第20話 銀髪美少女再び

 

「おい!」

 先生との歓談? の後、唐突に後ろから呼び止められる。

 まったく、最近こんな事ばかりだなと振り向くとそこには、俺の元相棒の銀髪美少年、今は銀髪美少女が立っていた。


「ん? おお、みつる、じゃなかった美智瑠」


「ううう、な、なんでほったらかしなんだよ?!」


「は?」


「数年ぶりに会ったっていうのに、なんで僕の事をほったらかす!」


「ほったらかすって」


「あるだろ! 積もる話が」


「うーーん、積もる話ねえ」


「いなくなった理由とか、今どこに住んでるのか? とか、気にならないのかよ?!」


「あーー」


「…………ううう」

 俺が特に? って顔をすると美智瑠はその美しい顔を歪め、涙目で俺を見る。


「う、嘘だよ、嘘、ちょっと意地悪したくなっただけだから」


「ううう、意地悪」

 美智瑠は悔しそうな顔で俺を見上げそう言う。

 ああ、なんか調子が狂う……だってついこの間まで俺はこいつを男だって思ってたんだから。


 俺は綺麗な顔は見慣れている。

 整った顔立ち、その愛らしさ、可愛さは兄から見ても完璧な妹。

 タレ目だが愛らしいまるで小動物の様な可愛さの麻紗美。

 年齢不詳の可愛さ、ツインテールが似合い過ぎる担任。

 綺麗で妖艶、どこか気品を感じる美しさの会長。


 しかし、この目の前の美少女はその誰よりも美しかった。

 銀髪碧眼、整った顔、細い手足、引き締まったウエスト、まるで異世界から来た妖精のようだ。

 まあ……唯一残念なのは胸だけ……うん、男と間違えても仕方ない。


「どこ見てるんだ?」


「あ、いやあ、男と間違えても仕方ないかなあって」


「君が間違えたのは小学校の時の僕だろ!」


「あーーうん、そうだったな」


「全く……で、どうなんだよ」


「どうとは?」


「ううう、泣くぞ!」


「ハイハイわかったよ、じゃあ少し話すか」

 俺はそう言うとスマホを取り出し妹にメッセージを送る。

『今日の放課後ティータイムは中止で宜しく』


『了解』

 5秒も待たずに返信が来る。

 怖いくらいいつも速攻で返信が来るんだけど、妹って常にスマホを構えてるんだろうか?

 まあ友達が多い妹だからメッセージの返信も早いのだろう。


「とりあえずお茶でも行くか?」


「うん!」

 キラキラと輝く瞳で俺を見つめる相棒、いやもう相棒とは呼べない。

 すっかり美少女に変貌してしまった俺の親友、元相棒。

 あれから声を掛けられなかったのは、俺の中でまだ整理がついて無かった事は否めない。


 俺は戸惑いを隠し美智瑠とハンバーガー店に赴いた。




「さあ、僕に何でも聞いてくれ」

 無い胸を張り、美智瑠はドリンクを一飲みすると俺にそう言って来る。


「じゃ、じゃあ……えっと……お前の名字ってなんだ?」


「ぶ、ぶふぉおお!」


「うわ!」

 盛大にジュースを吐きこぼす美智瑠、俺は慌ててご自分にかかったご褒美を、もとい、ジュースを紙ナプキンで拭く。


 美智瑠も慌ててテーブルを拭いている。

 うーーん、小学生の時のこいつはサッカーが上手く、どこか大人びて、そしてどこか儚げだった……、けど改めて再会して思ったが……ひょっとして……こいつポンコツか?


「きき、君はそ、そんな事も知らないのか!」


「いやだって聞いてないし」


「言って……無かったか?」


「聞いてないな」


「そうだったっけ?」

 美智瑠の身長はあの頃からほぼ伸びていない、しかし容姿は別人の様に変わっている。

 少年から美少女に変貌したが、どうやら性格までは変わらなかった様だ。

 小学生のまま大人になった美智瑠……要するに……こいつポンコツだな?


「僕の名字は渡ヶ瀬わたがせだ、渡瀬美智瑠だ!」

 美智瑠は何故か腕を組み偉そうにふんぞり返る。

 そしてポンコツの本領を発揮するべく、そのまま後ろに椅子ごと倒れそうになる。


「う、うわわわわ!」


「ば、バカ!」

 美智瑠は組んでいた手を慌てて俺の方に伸ばした。

 俺はその手を咄嗟に掴むとテーブルに引き戻す。


 そして、そのままお互いの顔が近付く。すると美智瑠は慌てて俺から離れるが反動でまた後ろに倒れそうに……ああ、もうこのまま倒れて良いんじゃね? と思ったが、そんなわけには行かず再び手を引っ張り引き戻した。


「はあ、はあ、す、すまない……」


 美智瑠は真っ赤な顔で俺に向かってそう言う……このポンコツ娘が……。


「全く、あんなに運動神経良かったお前が」


「いやあ、だいぶ前にサッカーは辞めちゃったからなあ、運動神経は今でも良い筈だけど、最近は女の子らしい振る舞いを心がけてたからさ」

 それのどこが? と突っ込みたい気持ちを抑え話を続ける。


「女の子らしい振る舞いねえ」


「これでも頑張ってるんだ、君に会えると思って」


「俺に?」


「うん……僕さあの時急に引っ越しが決まって……だから君に全部話そうって、でも言い出せなくて……男だって嘘をついていた事もあって」


「あーーまあなあ……でも言って欲しかったよ、俺お前が居なくなってずっと探してたんだ、でも全然見つからなくて、そりゃそうだよな、男の子を探してたら見つからない筈だよ」


「ご、ごめん」


「いいよ」


「いいや、それじゃ僕の気持ちがおさまらない」

 美智瑠は俺に顔を突き付け目を閉じた。


「……え?」


「僕を殴ってくれ」


「いやいやいやいや」

 こんな綺麗な顔を殴れとか普通に無理だし。


「頼む!」

 いや無理だし、そしてここでキスすると言うお約束も勿論出来ない。

 一応俺は栞と付き合ってるんだから……。

 そしてこいつは気付いていない、この綺麗すぎる容姿に周囲が注目している事に。

 もう周囲から完全にバカップルに見られている。


「さ、帰るか」


「おい! 待てよ、殴れよ」

 俺は美智瑠の制止を振り切り急ぎ店を出た。


 その後もポンコツ娘は俺の後を追い殴れ殴れとせがむ。

 それを無視するように俺は家に向かってせかせかと歩く。


 まあ、何もしないのが、俺の復讐って事で……。


 とりあえずお帰り『相棒』と、もう一度心の中でそう呟いた。





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