第35話 俺と妹の本気デートが始まる。
土曜日の早朝、両親が寝ている中、そそくさと妹と出かける。
7月に入り、まだ梅雨明け宣言はされていないが、ここのところ雨は降っていない。
本日も雲ひとつ無い天気に、気温も高く気持ちが上がる。
妹は、袖がフリル状になっている白の肩だしブラウスに、薄いピンクの花柄ミニスカート、やや厚底のサンダル、リボンの付いた
俺? 聞きたい?
シャツにデニム……。
行き先は色々考え、適度に遠く知り合いに逢いにくい、しかもデートに最適
それは横浜!
やっぱり、デートと言ったら海でしょ? そしておしゃれでしょ? 都内だとまだ知り合いがいそうだが、さすがに横浜まで行けば……。
そして、今回俺は妹を妹とは思わない! 俺だって男なんだ、たまには女の子とイチャイチャしたいんだ。栞は妹だけど俺から見てもメチャクチャ可愛いんだぞ!
とりあえず自宅から駅に向かい電車に乗った。
地元を抜けるまでは妹と普通に過ごす。
妹といつもの通りたわいもない会話をして1時間弱、何度かの乗り換えをして横浜駅に到着した。
横浜、神奈川県横浜市なんだが、何故か神奈川出身の人は、横浜出身という人が多い、県名よりも都市名の方が有名な場所、みなとみらいやランドマーク、公園や博物館、関西の人だと神戸を想像していただけると近い感覚だと思う。
「着いたぜ、さあ栞気合いをいれてデートするぞ!」
俺は拳を、妹、いや、栞に向かって突きだす。
「うん!」
栞も拳を前に突き出し俺の拳に自分の拳をコツンと当てる。
端から見たら何してんだ? こいつらって思うかも知れないが、やっぱり切り替えには気合いでしょ?
そう、俺達は今日ここから、このいくら栞でも知り合いとは早々出会わないであろうこの土地にわざわざ足を運び、今から完全に兄妹という事を忘れ、恋人同士という設定で挑むのだった。
「よし、まずは手を繋ぐぞ!」
「いいね、お兄ちゃんその調子だ!」
そう言ってがっちりと手を繋ぐ……栞の温かい手にテンションが上がって行く。
「栞、今日は俺についてこい!」
「ううん、今日だけじゃなく、一生ついていきます!!」
えっと……いや、ごめん一生はちょっと荷が重い……。
ほんの少しだけテンションが下がった……。
「まずはあれだ、あれに乗るぞ栞!」
俺は海の方向を指差した。
「あれ?」
「船に乗るぞ、水上バスに乗って行くぞ! そろそろ疲れて来たから、話し方を普通に戻すじゃん」
「そうじゃん、そうするじゃん」
二人でエセ横浜弁を使いつつ、水上バス乗り場に向かった。
水上バス乗り場にはすでに船が接岸している。
俺達はチケットを買いその船に乗り込む。
船の揺れに多少びびりながら恐る恐る乗り込んだ。
初めての水上バス、俺達は少し戸惑いつつ近くの席に座った。
船はそこそこ空いている。
船の窓からは横浜のデパート等が見えていた。
「出航したら、後ろのデッキに行こう」
テレビで見た記憶を頼りにそう言う。
栞は俺を見てニッコリと笑い頷く。
可愛い、なんだか今日は一段と可愛さが増している。
しばらくすると、エンジンの音が鳴り響き、軽いショックと共に船が動き出した。
少々窓から景色を眺め、その後俺達は後ろのデッキに向かった。
デッキに出ると、海の香りがさっきよりも強く感じる。
意外とエンジン音が大きいのに少し驚く。
俺は声を張り上げ栞と話す。
「わーー見て見て、お兄ちゃん! カモメが飛んでるよ、わーー可愛いいい!」
数羽のカモメが、水上バスの後ろを飛んでいた。
船からの景観は、海の景色というよりは、横浜の景色を海側から眺めるという感じだ。
見える物は普通のビルばかりなんだが、海から見るとやはりちょっと違う気がする。
そのまま眺めていると遠くにランドマークや船の帆の形をしたホテルが見えてくる、そして【みなとみらい】の観覧車が近づく
「また観覧車乗るか?」
じっと観覧車を見つめる栞、俺はお台場の観覧車を思い出し、そう聞いた。
「えーーそうだねえ、今度は私たちが周りに見せ付けちゃう、えへへへへへ」
栞が言ってるのは、お台場の観覧車で会長とその彼氏がしていた時の事、それを今度は俺達がしようって事で……いや、しませんから……。
俺達は【みなとみらい】では降りずに、そのまま次に向かった。
「……海だとちょっと寒いね」
「じゃあ中に入るか」
海風に結構あたっていたので、俺達は船の中のさっき座っていた席に戻った。
席の窓から外を見ていると、ベイブリッジが見え始める。
「夜景は綺麗だねー夜になったら、えへ、えへへへへ」
もう栞がえへへしか言わない件。
「そんな遅くまでは、いられないからな?」
試験も近い……栞は必要無いかも知れないが俺は勉強しないとヤバい。
「えーーーー、今日は帰りたくないの……」
妹は上目づかいで、目をうるうるさせ俺を見つめる。
「はいはい」
ちょっとドキッとする言葉と視線、俺は高ぶる気持ちを抑え何事もないかの様にそう言って誤魔化す。
「えええ、今日は恋人なんでしょ? もっとなんか言ってよーー」
「はいはい、愛してる愛してる」
「えへへへへへへへへへへ」
栞の赤い顔が益々赤くなった。
そして、そうこうしている間に、水上バスは横浜名所【赤レンガ倉庫】に到着する。
ここは昔、保税倉庫だったらしいが、今はショッピングセンターの様になっていて、買い物、食事ができるようになっている。
詳しくはウィキでどうぞ。
目の前には赤いレンガ造りで横長の洋風な建物が見える。
「うわー綺麗、すごーい」
栞は船から降りると、目の前の赤レンガ倉庫を見て興奮している。
「えっとそれじゃ、ちょっと遅いけど、朝ごはん食べてないから何か食べよう」
「なに食べるの?」
「ちょっと並ぶかもしれないけど、有名なパンケーキ屋さんがあるからそこに行こう」
ここには某有名パンケーキ屋がある。
ここは朝から営業しており、常にかなりの人が並ぶ。
まだ昼前だが土曜の為か、そこそこの人数の人が店の前に並んでいた。
俺達もその最後列に並ぶ。
しかし丁度団体が出ていったので、それほど待たずに入れた。
席に案内されメニューを渡される。
メニューには、2000円近い値段の生クリームが山盛りになっているパンケーキ並んでいる。
予め分かっていたとはいえ、高校生にはちょっとお高い値段だ。
栞も俺も折角だからとパンケーキを注文した。
「うわーーーー、ふわふわ、甘い、おいしいいいい」
朝ごはんにしては高いと思う。でも、まあ、妹のこんな嬉しそうな顔がみれたんなら、安いのかな?
そう思いつつ、俺も自分のパンケーキを食べる。 甘!
パンケーキにコーヒーでとりあえず遅めの朝ごはんを終わらせ、店を出た。
ちなみに妹が頑なに半分払うと譲らなかったので割り勘にさせて貰った。
そして店を出て今度はショッピングを開始する。
倉庫には、他にさまざまなショップが並んでいる。
二人でしばしウインドショッピングをしていると、雑貨屋で栞が立ち止まりある品物をじっと見つめている。
俺も栞の横に並び、一緒に見る。
「お! お兄ちゃん、これ買って!」
唐突にそう言って、栞からおねだりをされた。
栞は今までこういう所で、俺に物を買ってなんて言った事はない。
さっきも食事代だって払うと譲らなかった栞が……。
一体何を買ってと言っているのかと栞の指差す品物を見ると、それは銀色の可愛らしい指輪だった。
銀の指輪だが、値段からいって銀メッキだろう……栞はそれを指差している。
指輪ですか……まあ安いからいいけど。
「いいよ、これくらいなら」
そう言って、俺はその指輪を買い、そのまま妹に渡す。
「お兄ちゃんが着けて」
栞は受け取らずそう言って、俺に左手を差し出した。
俺は栞の左手の中指に指輪を入れようとする。
「ちがううううう、これ!」
栞はそう言って薬指を浮かしてくる。
「ま、まじかよ……」
俺はそう言うも栞は頑として譲らない。
仕方なく薬指に銀色の指輪をはめた。
「ほええええええええ!」
俺が指輪をはめると、栞はなにやら変な言葉を放った。
そしてその場で指輪を着けた左指を見てうっとりしている。
俺はそんな栞の嬉しそうな姿を見て思わず照れくさくなり、「ほれ、行くよ」と言って歩くように促すした。
「うん!」
そう言って、妹は俺の後ろを付いてくるが、歩きながらもずっとその指輪を幸せそうな顔で見つめていた。
いつまでもずっと……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます