第347話 【イルノエンド】5年後のコルティオール

 最終決戦の直後。

 ミアリス様は「女神の系譜。そのふざけた幻想をぶち壊す!!」と意気込んで女神の泉に特攻を仕掛けて「あ。こいつ歴史と伝統に反逆しとる」との判定を受け、存在を抹消されかけた。


 無事に春日黒助によって救い出されたのだが、女神の泉に干渉するとミアリス様だけではなくコルティ様にまで影響が及ぶとのちに判明。

 ミアリス様が消されそうになっている時、魔王城ではコルティ様が「ベザルオール様。あなたと過ごした時間は私の宝物です……」と言って、今わの際を迎えていたのだ。


 その報告を受けたこの世界線の黒助は「それはまずいな」と女神の泉の破壊を断念。

 だが、女神の泉のシステムが「もうこいつは信用できん。どっか行け」とミアリス様を女神から解任する決断を下した。


 女神がいなくなると、現存する女神がヤバいのはたった今語った通り。

 つまり、速やかに次代の女神を選ばなければ、差し当たってミアリス様。もう様いらないや。ミアリスとコルティ様が消えると言う現実がこんにちは。


 面倒な事になったと母屋に戻った黒助は、四大精霊を集めた。


「セルフィ」

「黒助さん。ウチ、鉄人に嫁ぐし」


「なるほど。弟の嫁であり、義理の妹になるお前は無理だな。では、ウリネ」

「ボクやってもいいよー? クロちゃんのお願いならねー! 聞いてあげるー!!」


「ダメだ。なんか心が痛い。…………残るは」


 ここで断ち上がったのは、火の精霊ゴンゴルゲルゲ。

 彼は自信の身を主に捧げることを厭わぬ武将である。


「このワシが!! 女神の職責を果たしましょうぞ!! お任せくださいませ!!」


 黒助は「そうか」と頷いた。

 続けて、端的に感想を述べた。



「お前は国語を勉強しろ。女神と言っているのに、なんでおっさんが立候補するんだ。女神の泉がバグってコルティオールに天変地異でも起きたらどうする。ジェンダーレスの拡大解釈をするな。バカタレ」

「あ。すみませんでした。そう言えばワシ、メンズでしたわ。ですが、当初の構想だと四大精霊は全員が女子だったではありませぬか!! ワシ、俺っ子の予定で! おっぱい大きいワイルドタイプだけど家庭的なお姉さんという、あ。すみません」



 と言う事で、消去法と言う割と嫌な方法が行使される。


「……すまんな。イルノ」

「なんということでしょうですぅー。こんなことなら、イルノもラブコメ結界に入っとけばよかったですぅー。しかもこれ、断ったらミアリス様が消えるですぅー。倫理的にイルノの心にしこりが残るですぅー。甘さが捨てきれない自分が憎いですぅー」


 こうして、水の女神イルノが誕生した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから5年。

 コルティオールでは相変わらず、春日大農場が元気に作物を栽培していた。


「い、イルノ様? あの、お腹空かない? あ、空きませんか? スッポンポン剥きますよ、わたし。ね? 食べましょう?」

「ヤメて欲しいですぅー。ミアリス様に敬語使われるとか、なんか気持ち悪いですぅー。しかも5年続けられてるですぅー。もうこんなの、レベル高い嫌がらせですぅー」


「だ、だって! わたしのせいであんたを女神にしちゃったわけだし!! ついでにわたし、女神の泉に危険物認定されたから、自由もなくなったし!! もうイルノの傍仕えするしかないのよ!! 新しい下着注文するけど、どうする!? 紐パン!? ティーバック!?」

「もうまぢ無理ですぅー。傍仕えとか言って日常的にセクハラしてくるですぅー」


 昼休みになり、母屋に戻って来た黒助。

 現在28歳。見た目はあまり変わらないが、激変した事がいくつかある。


「戻ったぞ。イルノ。トマトを採って来た。しっかり食え」

「ありがとうですぅー。けど、あんまり食欲ないですぅー」


「バカタレ。つわりがキツいのは分かるが、何か食わんと体が弱るぞ。イチゴも摘んできた。この辺りなら、多少は食べやすかろう」

「そうよ、イルノ! 元気な子を産まなくちゃ!! 黒助の事はわたしに任せて!! お風呂から添い寝、性欲のはけ口まで、何でもするから!!」


 イルノ様、ご懐妊。


 お相手は春日黒助。

 これまでも多忙を極めていたイルノ様を慣れない女神にさせてしまった責任を取って、「俺にお前の人生を支えさせてくれ」とプロポーズしたのが今から4年前。


 当然だが、イルノ様は拒んだ。


 ミアリスのバカタレをはじめ、黒助ハーレムの存在を熟知している彼女は「皆さんに悪いですぅー」と黒助の優しさを拒否する。

 だが、黒助のメンタルをへし折ることができる者はこの世界に存在しない。


 1年以上イルノ様に毎日求婚し続けた結果、ついに水の女神の方が折れた。

 「今ならミアリス様の気持ちも分かるですぅー。これ以上愛を囁かれ付けたら、想像妊娠キメちゃうですぅー」と悲鳴に似た受諾宣言をするに至る。


 事情が事情なだけに、黒助ハーレムのメンバーも「まあ、イルノに正妻は譲って。みんなで仲良く愛人しようか」と納得したのだった。


 コルティオールの倫理観は現世と違うので、そこにツッコミ始めるともう収拾がつかない。

 これでも農協の倫理観よりはずっと高潔である。



 と、ベザルオール様が言っておられました。



 そして時はさらに流れる。

 夫婦になれば、まあやる事をやる訳であり、やる事をやったらナニがアレして、ベイビーが産まれるのは自然の摂理。


 これまで裏方に徹して農場とコルティオールの安定のためにその身を捧げて来たイルノさん。

 彼女が乙女としての幸せを得る事に異論を唱える者はいない。


「イルノ様! プリン持って来たぜ!! すっぺぇヤツ!!」

「ありがとうですぅー。ギリーさんの妹さん、次で3人目だったですぅー?」


「へへっ! おかげさまで! これもイルノ様がコルティオール支えてくれてるおかげだぜ!!」

「そんな大層な事してないですぅー」


 ギリーがプリンを持って来た。

 続けて、セルフィとウリネもやって来る。


「イルノ様ー!! ウチのお下がりで悪いけど、マタニティウェア持って来たし!! これからどんどんお腹大きくなるから、備えは万全にだし!!」


 諸君。

 この世界線のニートはおのれ案件です。


 セルフィちゃん、人妻ギャルになってます。

 2人産んでます。ギャルママです。おのれ、おのれ。


「ボクねー! 『大地の祝福』でイルノ様の赤ちゃん強制的に成長させられるよー!!」


 ウリネたんは23歳。

 それなのに見た目は小学6年生くらい。


 ベザルオール様が大変お喜びです。


「セルフィさん、ありがとうですぅー。使わせてもらうですぅー。ウリネさんはお気持ちだけで充分ですぅー。いくらなんでも生命の冒涜が過ぎるですぅー」

「おい。そろそろ休め。俺にとって初めての子供だ。心配でたまらん」


「はいですぅー。黒助さんの赤ちゃんは大事ですぅー」

「待て。イルノ。聞くが、お前勘違いをしていないか?」


「なんですぅー?」



「俺にとって子供も大事だが、イルノ。お前は世界で1番大事だ。元気な子供が生まれて、お前が体を壊したら何の意味もない。愛などと口に出すのは俺の柄ではないが、これが愛すると言う事なのだろう。俺の愛情を素直に受け取ってくれ。無理はするな」

「あ゛っ。これはヤバいですぅー。なんか今、お腹の中の赤ちゃんが双子になった気がするですぅー。もうこれ、されるがままになって、年子の兄弟山ほど産まれちゃうパターンですぅー」



 イルノ様は幸せそうにはにかんだ。

 そんな彼女を見つめる黒助の瞳は、かつてないほど穏やかで優しい色をしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その年の暮れ。

 春日黒助に子供ができた。


 男の子と女の子の双子である。


「よく頑張ったな。イルノ。やはりお前は優しく、繊細で、頼もしく、力強い。俺の農場作りを最初に手伝ってくれたのもお前だった。これからも俺は、イルノ。お前の傍にいても構わんか?」

「黒助さんはとんでもない人ですぅー。イルノの心をガッチリ掴んだ後にその質問はズル過ぎですぅー。答えなんて決まってるですぅー。ずーっと一緒ですぅー。家族だってこれからもっとたくさん増えるんですぅー」


「そうか。その言葉を聞けて安心した。お前はあまり感情を顔に出してくれんからな。ちゃんとした夫婦になれたのか、未だに不安になる事がある」

「黒助さん、それはアレですぅー。おめーが言うなってヤツですぅー。イルノだって黒助さんが何考えてるのか未だに分かんない時ばっかりですぅー」


「そうか。すまん。口に出すのがなかなか気恥ずかしくてな。イルノ。お前を愛している。野菜よりも」

「イルノもですぅー。トマトちゃんより、黒助さんの方が好きですぅー」


 その後、水の女神イルノ様は天寿を全うするまでコルティオールを統治し続け、黒助はそんな彼女を支え続けた。

 子宝に恵まれ過ぎた結果、孫は50人ほどになったと言う。


 この世界線の


「ねぇ。ゴンゴルゲルゲ? わたしたちが農場の最初の従業員じゃなかった?」

「タイミング的に微妙ですぞ。出会った順で言えばそうですが、農場を始めた時にはイルノ様もおりましたゆえ」


 締めのタイミングで喋ってんじゃねぇぞ、このモブども。


 失礼。

 この世界線の春日黒助とイルノの未来も明るいようである。

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