第181話 僕は奥様が、耳が良い事を忘れていた(1)

「ご、御免。御免ね。一樹。私仕事に戻るから」と。


 僕の背を、シャツを、自身のしなやかな指日本で摘まんで泣き。涙を垂らしながらもさりげなく甘え。


 僕と離れたくないと、意思表示を見せていた。示していた翔子が。


 未練たらたらとある様子、素振りで。


 自身の指を離し、僕の背からスーパーマーケットのバッグヤードに向けて移動──。


 それも足早に移動をする足音が。


 切なく、悲しい、気持ちで俯いている僕の耳へと聞こえてくる、だけではないのだ。


「……一樹、検査したらまた電話をするね」と。


 翔子が寂しい。悲しい声音で告げてくるので。


「うん」と、頷いた僕だった。


(う~ん、どうしよう? どうしたらいい?)と。


(何てエルに説明をしたらいいのだろうか?)


 僕は自身の脳裏でついついと思い。考え込んでしまったのだ。


 家の元勇者で将軍さま、エルフで宇宙人の奥さまが、僕の考える事、思考する事は全部わかる。


 お見通しなのだと言う事をすっかり忘れて思案を始め出した。


 と、なれば。


 直ぐに僕の耳へと。


〈ザクザク〉と。


 SF映画、シネマの金字塔。ハリウッドスターも勢揃い。


 そう。ス〇ーウ〇ーズのダースベイダのリズム。行進曲と共に。


 家の可愛い奥さまが、勇者、天女さまではなくて、魔王の如き形相──。


 自身の美しい顔の眉間に皴を寄せ、険しい顔……。


 魔王の如き様子で、こちらにきたのだと思う。思うのだ?


 僕自身がエルにマツダのボンゴエアロカスタム仕様の扉を勢い良く開けられる迄俯いていたから気がつかない。


〈ガチャン!〉


〈ドーン!〉


 そう。俯き、気落ちしている僕の目の前で扉が勢い良く開いたから。


「えっ?」と、「わぁっ、びっくり!」


 僕は驚嘆を漏らし、自身の顔を上げたのだ。


 と、同時。


 ギュッと力強く。


 僕は自身の髪を掴まれて、思いっきり、と言うか?


 強制的、強引に自身の俯いている顔を上げさせられた。


 家の本来ならば、大変に麗しい。この世の者とは思えないほど美しい奥さまエルにね。




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