第345話 【ヴィネエンド】4か月後のコルティオール

 平和が戻ったコルティオール。

 今日も春日大農場はお仕事中。


 7月に入ると農場の収穫が一時的に落ち着くのがコルティオールあるある。

 この異世界は基本的に1年中温暖な気候で、12か月で区切ると11か月くらいが現世で言う初夏から真夏の気候で推移する。


 つまり、現世とコルティオールの気候が被る夏季は収穫できる作物も被る。

 でんすけすいかなどのブランド野菜を中心に育てているため、売り上げが低下して農場経営がひっ迫すると言うほどではないが、スイカ班とトマト班以外は割と仕事にゆとりができてしまう。


 冬野菜の収穫量を増やすにはウリネたんの負担が増える。

 この世界で彼女を酷使するのはギルティ。


 が、そこは春日黒助。

 無駄な時間を過ごすことが嫌いな男は、ここぞとばかりに加工食品の販売に舵を切る。


 今ではゴンゴルゲルゲの豚汁。

 イルノのトマトスイーツ。

 ギリーのコカトリスプリンなど、春日ブランドの加工食品は農協の朝市を支配していると表現しても過言ではない。


 そんな加工食品班のリーダーを務めるのが、死霊将軍ヴィネ。

 デトックスしまくった結果、おっぱいデカい働き者のお姉さんになった乙女。


 今日も作業スケジュールを確認するために、朝ごはんを食べた黒助が工場を訪ねて来た。

 そこが事件の始まりであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おい。ヴィネ。聞くが、明日の納品個数について意見を……。寝ているのか。疲れが溜まっていると見えるな。床で寝るとは……。待て。おい、ヴィネ」


 さすがの黒助も異変を察知して、ヴィネ姐さんに駆け寄った。

 彼女はぐったりとしているが、弱々しく目を開く。


「あ、ああ。ごめんよ、黒助。ちょっと体が怠くてさ。寝不足かもしれないね? すぐ、準備するから。待っていておくれ」

「バカタレ。どう見ても寝不足の症状ではないだろう。リッチ!! ちょっと来い!!」


 ただの綺麗な骸骨。

 リッチくんコンビがやって来た。


「オォォォォォオ。黒助様。我々、ヴィネ様に口止めされてる。オォォォォォオ」

「オォォォォォオ。今からうっかり口を滑らせます。オォォォォォオ」


「ちょ、お前たち。勝手な事するんじゃないよ。眷属が主に逆らうのかい!?」


「オォォォォォオ。知るものか、愛する主よ。ヴィネ様の寿命が残りわずか。オォォォォォオ」

「オォォォォォオ。黙れ、敬愛するデカ乳。黒助様。どうか主をお助けください。オォォォォォオ」


 聞き捨てならない話だった。

 黒助の中では「熱中症と夏バテの複合だな」と当たりがついていたのだが、それどころではない、のっぴきならない状態と知る。


「ヴィネ。悪いが、勝手に体に触れさせてもらうぞ」

「はっ!? ちょ、黒助! どこ行くんだい!? あたいなら平気さ!!」


「リッチはお前の魂を分けた存在だろうが。つまり、嘘や偽りで俺を謀ることなどあり得ん。黙ってろ。俺は少しばかりイライラしている。ヴィネ。お前、どうして体調が悪いなら俺に言わなかった? 俺はお前の雇用主で、家族だぞ」

「……うっ。ご、ごめんよ。心配かけたくなくてさ」


 黒助は「いや。俺も強く言いすぎた」と謝ると、ヴィネを抱えて空を走るのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 とある山脈。

 魔王城では。


「ベザルオール様!! 今日は15歳の姿になりました!!」

「くっくっく。これ、ギリギリアウトでは? いや待て。15と言えば、高校生か。……セーフかもしれぬ。試してみよう。くっくっく」



 お楽しみの最中であった。

 現在、午前10時過ぎ。お盛んなじじいとばばあである。



 そんなスウィートタイムは唐突に終わりを告げる。

 謁見の間のドアが吹き飛んだ。


「くっくっく。ちょ、待てよ。その乱行、魔王城決戦以来なのだが。余、既に公式戦で卿にボコられて改心して、今では1番の盟友やんけ。なんでそんなことするん?」

「じいさん。緊急だ。ヴィネが死にそうらしい。元はあんたの部下だろう。どうにかしろ」



「くっくっく。……マ? ちょ、待てよ。アルゴム。至急馳せ参じよ。引きこもりも連れて参れ。急を要する事態である」

「私、とりあえず服を着ますね」



 駆けつけたアルゴムと、最終決戦時よりも8キロ太ったガイル。

 そこにベザルオール様も加わり、ヴィネの病状について話し合いがもたれた。


「ヴィネの肉体は一度死んでいるのだよ。それにベザルオール様が不死の秘法をかけられ誕生したのが死霊将軍。その効果をデトックス繰り返したせいで薄めまくったら、それはもう寿命なんてゴリゴリ減るのだよ。愚かな事をしたのだよ、まったく」

「そうか。時にガイル。ヴィネは農場のために死霊将軍の特性を捨ててくれた。それを今、お前、聞くが。愚かな事と言ったか? おい。聞くが。なあ?」



「くっくっく。今日の黒助はガチである。ガイルよ。ごめんなさいしなさい。床に頭こすりつけて。血が出るまで。骨が見えるまで。早く。魔王城壊れる。アルゴム。卿、手伝ってやるが良い」

「すみまっ! 申し訳ありませっ!! あっ! アルゴム!! 踏み過ぎ、踏み過ぎィィ!!」



 引きこもりが退場しました。

 その間にも、ヴィネは呼吸が荒くなっており全身から止めどなく汗をかいている。


 ベザルオール様は思われた。

 「くっくっく。ちょっとエロいとか言ったら、絶対に殺されるであろう」と。


「じいさん」

「くっくっく」



「ぶち殺すぞ」

「くっくっく。この子、ついに心を読み始めたで。すみませんでした」



 だが、このお方は全知全能の偉大なる大魔王。

 対処法だってちゃんと用意しておられた。


「くっくっく。新しい魔力を与えてしまえば良い。余が不死の秘法をかけ直そう」

「そうか。そうしてくれ」


「ま、待っておくれ……。それはダメだよ。また、あたい。毒を放って野菜を腐らせる農場の害になっちまうじゃないか……。もう、嫌なんだよ。黒助の役に立てないなら、死んだ方が」

「おい。ヴィネ。それ以上の言葉を続けるな。俺が許さん。じいさん。聞くが。とにかくエネルギーであれば何でもいいんだな?」


「くっくっく。然り。だが、余の力は魔力。どう足掻いても毒や腐敗を付与する事にねぇ、クロちゃん? なんで軍手ハメとるん?」

「最終決戦でじいさんやポンモニが生命力をエネルギーに変えているのを見た。お前たちにできて俺にできん道理がない。喋っている間にヴィネが死んだら敵わん。やるぞ。おらぁぁぁぁぁ!!」


 黒助の手がヴィネの胸に押し当てられた。

 続けて、眩い生命エネルギーがヴィネの体に注ぎ込まれる。



 絵面的にはおっぱい鷲掴みにしているだけだが、大変シリアスなシーンです。



 ヴィネの顔色が一気に良くなり、彼女は起き上がった。

 代わりに黒助が座り込む。


「べ、ベザルオール様!! 黒助はどうなるんだい!?」

「くっくっく。生命力が8割ほど減った。人間の平均寿命を80歳とすると……。あ。ちょっと、余は計算が苦手であるがゆえ、よく分からぬ」



「今の黒助さんが23ですから。もうすぐお亡くなりになりますね」

「くっくっく。コルティさん。空気嫁」



 ヴィネは黒助を抱きしめる。

 すると、再び光が放たれた。


「ぐっ。おい、ヴィネ。聞くが、何をした」

「あんたの生命力を半分返したのさ!! あたいのために黒助が死ぬなんて、そんなの逝っちまえないよ!! これから残りも返すからね!!」


「バカタレ。そしたらお前が死ぬだろうが。……待て。じいさん。聞くが、こうやって定期的に生命力を入れたり出したりし続ければ、俺たちの寿命は減らんしどっちも死なんのではないか?」

「くっくっく。理論上は多分、そうなんじゃない? 知らんけど」


 黒助は頷いた。

 続けて、いつもの表情でヴィネに告げる。



「ヴィネ。俺と夫婦になれ」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 今回は逝っちまう事を許さない黒助。

 さらに続ける。



「要するにだ。毎日、欠かさずセックスすればいいわけだな?」

「くっくっく。卿は急に何を言い出すんや。確かに出し入れしとるけども。なんかそれで問題ない気がして来た。余、疲れてるのかしら。とりあえず、本編終わってもまだ残りあるんやぞ。オブラートかゴム付けなはれや」



 ヴィネ姐さんはフリーズ中。

 黒助が「しっかりしろ」と体を揺すると、おっぱいが震えた。


「はぁぁっ!? い、いや! 黒助!! 待ちなよ!! あ、あたいはそりゃ、嬉しいけどさ!? あんた良いのかい!? こんな魔族と生涯添い遂げるとか!!」

「ヴィネ。お前、まだ頭が働いていないのか? 聞くが」


 黒助はヴィネの肩を掴んで言った。



「お前が天寿を全うすることが俺の人生で賄える。こんな安い買い物はないだろう? お前が俺のためにどれだけ献身的だったかは把握している。そんな得難い女をこの身ひとつで守れるなど、男の本懐だ」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! こんなの! こんなの抗えるはずないじゃないか!!」



 こうして、黒助とヴィネは夫婦になった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 毎晩。午後11時ピッタリに黒助は風呂から上がって来る。

 続けて、妻に言う。


「おい。ヴィネ。セックスするぞ」

「はぁぁぁぁっ!! この雑な誘い方ぁ!! もう、ナニする前から逝っちまうよぉ!!」


「ナニではない。セックスだ。あと精液出すな。生命エネルギー込めて」

「……毎日この興奮が続くとかさ。寿命、緩やかに縮んでないかい?」


 お互いが命を無償で差し出すラブストーリー。

 セックスのパワーが過ぎるため、なんだか全然感動できないのは気のせいか。


 この世界線の春日黒助とヴィネの未来は大変明るいものであった。

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