第33話 ご褒美が欲しい
栞が遂に本領を発揮して、あっという間に生徒会騒動を決着させた。
とはいえ、俺も妹もさすがに全て人にやらせ高見の見物をするわけにも行かないので、週末はボランティア活動に精を出す。
そして妹の計画通り終了させレポートも提出した。
妹の頼みとあって適当に書く者は誰もいない。
その為大量にレポートが送られて来たらしく、生徒会の面々はまとめ作業に追われているらしい。
しかし、会長と副会長、あとあの書記も一癖も二癖もあった。
会長の二面性といい、あの副会長の最後の態度といい、なんか今後も絡んできそうな嫌な予感がしていた。
そして期末試験も近づいている週末、いつもの自宅リビングでのお茶会中に妹が突然声を荒げ俺に向かって言った。
「お兄ちゃん! 大変だ!」
「ん? なんだ、どうかしたか?」
また生徒会? もう当分いいんだけど……
妹の慌てように俺はコーヒーを飲みつつ、出来るだけ冷静に聞き返す。
「お兄ちゃん! 大変だよ! 私達最近全然デートしてない!」
「……」
まあ……そんな事だろうとは思ったよ。
「お兄ちゃん! このままだと、まずいよ、タイトル詐欺って言われちゃう!」
「いや……折角ここまでメタネタは抑えてたのに……とりあえずタイトルってなんだよ? そしてもうすでに、一度恋人関係が保留になってるんだからその段階で詐欺に近いって……何を言わせる?!」
うん、最後の最後でそういう落ちを入れるな……いや、そもそも最後ってなんだよ?
俺の一人突っ込みを無視して妹は冷静な表情で冷たく言った。
「お兄ちゃん……デートをします」
「いや、あまりその人のネタ使うのはまずいと思うんだけど……まあ今さらか、うーーんデートねえ……」
「えーー、いいでしょ? 今回、私頑張ったでしょ? ご褒美欲しいよ」
妹は投げたボールを取ってきた子犬が飼い主に誉めて誉めてとねだる様に、ソファーの上に座り尻尾の代わりにお尻をフリフリさせながら俺に訴えかける。
かわいい、かわいい。ただお尻を振るのはやめてくれ……。
「いや、頑張ったっていうか、凄すぎるっていうか、チートすぎるっていうか、俺TUEEEEじゃなくて、妹TUEEEEって斬新の様な、探せばあるような、なろうだったら絶対誰か書いてるような……」
そう言い妹の頭を撫でて誤魔化してみた。
「お兄ちゃんもなに言ってるかわからないよ? とにかく連れてって、私をデートに連れてって」
撫でただけでは、誤魔化せなかったか……
「いつの時代の言い回しだよ? はいはい、で今度はどこへ行きたいんだ?」
俺がそう言うと妹は暫し考え込む。
「うーーん、秋葉原?」
「……ネタ切れですか?」
「二人で旅行に行きたい」
「日帰りならな~~」
「そして、終電が行ってしまい、二人はえへへへへへへへへ」
「はいはい、歩いて帰ろうな」
「えーーこの間泊まりがけの旅行の約束したでしょー」
「しーー、それは内緒の奴、言っちゃ駄目な奴、後にとっとかなきゃいけない奴」
「じゃあ、お兄ちゃんと誰も居ない所に逃避行したい!」
「はいはい、ただの遠出ね」
誰もいない所ってのが問題だな、山奥か無人島か?
「えっとね、関係を深めるにはつり橋効果が良いって、どこか高いところか危険なところがいいなあ」
ついにスマホでググり始める妹。
「まあ落ちないようにな」
「そして二人で恋に落ちようお兄ちゃん」
色々と案を出すもどれも決め手に欠ける。
まあ俺的には、ここで妹とくだらない話しをしているのが一番いいんだけどな。
まるで生徒会での会議の様に一向に決まらないデート案。
妹は首を傾げ、いつもの口元に指を当てアザと可愛いポーズを取ってデート案を捻り出す。
「うーーん……高校生定番デートがいいなあ」
妹以外とデートした事無いからそもそも定番がわからん……。
「定番デートねえ、ちょっとググって見るか」
とりあえず俺もスマホを取り出し検索してみた。
「……」
「どこだったの? お兄ちゃん」
「定番デートは……お互いの家だってさ……」
「うん、もういるね」
「次がボウリング……」
「うん、こないだやったね、まあ私はもうちょっとやりたかったけど」
「カフェでお茶……」
「妹カフェならほぼ毎日、メイドカフェもしたね」
「やってる、俺達全然やってるじゃん、定番デート」
「う、うんそうだね、リア充だね」
俺達がなにげにやっていた事が世の中の定番という事に驚く。
でも、だとすると一通りこなした恋人達は他にどんなデートをしているのだろうか?
「「うーーーーーん」」
二人で腕を組み、シンクロしながらベタな体勢で悩む。
「お兄ちゃんは、例えばもし私以外の彼女が出来たなら……ぶううううう」
「自分で言って自分の機嫌を悪くするな」
「じゃあ、仮に私が妹じゃなかったら、私と、仮想妹じゃない私とどこに行く?」
「なんだよその仮想彼女って……うーーーん、そうだなあ……栞の部屋?」
健康な若い男子はみんなそう思うよな……定番デートの上位だし。
「それ前回やったしねえ……」
「そうだよ、栞こそ無いのか? 彼氏と行きたい場所は?」
俺がそう聞くと妹はちょっと食い気味で、何を今さらまた聞くか? と言わんばかりの勢いで答える。
「私の仮想彼氏はお兄ちゃんしかいないの! お兄ちゃんが連れてってくれるところなら、たとえ地獄でもわたしは楽しいの!」
「重い、重いよ! また平然と照れる事を言ってのけるから……この妹は……よし! じゃあ地獄に行こう」
「うん、良いんだけど、どこにあるの?」
「うーーん3丁目辺りにないかな?」
「絶対ないね、この間通ったし」
「そうか、これってさ倦怠期じゃね?」
「じゃあ私とお兄ちゃんは、もう夫婦も同然って事だね、えへへへへへへ」
「うーーん……めげない妹だな」
「ああああああああ、もう、どこでも良いから連れてって!! デートしたいいい! お兄ちゃんとデートがしたいのしたいんだってば!」
妹はソファーに倒れこみ親にオモチャねだる我が儘な子供の様にジタバタし始める。
うーーん、なんだか最近妹のワガママ振りが拍車をかけている気がする。
やはり、あの……俺達は兄妹なんだから離れられないってのに安心しきってるんだろうか? でもこれが妹の本来の姿と思うと、それはそれで素直に良かったとも思うんだが……。
でも、俺もちょっとは……そうか……。
「よし、わかった! 俺も本気出すぞ栞! 今度のデートは栞を本当の恋人と思ってデートする!」
「え……今まで本当の恋人と思ってくれてなかったんだ……」
ドスンとわかりやすくへこむ妹……。
いやだって妹だし……。
「生徒会の件で栞が頑張ってくれたから、今度は俺が栞の為にがんばる番だ」
「……お兄ちゃんが恋人気分になってくれるなら、そのまま……今回だけじゃなくて、もうずっと……、ここは私の正念場かもしれない……、このままお兄ちゃんを……」
俺の一世一代の提案を聞いてなにやらぶつぶつ言い出す妹。
その言葉を聞いてすでに俺の中で後悔が……。
本気のデートって言ったけど、デートに本気も何も無いんだけど。
俺、大丈夫かな? やばいかな? でも本気出すって栞を本当の恋人としてって言っちゃったしな……。
果たして俺は妹の攻撃に耐えられるんだろうか?
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