第49話 いつもの手で

 俺の見込みどおりにことは運んだ。

 俺がズボンを奪った相手、橘組の若頭が地図に印をつけた。

 諸戸一味の潜伏場所として、可能性の高いところを三つ、それより可能性は低いが心当たりのある場所を四つ。

 地図を受けとって表に出ると、イサムが若い衆に囲まれていた。十人はいる。その包囲網のなかでもセツは涼しい顔をしていた。

 俺はもらった地図を振り回した。

「散れ散れ! 俺たちは客だぞ!」

 俺の後ろで若頭も声を張った。

「もういい! こいつらは味方だ!」

 若頭はいま下にジャージを履いていた。

 若い衆はあいだを空けたが、それでも激しい敵意を込めて俺をにらみつけてくる。こっちは若頭のズボンを履いてるんだから、そうもなるだろう。だが、俺達はそんな目つきに怯むようなタマじゃない。

「じゃあな! お前らに損はさせねえ!」

 俺は愛想よく手を振ってイサムに乗りこむ。

 イサムが声をかけてきた。

「ストリップでもしてきたのかよ、おっさん」

「そんなところだ」

 セツも微笑んだ。

「相変わらずひどいカッコだが、うまくいったのか?」

「どうだかな。諸戸たちが潜んでいそうな場所に印をつけてもらってきた。五人が過ごせる場所なんてそんなに多くないだろ」と、地図を手渡す。

 セツは地図を確かめながら言う。

「市内二箇所、残りは市外か。あいつらの罠の可能性は? ズボン取ったんだし」

「どのみちなんのアテもなかったんだ、そうだとしても乗ってやるさ」

「香華子ちゃんはどうしてる?」

「部屋で休んでるだろ。あの子がホントに俺たちのことをずっと視てたんなら力はわかってるはずだ。心配してねえって」

「それもそうか。それじゃ研究所に戻ろう。イサム」

「うぇーい」

 イサムは動きだし、プップーと挑発的にクラクションを鳴らした。一斉に敵意の視線が向けられる。俺たちは気にしないで帰っていった。


 研究所に戻ると、ロボの作った夕飯が振る舞われた。研究所にはいざってときのために、予備の服を多めに置いてある。それに着替えて、俺もごちそうになった。

 夕食の席上、えひめは香華子のことを心配したが、問題ないと伝える。

 夕飯のあとは会議になった。

 応接室のテーブルについて地図を囲む。

 俺は言った。

「可能性の高い三箇所は温泉付きマンションに、閉鎖されたバー、それに閉鎖されたライブハウスか。どこもありそうっていやありそうだな」

 セツが口を開く。

「諸戸たちは全員一緒にいると思うか?」

「一緒のほうが動きやすいだろ」

「透明化のやつ、江藤耀司と衝撃波の烏羽鉄火がコンビを組んでいればふたりだけでほぼどんな敵にも対応できる。諸戸がどんな能力を持っているかはわからないが、やつら全員の力が必要になるような相手は、わたしたちぐらいだ。だが、わたしたちの存在はまだ諸戸たちに知られていない」

「バラバラだったら対処しやすいけどよ、そう都合よくもいかないだろ。ところでやつら、逮捕したあとはどうするんだ? 簡単に逃げられちゃかなわないぜ」

 博士が答えた。

「次元接続体にはケースバイケースで対処するしかないが、次元接続体の能力を無効化できる装置がひとつだけあるそうだ。それは次元接続体による新成物で複製がきかないものらしい。それをもっとも強力な人物に使うとして、それで今回は対処できるだろう。透明化は接触してしまえば無効だし、烏羽の衝撃波には気づいたことがある。烏羽は衝撃波を発する対象を目でとらえなければ撃てないだろうということだ。目隠ししてしまえばいい」

 俺は素直に感心した。

「俺が戦ったときのイサムの録画でそんなことまでわかるのか。さっすがー」

「この眼は伊達ではないよ。麻痺の男、川辺夕の能力は頭部に接触しなければならない。封じるのは容易いだろう」

 セツが言った。

「それでは、あとは偵察ですか?」

 博士はあごに手を当てた。

「やはり監視カメラをしかけるべきだろうな。各所を望遠で捉えることのできるいい設置場所があればいいんだが。坂上蒔絵の能力に発見されるともう二回目になる。我々のような存在が彼らを追っていることに勘づかれてしまうだろう。それは避けねばならない。とにかくわたしとイサムで今夜中になんとかする。君たちはゆっくり身体を休めてくれたまえ」

 

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