05 エロバード君!?

 町を襲った危機を乗り越えつつ、カナリアと仲良くなったクリス。

 その後の2週間ほどで、女子同士だったら多少スキンシップのアウトカウントが緩い事が分かったり、クリスの相手が嫌がらない限りガンガン行く性格の所為でカナリアの脳味噌がどんどん破壊されていったりしたが、まあそれは置いておこう。

 一先ず、そんなこんなでアルケーの町にクリスは受け入れられた訳である。


 しかしながら、全てが完全に解決した訳ではなく、多少のやり残しが残っている。

 その1つを片付ける為に、クリスは少し暇を貰って、1人――デザベアは居るが――で町の近くの森深く、自分の力の所為で意味不明の聖域と化した場所の前までやって来ていた。


「ここ、ですか……」


 一見、何の変哲も無い森に見える場所。

 しかし、クリスがやって来た途端、森が蠢いた・・・・・

 一片の隙間もなく密集していた筈の木々が自ら脇に動き、クリスを歓迎する様に通路が作られた。

 クリスはその道をゆっくりと進んでいった。

 

「や、やっぱり大変な事に……」


 そうして進んでいったクリスを出迎えたのは、やはり先日と変わらず聖域と化した空間であった。

 光り輝く湖。食欲をそそる桃がなった木々。黄金色の草花。七色の羽を持つ鳥。

 何も知らない者が見たのなら、幻か天国かとでも思い幻想的なその光景に心奪われる事間違いなしだろう。

 しかしながら、クリスはどうにも微妙な顔をするしかなかった。

 目の前の光景が凄まじければ凄まじいほど、自らのやらかし度合いが上がるからである。



『取り合えず……。歓迎はされているようだな』



『そうですね……』



 森に歓迎されるというのも変な話だが、今回の場合はそうとしか言え無かった。

 何せ、明確に森が命と意思を持っているのである。

 それに歓迎されていると言うのも簡単に理解できる。



『随分と豪華なカーペットだな。こんな贅沢はどこの王様もしたことが無いじゃねぇの』



『宝石にはそんなに興味が無いんですけどね……』



 クリスが道を歩くたびに、その地面が色とりどりの宝石で舗装されていく。

 デザベアの言う通り極めて豪華なカーペットで、森からの歓迎の証であった。



『金・銀・ダイヤにその他普通の宝石は良いとして、いや良くは無いが置いておくとして。ミスリルにアダマンタイトに、オリハルコンと。伝説の武器でも作れそうな具合だな』



『こんな雑に作られる伝説の武器は嫌ですねぇ』



 更に歓迎はそれだけでは終わらない。

 クリスがある程度歩いたところで、宝石の地面が盛り上がり粘土細工の様に混ぜ合わされて、何も無かった筈の地面にいつの間にか豪奢な机と椅子が完成していた。

 どうぞお掛けになって下さい。という事だろう。




「では、失礼して」



『宝石の椅子って、見た目豪華だけどスッゲェ座り難そう』



 正直な所クリスとしても同意見だったのだが、折角作ってくれたので少し腰かけてみる事にした。

 


「わ!」



『どうした?』




『いえ……。座ってみたらクッションみたいに柔らかかったので、驚きまして。これは一体』



 鉱石の硬く冷たい感触を覚悟していたクリスの体に訪れた感覚は、ビーズクッションも斯くやとばかりの柔軟性であった。

 クリスの体の形に椅子が変形して、そのまま眠れそうなくらいに座り心地が良かった。




『想像するに、進化したんだろうな。お前が座りやすい様に』



『そんなに気を遣って貰わなくても良いんですが…………』



『それは同意見だが、こいつらは脳味噌がお前の事一色になってるだろうからな、いや脳無いけど。取り合えず褒めてやれば喜ぶんじゃね?』



「コホン。ありがとうございますね?」



 デザベアのアドバイス通りお礼を言った後、犬猫にやる様に座った椅子を撫でてやる。

 途端、聖域の地面が大きく揺れる。

 地面が赤色系統の宝石で染まった所を見るに、照れているのだろう。



『撫でただけでこれなら、口づけでもしたらどうなるんだろうな?』  



『やってみましょうか?』



『気にならんでも無いが……。それ以上に面倒な事になりそうだからいいや』



 そんな風に2人が念話で喋っている間も、聖域のお・も・て・な・しは続いていく。

 テーブルの上に、水晶で出来たグラスとお皿が生えてくる。

 辺りの木々に、桃以外にも様々な果物が実った上、木の蔓が触手の様に蠢いて、自ら果実をもぎ取って、お皿の上に盛り付けた。

 しかも、ジュースでも作ってくれる気なのか、グラスの上で”どれが良いでしょうか?”とばかりに、様々な果物を浮かばせている。


「では、葡萄で」


 クリスがそう言うと、グラスの中に葡萄が幾つか入れられる。

 そして次の瞬間、その実が溶けた。

 グラスの中で葡萄ジュースが出来上がり、辺りに芳醇な匂いが広がった。


「至れり尽くせりですねぇ。では、いただきます」

 

 クリスは出された、果物とジュースに手をつける。

 何か手に持つと勝手に良い感じで皮が向けていく果物を、口の中に放り込む。


「んっ。とても美味しいです」


 口から出たその言葉は決して出まかせなどでは無かった。

 自然のエネルギーが凝縮された様な、とでも言えば良いのか。

 何十億年もかけて美味しくなるように品種改良を繰り返したのでは、と思わんほどに果実は美味だった。

 そうして、果物やジュースを食べたり飲んだりしていると、その度に森が鳴動する様に感じる。



『なんか、喜ぶにしても反応が大きくありませんか?』


『恐らくだが……。お前に自分を食べて貰うのが堪らなく嬉しいんだろうな』


 女神に食されたい!なんて感じだろうか。


『レベルが高いですね』


『その言葉には同意するが、お前が言うな』


 そんな風に会話をしながら、果実を口に運ぶ優雅な時間が過ぎる。

 図らずも穏やかな時間が出来たわけだが、何時までもそうしている訳にもいかない。



『さて……。そろそろ本題に入りましょうか』


『おう』


 色々と面倒な事もあるので、念話のままで。

 クリスは本題を切り出した。


これ・・結局なんでしょうね』


『せやな』


 この状況及び、カナリアを助けた時に発生してしまった意味の分からん現象。

 その調査と対策。

 それがこの場所にクリスがやって来た理由わけである。




*****



この現状自体森に命が宿ったは私の本来の力です。……いえ、本来のと言うと多少語弊があるかもしれませんね。本来の力がこの体になって完成した力です』



 意外な事に口火を切ったのはクリスの方だった。

 色々と厄介な事になったとはいえ自らの力だ。

 分かる事は多くある。



『命を与える権能か。確かに雌雄の獲得により完成するってのは納得だ』



 生命体は勿論、無機物・エネルギー・果ては概念にまで命を与える力。

 元の体であっても似たような力に目覚めた事は間違いないが、男の魂に女の体と言う己単体で雌雄が揃った事により、”命を生み出す”適性がより強化されたと感覚的に分かる。



『或いは今考えてみれば、私の魂がこの体に入った時、咄嗟に己に回復の力を使ったのは、そうすることで自分の力が望んだ方向に完成される予感があったからかもしれません――勿論、肉体を壊さない為に、という理由もありますが』

 


『本能的に、自分の権能を高める道を選んだ……か。まあ無い話ではねぇな』



『正直、この”生命付与”の力に関しては、普通の人間として生きていた時の常識で、自分が滅茶苦茶をやっているのは分かるのですが、どうしても悪い、とまでは思えないんです。私の魂はこの力を是としています』



『ふん。まあお前の最も芯にある誓い・欲望だからな。頭でどう考えたってそうそう止められるものでは無いさ』



 クリスの魂の格は、どう取り繕っても常人を遥かに凌駕している。

 その思考・行動はどうしたって余人には計りきれない所があり、その核となるのが己の魂に結び付いた権能であった。



『この力を自覚して以降、どうにもこの世を命で満たしてしまいたい欲求が消えません』



 普通の人間で言えば3大欲求に属するレベルで、クリスは万物に命を分け与えたいと思っている。

 生命の営みと言う物がとてもとても大好きで、世界が命で溢れれば良い、と心の底から願うのだ。

 それは明らかに普通の人から外れた【超越者】のさがであった。



『それにしちゃ、何も行動を起こしちゃいないようだが?』



『それは……。皆さんにあまり迷惑を掛けてもいけませんし』



 しかしながら、人から外れてはいるが、外れているなりに他者に合わせようとする気があるのがクリスである。

 根底に、他者に笑顔になって貰いたいと言う思いがあるが故に、頭では滅茶苦茶な事を思っていても実際に行動に移す際は割とマトモな事をするのである。

 根本的に格が高すぎるのと、凄い頭が良いわけでも無いので誤解されがちだが、クリスは意外にも思慮深い人間である。

 そういった意味で、彼女が【生命付与】の力を自覚したからと言って、急に世界を変え始めるなんてことは心配せずとも良いことであった。



『それに、今の力の場合は、そんなこと以前の話ですから』



 そもそも、今までの話はクリスの権能が、彼女の望む様に【生命付与】だけであればの場合である。

 実際問題、今のクリスの権能は彼女が望んだものとはかけ離れた代物と化しているのだから、それを世に放つなど論外でしかなかった。



『ま、それもそうだな。しかしまさか【魅了】の力があんな事になるなんてな』



『ええ。本当に』



 先天的に所持していた生命を与える権能では無く、後天的に得てしまった万物を魅了する権能。

 それこそが現在、クリスの頭を悩ませている原因である。



『誓って、ああ言った力を望んだことは無いのですが、どうしてあんな事に……』



『お前ならそうだろうな』



 クリスは催眠や洗脳、そして魅了などと言った他者の意思を無理やり曲げてしまうような力を望んだことは決してなかった。

 だと言うのに、あんな強力な力を得てしまったのは、非常に不可解で遺憾な事であった。



『あっ!ただ1つだけ、言っておかねばならぬ事がありました!!』



『重要な事か?』



『とっても重要な事です!』



 どうやら魅了の力について、クリスの方から何か言っておきたい事がある様だった。

 彼女は、とても真剣な表情でその事実をデザベアに伝えた。



『他者の意思を捻じ曲げたり、危害を加えたりするのが嫌いなのは飽くまで現実での話で合って、エッチなゲームや本のジャンルとしては普通に好きですよ!!!!!』


 フィクションであるのなら、純愛だとうが凌辱だろうがイケる。

 クリスとしてはそれだけは伝えたかった。



『重要な事かって確認したよな??????????????????????』



『ええ。だから、とても重要な事です。現実とフィクションを混同して、やれ青少年に悪影響を及ぼすだのと言った意味の分からない理屈で崇高なる性の探求を邪魔する方々と同一視されたくありませんし……。ああ言う意見は普通にイラッ!としますよね!!!!』


 女。クリス。

 迫真の主張である。



『突然、顔面ぶん殴られても簡単には怒らない奴の、貴重な怒りをそんな事で見せないでくれますかね………………』



『まさか、魅了の力が強まったのには、私のこのエッチな創作物に対する熱い思いが関係していた……!?』



『絶対、なんの関係も無いので少し黙っていてくれ』



 いきなり明後日の方向に動いた話を強引に元に戻す。

 クリスと出会ってからデザベアが取得せざるを得なかった悲しき必殺技である。

 


『いいか、分かり易く最初から話をしていくぞ。まずお前が魅了の力を得てしまった理由からだ』



『はい』




『俺様が、お前の魂をぶっこ抜いてこの世界の人間にぶち込もうとしたときの話だ。その時、俺様はその候補となる肉体を、幾つかの条件を設定した上で探した』



『幾つかの条件』




『 ①女である事

 ②不幸な境遇にある事

 ③顔の良さや、雰囲気などを総合した【魅力】の素質が高い事

 ④【魅力】以外の素質が出来るだけ低い事 

 これら4つを満たした上で、なるだけ不幸になりそうなのを最終決定にしようと思っていた訳だ』



 触りの説明はこれまでもされていたが、異世界転生先にクリスの肉体が選ばれた詳細な理由は以上であった。

 まあデザベアの目論見が、エロイ事をしたい!と願った男を、魅力だけは馬鹿みたいに高くて、他の能力が低い女性の肉体に突っ込んで、これで存分にエロい目にあえるぞ!良かったね!!!と煽る事だったので、それに特化した条件と言えるだろう。



『サラッと言ってますけど、相変わらずろくでもない考えですね』



 対象となったのが他でもないクリスだったから、ギャグの様になったものの、実際問題ゲスofゲスな考えである。



『まあ済んだ事だし、置いておけ』



『済んでないですし、許してもいませんので、ちゃんと反省してください』



 何度でも述べるが、デザベアから反省の念が見られないので、身勝手な悪意によって家族や友人と一生会えなくされた事を、クリスは全く許していない。

 とは言っても、デザベアが心から反省したのなら、(自分がされた事に関しては)キッパリ許すし、怒っていると言ってもそれで恨み言をぶつけたり復讐を画策する訳でも無く、自分の力の制御で命をかけさせる事は心苦しく思うなど、激甘甘太郎なのだが。

 但し、他の人相手には嫌がっていたらやらないセクハラは遠慮せずに行う。


『チッ、うっせーな。ハンセイしてマース』


『はぁ……。仕方がないから話を進めて下さい』


『最初からそう言っときゃイーんだよ。ま、そう言った条件の下に探した結果が今のお前の肉体、元クリスって訳だ』


『今でこそ、肉体と魂が混ざり合ってしまった影響なのか、自分の体だと認識してしまうので、鏡で裸を見ても全く興奮しませんが、最初に見た時は、とっても可愛らしかったですものね!』


『いや、流石に最初の小汚い状態を本心から可愛いと言えるのは、お前みたいに頭の可笑しい奴だけだが、しかし少し水をやっただけで咲き誇ったのを見れば分かるように、元クリスの魅力の素質は、人間の限界を僅かにだが踏み越えている』 



『むむ、ある意味私と同じ、という事ですか』



『全っっっっっっ然違う。元クリスの方は人の枠内にあって、一部の能力の素質が飛びぬけているタイプだ。力が強いだとか、足が速いとか、頭が良いとかな。それの魅力バージョン。対してお前は人の枠なんて踏みつぶしている化け物だ。さり気なく人間ぶるな』



『ベアさん、酷い……』



『今、この場所の惨状を見て、異論があるなら聞くが?』



 タイミング良く、七色の羽を持つ不死鳥(元羽虫)が”キーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!”と勢いよく鳴いた。

 クリスは目を逸らした。



『…………コホン。それで、そう言った一部の能力が高い人って結構居るんですか?』



『露骨に話を逸らしやがったな、オイ。まあいいけどよ。そう言ったタイプだが、稀に良く居るって感じだな』



『どっちなんです?』



『数は少ないが、そう言った奴は特定の分野で目覚ましい活躍をする事が多いからな』



『成程』



 総数としては少なくとも、その少しが目立ちやすい為、印象には残りやすいと言うことか、とクリスは納得した。



『で、話を戻すと、だ。元クリスは美貌の才能が飛びぬけていて、それでいて他の才能が味噌っかすと言う、正しく俺様が探していた条件に合った存在だった訳だ。ソイツを見つけた時、俺様は思わず神に感謝しちまったね。おお!偉大なる主よ!偉大なる貴方様のお陰でまた1人迷える子羊を地獄にぶち込めます!ってな』


 デザベアはとても皮肉気に笑った。



『実際、地獄に叩き落せましたか……?』


『うるせぇ!』



 そうやって散々イキった結果が、変態少女クリスちゃんのツッコミマスコットとなった現状なのだから、因果応報である。



『とにかく、人の枠をはみ出した美貌ってのは、それだけで魅了の力を持つ訳だ』


『つまり、それが私が最初に発現させた魅了の力と言う訳ですね』


 今までの話を纏めれば、そう言うことになるのだろう、とクリスは思ったのだが。



『いや、違う』


『あれっ?』


『肉体単体の魅了の力なんて、周囲を強烈に惹きつけたり、多少邪な考えを持たれやすくなったりする位だよ。まあそれだって決してショボい力な訳じゃ無いが、最初に発現した広がりまくっていく魅了ウイルス的な力と比べれば大きく見劣りするぞ』


『ではどうして、そんな力を発現したのでしょうか?』



『まあ、【魅了】と言う力が、お前の性質に極めて合っていたからだな』



『私の性質……』



『二心なく他者に命や愛を注ぐ性質。相手を魅了しようなんて欠片も思っていないからこそ、逆に魅了の力が強まったんだ』


 皮肉な事にな、とデザベアは言った。

 肉体の才能に、魂の性質が乗った結果が、最初の魅了であるという事だ。



『ただ、お前の思想には合っていなかったから、出力が大幅に落ちていたがな』



『なのに何故、あんな事に……』



『それは魅了の権能が、非常に成長しやすい状態にあったからだな』


『変化しやすい状態とは、具体的にはどの様な?』


『まず、偶発的に発現した赤子のような力であること。もう1つはお前が魅了の力を拒絶していたからだな』


『拒んでいるのが駄目なんですか!?』


『能力を認めていなかったから出力は落ちたが、逆にその所為で能力の形が定まりきらずに曖昧で変化しやすかったんだ。固体にならず気体だった、と考えれば分かりやすいか』


 気体であるが故に、他者を押しつぶす重量は無くなっているが、固体と違って形が全く定かならないと言う事だ。


『うぅっ……。酷い罠ですね』


 あまりにもあんまりな裏目り方にボヤいたクリスに、デザベアからちょっとした訂正が入る。


『とは言え、だ。今挙げた条件は、普通だったら然程問題にはならない。産まれたばかりの力でも、権能クラスの能力はそう変わらないし、拒絶による曖昧な状態ってのも普通だったら望み通り能力が消える方向に動く』


『では、どうして?』


『そりゃあ、お前が普通の状態じゃないからだよ』


『…………』


『魂と肉体の格の差による自壊とそこからの再生。お前という存在は、一瞬の間に幾度も生誕と滅びを繰り返しているようなものだ』


 そして、とデザベアは話を続ける。


『強大な存在の生と死ってのは周りを強烈に惹きつける。ま、簡単な話、阿呆みたいに強力な光が点いたり消えたりを繰り返していたら誰だって気になるだ ろう?』


『それは確かに』


『そうした性質に沿って魅了の力が変化した結果、生命体に対する特攻とでも言うべき代物と化した訳だ。虜になった存在が少しでもお前に相応しい存在になるべく溢れる恋情で限界を飛び越えて進化しちまう位に』


 それこそなんの変哲もない1匹の羽虫が不死鳥へ変ずるが程に。


『しかもそれで終わりではなかった、ですね?』


『ああ。最後にダメ押しだ。お前自身も言っていたが、今のお前は肉体と魂が歪な形のままグチャグチャに混ざりあった。おそらくその過程で、魂由来の【万物に対する生命付与】の権能と肉体由来の【生命特攻の魅了】が融合したんだ』



 そうなるともう大惨事である。


『そうして、最後に完成したのが無機物にも、エネルギーにも、果ては概念にすら、あらゆる物に生命を与えて、同時に生命特攻の魅了をぶち込むふざけたクソコンボだ。オマケに暴走していると来た』


 デザベアが先程にも述べたように、性質的な相性が良かったのが悪かったのだろう。

 合わさった結果、大変な事になってしまった。


『その事なんですが……』


『何かあるのか?』


『ええ。まず私本来の力である、生命を与える能力なんですが、我ながら中々の物だと思うんです。概念とか良く分からないものにも触れられますし』


 珍しいことに、クリスが自分の力を自慢した。

 自身の望みの力であるが故に、誇らしい部分もあるのだろう。


『直接的な攻撃性を持たない代わりに、干渉性に秀でたんだろうな。悪魔的には好みじゃねーが、実際大したもんだと思うぜ』


『えへへ。ありがとうございます。結構、色々出来る力だと思うんですが、分かりやすい弱点もあるんです』


『ほう』


 それは興味深いとデザベアは身を乗り出した。


『感覚的に燃費があまり良くなさそうなんです。直ぐにガス欠になるって程ではないですけど』


『成程、燃費か。ま、疑似的な生命付与じゃなく、完全に一個の存在として独立させるんだ、容易く出来る事では無いか』



『ただ……、カナリアを助けた時に使った際は、力が全く減らなかったと言いますか、寧ろそれどころか回復していたんですよね。今、この場に居る時も気持ち、力が増えてる気はしますし』



『それは――。いや、考えれば当然の話か。虜にして進化した存在が、お前に力を献上するのか。この小さな場所くらいの範囲じゃ少し空気が澄んでいて気持ち良い程度の気休めだろうが、あのまま色んな物を呑み込んでいったら、全回復どころか元より強力な全てを魅了する存在として完成されてたかもな』



『…………』


『…………』



 デザベアが呆れた様に呟やく。



『互いが互いを補完し合い過ぎだろ……』



『こんな気持ちになったのは、友人とカードゲームで遊んだ時に、私のイラストだけを見て作ったアイドルデッキが、友人の環境デッキに何も出来ずに倒されて”この効果のカードたちを一緒に刷ったら大変な事になるって、刷る前からわかりますよね!?”とカード会社に感じた時以来です……』



『なんかお前、時折普通の人っぽいエピソードを差し込んでくるよな』



『うぅ、私の最高に可愛かった、触手&オーク&ゴブリンデッキが消し飛ばされるぅ』



『急に変態に戻るな』



 アイドル(竿役)デッキ。

 お値段648円(税込み)の紙束であった。




*****



『さて、と。起こっちまった物、なっちまった物は仕方が無い。問題は、それにどう対処していくか、どう活かしていくかだろう』



『ええ。確かにそうですね』



 色々と話し合っていた2人だが、これまでの話は全て現状確認だ。

 より大切な事は、現状を踏まえた上でのそれによる影響である。



『まず、お前の権能は絶対に使用禁止だ。今回は偶々運よく止めることが出来たが、あんなもん使ったら比喩じゃなく世界が終わる』



『肝に銘じます』



『そう言う意味で、お前の権能が意味の分からん事になっている事を、この程度の被害で知れたのは不幸中の幸いだった』



『ですね…………』



 踏めば世界が終わる地雷が、自分に仕掛けられている事を、ここで知れなかったらと考えると、クリスの背筋はゾッ!となった。

 元より軽々と使う気は無かったが、それでも何かの拍子で全てが終わっていたと思うと、乾いた笑いしか出てこない。



『それに、だ。今回、お前が力を使った事で、結果的に分かった事がある』



『なんですか?』



『この世界に居る【超越者】及びそれに準ずる存在は、簡単に動ける状態に無い。或いはお前の事を極めて歓迎している』



『その心は?』



『いいか?お前が今回使った権能は世界に致命的な影響を及ぼす類の力だ。軽々しく動ける同格域の存在がいるのなら決して見逃したりはしない。もし仮に俺様やお前が元居た世界で、あの力が発動したなら、その瞬間に天界や魔界から数多の神々や悪魔が、僅かに残った導線を利用して地上に顕現し、勢力の垣根を越えてお前に総攻撃を仕掛けただろう。幻想の消え失せた地上に神や悪魔が何の準備も無く顕現するのは存在消滅の危機だが、それでも尚、だ』


 しなければ、全てが終わるのだから致し方あるまい、とデザベアは語った。


『うぅ……。怖いですね』


 その仮定の話に背筋を震わせたクリスだったが、その態度に対するデザベアの反応は呆れた様な溜息であった。


『あの効果に、あの出力だから、そうやって行った決死の総攻撃がお前の愛の奴隷になって反逆する上に、攻撃した本人たちも返す刀で虜にされるだろうから、お前の方が余程怖いんだよなぁ』



『…………』


『…………』


『か、』


『か?』


『仮定の話をしていても仕方がありません――!!ここは、実際の話をしていきましょう!!!!!!!!』


『いや、まあ良いけどよ……。つまりそれほどの対応をされて然るべき程危険な権能だった訳だ、お前の力は』


 そして逆説的に、とデザベアは話を続ける。


『で、あるのなら。お前が力を使った際に、他の存在から何のコンタクトも無かった以上、最低でも1柱は居ることが分かっているこの世界に存在する【超越者】かそれに準ずる奴は、簡単に身動きが取れない状況にあるって事が分かる訳だ。一応、薄くお前の支配下に入ることを受け入れたっていう可能性もあるがな』



『むむむ、成程……』



 実際の所どうなのかは兎も角、推論としては筋の通ったものだろう。

 しかし、少し考えた所、別の可能性もある事にクリスは気が付いた。



『私の力を物ともしない程の強さを持っている、と言う可能性はありませんか?』



『可能性が全く無いとまでは言わんが、あの権能を苦にしない程の存在が相手なら基本どうにもならんからな。そんなもん可能性が高くなってから考え始めれば良い話だ』



『確かにそうですね』



 もし、巨大隕石が落ちてきて地球が滅びるならどうする?みたいな話だ。

 そりゃあ可能性が皆無とまでは言い切れないが、そんな事を真面目に考えていたら何も出来ないだろう。

 最も、その疑いが濃くなってくればそうも言ってられなくなるが。 



『推論は飽くまでも推論だから妄信は出来んが、この世界で起こっている事件の全貌を考察する材料の1つにはなるだろう』



 ニフトと戦った時に俄かに存在が仄めかされた、クリス以外の【超越者】の域にある何某かの存在。

 実在するかはまだ定かでは無いが、この世界で信仰されている神、パンタレイ。

 それらは、自由に動けない状態にある可能性が高い。これは大きな情報だった。



『とても有意義な話でした。これで推理が捗ります』


『ま、今すぐに得するような話じゃねーけどな』


『それでも、そう言った考えが有るのと無いのでは大違いです』


 クリスは微笑んだ。

 そして、では次は私の番ですね!と元気よく話し出し始めた。


『実は私の方にもあの力を使った事による良かったことが1つあるんです』


『ほう』


 興味深げに呟くデザベアにクリスは見ててくださいね!と行動を続ける。


「あの、空に放り投げたいので、石ころを1つ頂けないでしょうか?」


 クリスは森に語り掛けた。

 普通であれば、何も起きる筈がない行動だが、生憎、現状はまるで普通ではない。

 聖域と化した森が愛しの女神からの要望に、狂喜乱舞する。

 クリスのお願いは直ぐに叶えられて、木の蔓が彼女にこぶし大のダイアモンドを手渡した。


「ありがとうございます」


 普通の石ころで良かったですのに、と少し思わないでも無かったが、クリスは森に優し気なお礼の声を投げかけた。

 周囲の木々が嬉し気に騒めいた。


『それで?その宝石で何をするんだ?』


『まずは、上に投げます』



 言うが早いが、クリスは己の腕を強化して、手に持ったこぶし大のダイアモンドを上空へとぶん投げた。正しく世界一豪華な石投げである。

 かつては、お手玉1つにすら苦心していた細腕から、巨大熊の猛撃も斯くやと言わんばかりのパワーが発生する。

 放り投げられた宝石は、いとも簡単に音の壁を突破して、比喩でもなんでもなく一発の弾丸となって、遠く、遠く、空の彼方へと消えていった。


 しかしこれでは、豪華な宝石をただ無駄にしただけ。

 重要なのはこれからだ。


 

 ダイアモンドが上空に消え去ったのを確認して、クリスは何事かを呟き始める。



「【万物にオノマ名を付けるスィンヴァン】」



 それはどこまでも厳かに。

 世界の理を告げるが如く。



「【”距離”の生誕――我が手はあらゆる物を掴む】」



 ぱっと見何かが起きた様には見えなかった。

 しかしながら、クリスは少しばかり得意げに自分の手をデザベアに見せた。



『どうですか?』



 何も握られていなかった筈の手の平に、何かが乗っている。

 そう、それはこぶし大のダイアモンド。

 新しい物を聖域から再び貰った訳ではない。

 正真正銘、空の彼方に消え去った筈のそれと同一の物である。



 単純に考えるのならば”移動”した訳だ。

 常人には視認も出来ない上空から、クリスの手の中へ。ほんの僅か、一瞬で。

 


 目を疑うような異様な光景であるが、デザベアはその絡繰りを瞬時に見抜いた。

 流石は自らを大悪魔と称するだけの事はある。



『それは――”距離”と言う概念その物の掌握か』



『はい、そうです。なので、こんな事も出来ますよ?』



 瞬間。やはり何の前触れも無く、クリスの体は何十mも離れた場所へと移動した。

 ご丁寧に、身に着けた衣服や、座っていた椅子やテーブル、そこに乗っていた果物や、ジュースなども同時に。


『ふふっ、それにこんな事も出来るんですよ』


 クリスが両手で何かを抱きしめるかのような形を作る。

 その途端、その腕の中に宙を飛んでいた七色の羽を持つ不死鳥(元羽虫)が、抱き留められていた。


「キッ!?」


「よしよし、良い子ですね」


 驚いた様子の鳥であったが、決して嫌がってはおらず、寧ろ恍惚とした表情でクリスに撫でられていた。



『あっ!』



『どうした?』



 色々と見事な手際だったが、本人的には何かミスがあったのか、クリスが声を上げた。

 そう、彼女は己の痛恨のミスに気が付いたのだ。




『着衣も一緒に移動させる必要に気が付かなければ、真っ裸になれたのに!!!!!!!!』



 気が付いてしまった以上、【聖華化粧】の清楚たらねばならぬ縛りの所為で、知らない振りは出来ないのだ、とクリスは嘆いた。



『真面目にやって下さる???????????????体を転移ワープさせたからって、話の流れまでワープさせてんじゃねぇよ』



『わぁ、上手い事言いますねっ!座布団一枚!!』



『シネ』



『もうっ。そんなに怒らなくても良いのに……』


『いいから、真面目にやれ』



『【聖華化粧】の縛りを抜けて如何にエッチな事を起こすのか、というのは私にとって飲食や睡眠より重要な事なので、ふざけている訳では無いのですが』


 尚も言い募るクリスを、デザベアがギロッ!と睨みつけた。



『わかりましたってば!ちゃんと説明しますから!』


『とっととしろ!!』


 怒鳴らなくたっていいじゃないですか……。と未だ腕の中で大人しくしてくれている不死鳥の、柔らかな毛並みを撫でながらクリスは説明を始めた。


『あの日、カナリアを助ける時に権能を使った事で、私は私自身の力の事を知る事が出来ました』


 当然、魅了の事では無く、生命付与の力の事だ。

 勿論、実際に使ってみる前から、大体の予想は出来てはいた。

 しかし、こう言った自身の本質から使用する力において、多分、そう。という仮定と、確実に、そう。と言う確信の間には、決して乗り越える事の出来ない大きな隔たりが存在しているのだ。

 つまり、あの日。

 クリスは己の本質を完全に理解した。


『ですが、残念ながら私の権能はいらない魅了と合体して、意味不明の使用出来ないものになってしまいました。しかし!完全に意味が無いかと言われると別です。権能そのものは使えなくとも、それを模した模造品デッドコピー位は問題なく使えます!!!!』



『それが、今しがた使った力、って訳か』


『ええ。【万物にオノマ名を付けるスィンヴァン】。一時的にではありますが、色々な物に命を与えられる私の力です!』


 クリスはドヤった。

 超絶劣化品とは言え、自らの願いの本質からの力だ。

 割と誇らしいのである。


『で、今は距離の概念に命を与えたって訳だ』


『はい!”距離さん”が協力してくれるので、今の私にとってあらゆる間合いは思いのままですっ。あ、流石に今の能力だと範囲や時間に制限があるので、暫くするとまた掛け直さなければならないですし、星の裏側や、宇宙の果てまで届く訳ではないんですけどね』



『………………』



 私もまだまだですねっ!と可愛らしく笑うクリスだったが、デザベアは全く笑えなかった。

 なぜなら、クリスの今の発言は逆に言えば、全力――権能の方であるのなら、制限時間など存在しないし、世界のどこにだって届く様になると言っているのと同義だからだ。

 クリスの暴走権能は、彼女を中心として広がる【生命付与】と【魅了】の瀑布である。

 その展開速度も、効果範囲も、超越者たるクリスの力だけあって天文学的数字な訳だが、しかし、現状、影響を受けているのが聖域の狭い範囲なのを見れば分かるように、効果範囲に関してはクリスの意思である程度の設定が出来る。

 ならばこそ、と。

 デザベアとしては、クリスに語っていた言葉とは裏腹に、本当にどうしようも無くなった時の”爆弾”としてクリスの権能を使えないか?と言う考えがあった。

 倫理的にどうなのかはさておくとして、考えとしてはそう突拍子も無いものではないだろう。

 


 しかし、ダメだ。

 ああ、ダメなのだ。

 あのクリスの暴走権能だが、最悪な事に一定時間(1秒未満)が経過した時点で距離概念がクリスに魅了されて、その瞬間に効果範囲が∞に跳ね上がるのである。

 そうなれば、終わり、だ。何もかも。



『…………やっぱ、世界の危機だったじゃねーか』



『ベアさん?』



『なんでもねーよ』



 爆弾案は使えんな、とデザベアは自分の考えをそっ、と空の彼方へと投げ捨てた。

 まあ結局のところ、使えないと思っていた物が使えなかった、と言うだけの話だ。何時までも引きずる様な事では無い。

 寧ろ劣化品の力が使えただけ良かったと思うべきだろう。

 劣化、と言えど今しがたクリスが使った力は、デザベアをして有用に見えるものであったのだし。

 そんなデザベアの考えを知ってか知らずか、クリスはやはりちょっと得意げに話し始めた。



『とにかく、この力があれば色々と出来るようになることが増えます。今は無理ですが、いずれはこの身に掛けられた呪いも解けるやもしれません。…………ああ、一応加護、でしたっけ』



『ああ、不犯の加護な』



 クリスの魂にはデザベアからの色々な呪いが掛かっている。

 元の世界での事をデザベア以外には伝えられなくなり、転じて上手く喋る事すら出来なくなる呪い。

 色々な騒動に巻き込まれやすくなる呪い。

 そして、形式的には加護だが、クリスに明確な悪意を持って掛けられた不犯の加護、だ。



 まあ喋れなく呪いに関しては口調が限定されるが解決済みであるし、元の世界の情報もそれっぽい誤魔化しである程度は伝えられる。

 騒動に巻き込まれる呪いも、アレン達と都合よく知り合ったあたり機能はしているのだろうが、それ以降に関してはアレンや他の人の為になるのならば、そもそも自分から困難に突っ込むクリスなので、呪いの意味が全く無い。

 そう言った意味で、普通に生活する分には呪いの影響はかなり薄いクリスであったし、その2つの呪いの解呪は、そこまで重要視していないクリスだったが、残る1つに関しては別だった。



『この身を縛り付ける悪しき加護……!!いつか絶対に解いて見せます!!!!!』


 この呪いと加護の厄介な点は、デザベアの腕が普通に卓越している事と、クリス自身の魂に絡みついてしまっている事である。

 そのため、クリスの力が回復すると、解呪の難易度も連鎖的に上がってしまい、力任せで解くことが出来ないのである。

 よって解呪に必要なのは力の量より、腕。

 で、あれば、この色々と出来る生命付与の力が増して行けば、解ける可能性は大いにあった。



『なんかカッコイイ事言ってますけど、要はエロイ事したいだけですよね???』


『はいっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


 勢い良く返事をしたクリスにデザベアは実に嫌そうに顔を歪めた。


『なんです、ベアさん。その顔は?』


『いや、お前の呪いが解けるのは俺様の生存確率にも影響するから良い事ではあるんだが…………。そうであってもお前が目的を達成するのは普通に嫌だな、って』



『どうしてですか!?』


『いや、だって……。お前の事だからどうせ不犯の加護が解けた瞬間に、スラム街に行って【自主規制】されたりするんだろ?いやー?キツイっす』



『そんな事、しませんよ!?』


『なん、だと……!?』


 絶対に外れる筈の無い予想が外れ、デザベアは生涯最高クラスの驚愕を覚えた。


『なんですか、その驚き様は?』


『なら、お前。加護が解けたらどうするだ?』


 聞いてしまってから、デザベアは後悔した。

 どうせ目の前の変態の事だ。自分の想像の斜め上の、耳に毒な答えを出してくるに違いない、と。

 しかし――。


『まあ、そうですね……。アレン君に、お突き愛を前提とした、お付き合いを申し込みますかね』


『馬鹿な、普通だと!?』


 普通の基準が可笑しくなっているし、アレン君がショック死するだろうが、デザベアの反応も分かる。

 何せ、クリスだ。

 最早、概念とファックしても可笑しくない変態の答えにしては、些か常に寄り過ぎている。

 しかしながらクリスからしてみれば、その反応は面白く無かった様だ。 


『あのですね……。ベアさん、私の事を見境の無い変態か何かだと思っていませんか?』


 クリスは問うた。


『応ッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


 デザベアは答えた。

 彼の人生の中で最も元気よく、そして一片の迷いも無く。



『いや、私にだって…………いや、じゃあもうそれで良いです。ふんっ』


 何事か説明しようとしたクリスだったが、流石に頭に来たのか拗ねた。

 普通だったら、機嫌を取るところだが、デザベア的にクリスの機嫌なんてどうでも良かったので放っておいた。

 その様子を見て、クリスもはぁっ……と溜息をついて気持ちを切り替えた。


『まあ、分かった事、出来るようになった事はこの位でしょうか……?』


『だな』


 なんだかんだ、よい時間である。

 そろそろ帰宅するか、と2人は思い始めた。


『あっ』


『ん?』


 しかし、最後にちょっとしたことを思いついたクリスが声を上げる。


『そうだ!最後に、この子に名前を上げましょう!!』


『あん?そいつに、か?』


『ええっ!』


 そう言ってクリスは、未だに自身の腕の中で大人しくしてくれている不死鳥を指さした。

 自分の力で進化してしまった新種の生物。

 ならば、名前の1つや2つ上げて然るべきだろう、と思ったのだ。


『めんどくさっ……。付けんならとっととしろよ』


『もうっ。ベアさんったら。仕方がありませんね、私だけで考えます。そうですね……。きーって鳴くから、きー君とかどうでしょうか!!』


 良い名前じゃないですか!?と得意げに語るクリスの言葉を、デザベアは鼻で笑った。

 自分でアイディアを出す気なんて欠片も無い癖に。



『ハッ!安直にも程があんだろ!』


『むむむっ!そんなに言うのなら、ベアさんに良い案が浮かぶんですか!!』


『まあ1つだけ凄いピッタリな名前があるな』


『本当ですか!?それは一体……?』


 明らかに考える気がないと思っていたデザベアから予想外の言葉が飛び出してきて、クリスは驚いた。

 そしてデザベアの思う腕の中の不死鳥にピッタリな名前とやらをワクワクして聞き届けようとする。

 そして、デザベアの口からその名前が飛び出した。


『エロバード、ってのはどうだ?実にピッタリで素晴らしい名前だと、俺様は思うぜ?』


 ガンジーでも助走をつけて殴りかかってきそうなフザケた名前に、しかしクリスはきょとん、としただけであった。


『それは……。確かに素敵な名前ですが、どうしてそれがピッタリだと思ったんですか?』


 本気でそう呟いている様子のクリスに、あ、これ。煽り方間違えた奴だ、と悟ったデザベアはどうでも良くなって、とっとと会話を打ち切るために、理由を教えた。



『だってそのエロ鳥、お前に抱えられてからずっとエロい目でお前の事見てるし』


『え?』


 クリスの視線咄嗟にがチラッ、と抱きしめている鳥へと向かう。

 自身の腕の中で大人しく安らいでくれていると思っていた不死鳥だったが、その様子は、クリスの想像とは全く異なっていた。


「キッ、キーっ!キー!」


「……………………」


 目はとろん、と陶酔した様に、口はだらしなく垂れ下がる。

 ”え、鳥の顔で此処までエロさを表現できるの!?”と思わんばかりの、最早逆に芸術的とすら言える表情。

 よくよく観察してみれば、息は荒いし、時折不自然に体を擦り付けてきているし、何より視線がクリスの胸部の膨らみをガン見していた。

 これはまごうことなきエロバード。


「きゃーーーーーー」


「キッ!?」


 その驚愕の事態に思わず悲鳴を上げたクリス。

 その声はそれこそ着替えを覗かれた女の子の様な声で、エロバード君は”やばっ!バレた!?”と言わんばかりの反応を返す。

 ”女神に嫌われてしまう!?”と焦りだすエロバード君だが、しかしクリスがそんな玉で無いことは最早誰もが承知しているだろう。


『すごいっ!すごいですよ!ベアさんっっっ!!!!!!』


 明らかに自分に欲情しているエロバード君の様子を認識したクリスの次の行動は、彼を投げ放すのではなく、寧ろ愛おしげに抱きしめると言う行動だった。

 上げた悲鳴も、今の反応を見れば悪感情ではなく、歓喜から飛び出た物だと断言できる。

 それもその筈、クリスは現在、とっても感動していた。


『これは、本当に凄いですよ!?ベアさん!!ノーベル賞物の発見です!!!!』


『まずはノーベルに謝れば?』


『動物とのエッチなことに興味はあれども、普通に動物虐待なので今まで何もしたことが無く、精々動物図鑑をみながら獣○の妄想をしていた程度の私ですが!まさか、異種である私に欲情してくれる凄い良い子がいるなんて!!!!!』


『聞けや』


 デザベアが冷静に突っ込むが、長年の悲願の1つを叶えたクリスに対し、その声は素通りするだけだった。


『まず間違いなく今日1番の素晴らしい出来事です!!』


『おい』


 色々と分かった重要な情報は一旦頭からポイ捨てされた。

 クリス的に、色々と分かるより、エロエロと分かる方が重要だからだ。


「よしよし、びっくりさせてごめんなさいね。いくらでも甘えてくれて良いですからね?」


「キー!!」


 優しく鳥を撫でるクリス。

 見た目だけは、動物と戯れる聖女の絵画とすら見える幻想的な光景。

 されどその内実は、異種に性的興奮を覚えるエロ鳥と、それを嬉しがるエロ人間によるエロエロ大決戦だ。

 女子であるカナリアに不犯の加護が多少緩かったのと同様に異種であるエロバード君も、この程度のスキンシップは問題無いようだ。


「ふふっ。貴方に名前をつけさせて下さい。エド、そうエド君です!どうですか、これから貴方の事をそう呼んでも構いませんか?」



「キーッ!」



「ふふっ。気に入ってくれた様で嬉しいです」


 

 不死鳥改めエド君が、女神から直々に名前を賜った幸福に、今度はエロイ感情抜きで感動に打ち震える。

 なお、その名の由来は健やかにエロく育って欲しいと願いを込めてエロバード、略してエドなのだが知らぬが仏とはこの事である。

 いや、彼にとって耳元で女神から己の名前を囁いて貰える女神ASMRを受けられる幸運に比べれば、他の全てが些事であるので、名前の由来を知った所でどうとも思わないのだが。

 


『ベアさん、ベアさん!この子飼いましょう!!そうしましょう!!!!』



『ええっ……』



『これで異種枠が、エド君とベアさんでバリエーションが増えました!!』



『俺様をその枠でくくるなコロスゾ』



『よーし、頑張ってエレノアさんを説得します、おー!』



『人の話聞けや!!!!!』



 そう言うことになったのである。




*****


 その日、ルヴィニ家の食卓は何とも言い難い衝撃に襲われていた。

 微妙な表情で困惑するアレン、ルーク、エレノア。

 対称的に、わっくわく!わっくわく!!と目を輝かせているクリス。

 この時点で下手人が誰か理解できる。


 事の発端は、クリスがペットにしたい!と1匹の動物を連れてきたことである。

 まあ、それ自体はアレン達にとって何の問題も無いのだ。寧ろ、歓迎する、と言っても過言ではない。

 何せ相手が、どれだけ返しても返しきれない恩があるのに、中々我儘の1つも言ってくれないクリスである。

 そんな彼女の望みとあれば、ペットの1匹や2匹安い物である。

 それにクリスであれば、生き物を粗雑に扱ったり、飼育に途中で飽き足りする事など絶対にないと断言できるのでそう言う意味でも問題は無い。

 そう問題は無い、問題は無いのだ。

 …………クリスが連れて来たのが普通の動物だったのなら、何も。


 では、ここで満を持してクリスが連れて来た動物――1匹の鳥について説明しよう。

 全長は80cm以上。大きさとしては鷲に近い。

 その時点でペットには不釣り合いな特徴であるが、そんな部分は他の出鱈目な特徴に比べれば寧ろ常識的ですらあった。

 まず、何よりも目を惹くのはその身体を覆う七色の羽だろう。

 宝石の如く煌めいてそれでいて高級カーペットの様に柔らかいその羽は、1本だけでも金貨幾枚もの価値があるだろう。

 次いで、明らかに知能の高さが伺える所作も外せない。

 クリスに連れられて、全く騒がず恭しくその場に留まる彼の姿は、並みの動物を遥かに凌駕する”知恵”を感じさせる。

 オマケに最後のダメ押しは、時折口から小さく黄金色の炎を吐いている事だろう。

 火の筈なのに、何も燃やしていないその炎は、見る者に危うさよりも感動を与えて来る。

 全身という、全身で、自分”伝説”っスよ?と語り掛けているかのような、意味の分からない幻想的な生物であった。


「あの、クリスちゃん?」



「はい、なんでしょうか」


 色々と疑問に耐えきれなくなったエレノアが、遂に意を決してクリスに突っ込んだ。



「その、ペットは良いんだけど…………。その子、何?」


 不躾な質問ではあるが、そうとしか言えない。

 その問いにクリスは元気よく笑顔で答えた。



「エド君です!!!!!!!」



「名前を聞いた訳じゃ無いんだけど」



 クリスちゃん底なしに良い子なんだけど、時々ズレるのよね、とエレノアは困ったように笑った。



「ええと。まず、そのエド君はどんな種族なのかしら」


 今日日生きてきて、こんな質問をする事があるとは思ってもいなかったエレノアである。



「とり、さん……でしょうか??」



「いや、私に聞かれても」


 困っている様子のエレノアを見て、クリスは自らの恥を晒す事を決意した。


「その、お恥ずかしい話なんですが、元々は1匹の羽虫だったんですが、私の力の影響でこう・・なってしまいまして」



「ええっ…………」


 そうして語られた説明は、やはり、と言うべきかエレノア達にとって驚天動地の代物だった。

 クリスが嘘を吐いているとは思わないし、吐くならもっとマシな嘘を吐くだろうが、だからこそ困惑が抑えきれない。

 何がどうなれば、虫が鳥になるのだ。

 

「で、でもでも、とっても良い子なんです!!私の力の所為で変化してしまったし、私の手でお世話をしたいなと。ダメ、ですか?」


「うっ」


 クリスの上目遣いを受けてエレノアが呻く。

 圧倒的魅力値から放たれるおねだりは、同性ですら思わず頷かせてしまう破壊力を持つ。

 男相手だったら多分、一瞬で素寒貧に出来る事だろう。やらないけど。



「まあ、クリスちゃんが飛びぬけているのは今更よね。分かりました。余り騒動にならない様に気を付けてくれれば、飼っても良いわ。………………目を離しておくのもそれはそれで怖いしね」



「ありがとうございます!エレノアさんっ!!大好きです!!!!!」


「もうっ。普通のおねだりならいくらでも聞いて上げるのに…………。それにしても、確かにとても賢そうな子ね」


「きー」


 そう呟いたエレノアは、何かを怖がるように、恐る恐るエドに手を伸ばす。

 彼女の細く白い指が、エドに到達し、その身体を優しく撫でた。

 その感触をエドは心地よさそうに受け入れていた。


「わぁっ」


「?」


 その光景に何故だか感動している様子のエレノア。

 その何となく様子の可笑しい態度を疑問に思ったクリスだったが、その答えは近くに居るルークからアッサリと齎された。


「ほぉ……。流石にクリスが連れて来ただけの事はある。エレノアを怖がらない動物は久しぶりだ」


「そうなのですか、お義父様?」


 対外的に自分の父になってくれているルークにクリスが問いかけた。

 その質問にルークは、少し悪戯気に答える。


「ふ。昔からエレノアは動物と相性が悪くてな。過剰に吠えられたり、怯えられたりするんだよ。本人は可愛い物が割と好きなのにな。まあ野生の本能で分かるんだろうさ、怒らせると不味い猛獣の事がな」



「お・に・い・さ・まぁ?????」


 お淑やかなご令嬢にしか見えないエレノアの顔に、怒りマークが透けて見える。



「もうやだ、お兄様ったら、ダイエットで1ヵ月間ご飯を抜きたいなら、素直にそう言ってくれれば良いのにっ!」


「そう言うとこだぞ、ハハハ」


「あら、やだ、ウフフ」


「うーん。仲良し」


「あはは……」


 兄弟のスキンシップをクリスとアレンが穏やかに見守る。

 まあアレンの方は苦笑していたが。

 基本的には年相応の落ち着きを見せるエレノアとルークの2人だが、2人でじゃれ合っている時は非常に若々しい。

 特にエレノアなど容姿も相まって、仲の良い兄と戯れているJKにしか見えない。




「それにしても、本当に大人しいんだな」



 お遊びは終わりにして、ルークがそんな風に呟いて、自らもエドに触れようと動いた。

 その時の事である。



「キーっ!!」



 自分の体にルークの指が触れようとした瞬間、エドがそれをひょいっ!と飛んで躱し、そのまま窓際へと移動した。

 そして彼は、とても器用な事に自らの羽で窓を開けると、あろうことか窓の外にぺっ!と唾を吐いた。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」




 試しにクリスが撫でてみる。



「キーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!!!!」



 狂喜乱舞して喜んだ。

 それはもう、極楽気分に見える。


 お次は、エレノアが撫でてみる。



「キーッ!!」


 心地良さそうに体を預ける。

 実に嬉しそうだ。



 次はアレンが触ってみる。



「………………」



 一応逃げたりはせず、体に触れさせてはいる。

 しかし、明らかに嫌そうな表情をしている。



 最後に、問題のルークがもう一度トライしてみる。



 ひょぃっ! バサバサッ!! ガラガラッ!! カァーッッ、ペッ!!!!!!!!



 擬音だけで分かるこの拒絶っぷり。

 実際は、此処に更に両翼を器用に持ち上げつつ、首を振りながら小憎たらしくやれやれ、とするジェスチャー付きである。

 女性と、それ以外に対する態度に差がありすぎである。

 これは正しく、エロバード。



「……………………」


 ルークは穏やかに笑った。



「今日の晩飯は、焼き鳥、か」


 エレノアがぷふっー!と吹き出した。

 随分とツボに入ったらしい。


「ふ、ふふっ、ふふふふふふふふっ。だ、だめっ。お、お腹痛い、あははははははっっ」


「…………尊敬する兄が鳥類に馬鹿にされてその反応で良いのか?ん?」


「ふふふっ。嫌だわ、お兄様。動物相手にみっともない。きっと彼も馬鹿にして良い相手が分かるだけなのでしょう、そう野生で!!……………………兄貴だって私が動物に怯えられた時笑ったじゃない、偶には動物に避けられる悲しみを味わってみれば良いのよ」


 何だかんだ口ではじゃれ合っているエレノアだが、兄が馬鹿にされると普通に不機嫌になる。

 しかし今回は、相手が動物であり、自分だけが避けられるのを今まで気にしていたので腹が立つより笑いのほうが勝ったようだ。

 そう言った訳で、エレノアはエドの行動を気にしなかった。

 しかし、その行動にとても悲しむ物が1人居た。


「エド君、私は悲しいです……」


「きっ!?」


 そう、クリスである。

 彼女はエドの首をむんず!と掴むと、その体を持ち上げた。


「お義父様、ごめんなさい……。彼には私から言って聞かせます。エド君、後でお説教ですからね」


「あ、ああ……」


 割と普通にショックを受けているクリスの様子に、ルークが黙る。

 そもそも、そこまで怒っていた訳でも無いのだ。

 そんな彼を尻目に、クリスはエドを自室まで運んでいった。



*****


「エド君、少し話しましょう……」


「きー」


 あの後、きちんとご飯やお風呂に入って寝る準備をした後、クリスは自室でエドに話しかけていた。

 あれだけの剣幕のわりに、直ぐに話さなかったのか、と思うかもしれないが、寧ろ逆だ。

 場合によっては夜通し話し合う覚悟だからこそ、クリスはキチンと準備をしてきた訳だ。


「エド君、貴方が女性に興味があるのは全然構いません。私であればどのような目で見て貰っても構わないですし、他の人でも、相手を不快にしなければ何も言いません」


『いや、まずそれを構えよ』


『それを駄目だって言うなら、私は自分の両目を潰さなければならないですし……』


『お!それ良いな。早速、潰せば?』


『ベアさん、黙って……!』


 エドとの会話に集中するクリス。


「ですが、女性を好きなのと、男性を邪険に扱うのは別の話です。何も老若男女、全てを愛せとまでは言いません、しかし自分に友好的に接してくれる相手には優しく出来る子に育ってくれると、私は嬉しいです」


「きー……」


 ただただ悲しそうに喋るクリスの姿は非常に心に来たようで、エドはとても反省して俯いた。

 優しく、されど甘くはなく、相手を諭すクリスの姿は、正しく万人を愛する聖女のそれであった。

 なので、デザベアは問いかけた。


『で、その心は?』


『エド君には、女の人のおっぱいや、お尻だけでは無く、ショタのお○ん○や、良い男の胸板に興奮する。そんな健やかな成長をしてほしい――!それだけが私の望みです!』


 そうやって真面目に語るクリスの姿は、正しく万人をエロい意味で愛する性女のそれであった。

 聖女と性女って似通ったところがある、これってトリビアになりませんか?


 しかし、残念ながらそんな内心はデザベア以外には分からない。

 エドはクリスの言葉をとてもシリアスに受け止めた。

 そして、心の底からわかりました、と頷く。

 元より彼に、女神の言葉を跳ね除ける気など一切無いのだ。


「きーっ」


「分かってくれましたか、では話は終わりです。偉そうなことを言ってごめんなさい。まだ私と仲良くしてくれますか?」


「きーっっ!!!」


「ふふっ、良かった。じゃあ、一緒に寝ましょうね」


 そう言ってクリスは、とても自然素早く、着ていた寝間着を脱ぎ捨てた。

 前にも言ったが、彼女は寝る時全裸派だからだ。

 見慣れているデザベアは最早何とも思わなかったが、新たな同居者にとってはそうで無かったようだ。



「きっ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」



 愛しの女神の突然の裸体に、エドの脳味噌が破壊された。

 眼前に広がるとても白い肌が、彼の鼻を刺激し、大量の鼻血を噴出させる。

 ぶっちゃけ致死量だった。

 エドは死んだ。

 死因は出血多量。

 でも、彼の死に顔はとても幸福そうだった。


「エド君!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」


 突然エグい量の出血をして死んだエドの姿にクリスが悲鳴を上げた。


「た、大変っ!!なお、治さなきゃ!!!!!!!」


 そう焦るクリスだったが、其処に更なる驚愕の出来事が重なる。

 死んだ、エドの全身が黄金色の炎に包まれて燃えだしたのである。

 哀れ、エドは瞬く間に、灰になってしまったのです。


「エド君!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」


 しかし、エロバードの命運は其処で尽きることは無かった。

 床に散らばった灰が独りでに動き、より集まり、なんと其処から無傷のエドが復活したではないか!?

 そう彼は不死鳥、死より蘇る者――――!!


「きー」


「エド君!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 不死鳥じゃなかったら即死だったぜ……、といった感じで鳴くエドを、感極まったクリスが抱きしめた。

 全裸のままで。


「き!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」



 柔らかっ!!!!そしてエッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 それがエドの抱いた感想だった。

 彼はあまりの幸福に、全身のあらゆる所から出血した。

 当然致死量。

 エドは死んだ。死因は出血多量……いや、血管爆発。


「エド君!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」



 結局、この夜。

 彼はなんとか死なない程度に興奮を抑えられるようになるまで、何十回も死んだ。

 でも、その顔はとても幸せだったので、良かったのでしょう。



*****


 ――翌朝。



「きーーーーー」



「む、まさか1日で、懐くとは。一体どんな躾をしたんだ、クリス?」



「あ、あはは……。色々とありまして」



 へへっ。旦那。昨日はすいやせんでしたねっ。とばかりに自分に擦り寄るエドの姿にルークが驚愕していた。

 最早、今のエドは男性相手でも邪険に扱う気は皆無だった。

 なんなら、足だって舐める覚悟である。


 万が一にでも!!!!女神と一緒に寝れなくなったら困るからである!!!!

 裸が!!!!!!!!!!!見たいのだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「そ、そういうつもりじゃ無かったんだけど…………」


「キーっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 なんか違うな?と首を捻るクリスは横に、早く夜が来ないかなっ!!!!とエドは目をキラッキラッと輝かせていた。

 これは、名誉エロバード君。



「まあ、でも、別に良いのかな?」


 エッチな目で見られるの嬉しいし。

 クリスは、色々と真面目な考えを投げ捨てた。

 これは名誉エロ人間。


 似た物同士であった。




 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



○【万物にオノマ名を付けるスィンヴァン

 自らの力の本質を理解した事でクリスが使える様になった能力。

 権能を模した物。

 あらゆる物に命を与える力。

 非生命に使った場合は一時的に生命を与え、生命に使った場合は主に加護を授ける。

 劣化品、劣化品と言っているが飽くまで権能と比べれば、であり普通にとんでも能力。

 ただし、相応に力を消費するので、今のクリスでは、そこまで考えなしに使える訳ではない。


○【”距離”の生誕――我が手はあらゆる物を掴む】


 距離と言う概念その物に生命を与え、協力して貰う術。

 これが発動した途端、一定範囲においてクリスに間合いの概念は意味をなさなくなる。


 尚、権能の方で発動した場合、範囲制限など消え失せて、世界の何処であろうともクリスの力を届ける窓となる。

 しかも、そこに恋情による進化が加わるので、更に酷いことになる。









 

 





 


 


 



 




 





  



  

 

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