「セイヤくんっ」
駆けつけてくるなり、ユーリと沙樹はそれぞれ誓矢の腕を掴む。
「その作戦──行っちゃダメだ」
「うん、危険すぎるの。絹柳さんたちだって危ないかもしれないのに」
ユーリの説明によると、今回の救援対象となっている避難民団の一行は、この青楓学院に向かうために最短ルートを進んできている。そして、そのルートの先には──
「怪物が大量発生している可能性が高いエリアを突っ切ろうとしているんだ」
拳を手のひらに打ちつけて苛立ちを抑えようとするユーリ。
沙樹が言葉を続ける。
「そのエリアは自衛隊の人たちも迂回しているくらい危険な場所だし、いくら、みんながエースクラスだからって、無謀すぎるよ……」
ユーリと沙樹の言葉に戸惑いの表情を浮かべる誓矢たち六人。
「出動はもう決まったことだ!」
さらに、そこへ一人の青年──霧郷が現れた。
「何をグズグズしているんだ、今は一刻を争う時なんだぞ、それに──」
霧郷は厳しい表情から一転、やさしげな笑みへと表情を変える。
「それに、君たちはガーディアンズの中でもトップクラスの能力を持つメンバーなんだ。しかも、同じクラスの仲間で気心も知れている。そんな君たちが連携を取って挑めば、もし怪物の群れに襲われたとしても、確実に撃退できるさ」
「そんな、無責任だ!」
さすがに我慢できなかったのか霧郷に掴みかかろうとするユーリを、とっさに誓矢が後ろから止める。
「ユーリ!」
誓矢に名前を呼ばれて、ハッと我に返るユーリ。
騒ぎに気づいた生徒や一般避難民たちが集まってくる。
霧郷はわざとらしく肩をすくめて見せた。
「今は仲間同士で争っている場合じゃないからね──それはともかくとして、皆急いで出動してくれ。大変な任務だけど、君たちを信じている。頼んだよ」
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