第五章 たとえ世界中が敵だとしても
第51話 5-1 悲しみの狂戦士(1)
時は少しさかのぼる。
日時は、大地震発生の日
場所は中国 田舎の農村
二人の兄弟が、農業にいそしむ。
兄は本来なら、高校2年生 名前を
妹は本来なら、高校1年生 名前を
両親ははやくに失くしてもういない。頼れる親族もいない。
二人で、この小麦畑を耕して何とか毎日を食つなぐ。
でも幸せだった。いや、本当の幸せを知らなかっただけかもしれない。
とはいえ、二人の仲睦まじい兄弟は、支えあいずっと二人で生きてきた。
「兄ちゃん! はよ収穫せんと日くれてまうで!」
妹が兄の寝る布団をはぎ取る。
「ああ、起きるよ。あと5分」
兄は朝が弱かった。あと5分。この言葉を何回繰り返したかわからない。
「もう…。 えい!」
妹は、兄の上に飛び乗った。
「ぐぇっ!」
「やっと起きた! ほら準備して」
「ひどい起こし方だな。もっと愛のある起こし方はできないのか」
重い瞼をこすりながら兄は、なんとか立ち上がる。
「もう、兄ちゃんがいつも素直に起きるなら私だってこんな起こし方せんよ?」
「へいへい」
そういって兄弟は、いつものように農業の支度をする。
これが二人の日常。お互い仲がいいという認識はないが、助け合って生きてきた。
きっとこれからもこのまま助け合って生きていくんだろう。
そう思っていた。
直後発生するのは、大地震
幸い建屋から出ていた二人は、押しつぶされずにすんだ。
はじめての大地震に悲鳴を上げながら兄は妹に覆いかぶさる。
妹を守るのは兄の役目、兄は必死で妹を守る。
そして揺れが収まり、あたりを見回すと目の間には巨大な塔が聳え立つ。
しばらく様子を見ていたが、兄弟は、引かれるように塔に近づき手をかざす。
『No00002 王静 認証しました。並びにNo00003 王偉 認証しました。初期クエストを発行します』
「な、なんだ?」
脳に響くシステム音声と共に、現れたのは、小さな緑の鬼2体
その鬼が襲ってくる。しかし、農業で鍛えた二人の前では子供ほどの大きさの鬼は脅威とならなかった。
いきなり襲われて動転してはいたものの、ここは中国の田舎 野生の動物が出てきて襲われるなんて日常だった。
二人は手にもつ、農業用の桑で小鬼を倒す。
直後流れるのは、システム音声。
Dランクギフトを発芽しますか? と聞かれたのでとりあえず保留にしておいた。
何のことかわからないのにすぐに了解するほど、二人は平和ボケしていない。
「兄ちゃん。なんやったん? これ」
光の粒子になって消える鬼をみて妹が訪ねる。
「わからん。でもあの塔みたいなでかい建物、みたことがない」
その日の夜に、兄弟含む農村では集まりがあった。
とはいえ、集まって話し合ってもなにもわからない。
兄弟は、小鬼が出て倒したということだけを伝えて、話し合いを後にした。
「ねぇ、兄ちゃんこれからどうする? 家倒れてもうたし」
「うーん、まあでも気温も暖かいし、しばらくは外で寝ても大丈夫だろう。ひとまずはいつも通り収穫して、町に売りに行こう」
「うん!」
そして兄弟は、倒壊しなかった馬小屋で夜を明かす。
身を寄せ合いわらの上で、まるで幼い頃に戻ったかのように。
「なんか、ひさしぶりやね。兄ちゃんと隣で寝るの」
「あぁ、そうだな。いろいろあったが、とりあえず寝よう」
そうして二人は眠りについた。その日が最後の安住の日だったとは知らずに。
────────
「ここか?」
一人の軍人と、一人の農夫が小屋の前に立つ。
後ろには、軍服を着た男が何人か控えている。
時間は深夜。あたりを照らすは月明りのみ。
「へい! そうです。あの塔触ったら小鬼がでて倒したとかいうガキの家です。旦那報酬はちゃんとくださいよ? へへっ」
「あぁ、そうだな。くれてやるよ」
「へ?」
バーーーン
「鉛玉だがな」
農夫は、額を打たれて息絶える。
まさか、案内をしただけで殺されるとは思っていなかっただろう。
「よし! お前たちいけ! 相手は超常の力を使うやもしれん。気を引き締めろ」
「「はっ!」」
男の号令と共に、軍人は、馬小屋のドアを蹴破る。
「え? な、なんですかあなたたち」
「兄ちゃん…」
妹は隠れるように、兄の後ろに回る。
飛び起きる二人を軍人が間髪入れずに確保する。
手には手錠。口には猿轡。そして布をかぶせられ、手慣れた動きで拘束される。
二人は抵抗するが、所詮は子供
軍人の前ではなすすべなく、簡単に車に投げ入れられる。
そして二人を連れた軍用車は、走り出す。
どれだけ時間がたっただろう。二人を乗せた車が止まり運び出される。
「ほら、ここに入れ」
拘束を解かれたと思ったら、牢屋のような場所に兄弟は入れられた。
「な、なんなんですか! 僕ら何か悪いことでもしましたか? 軍人さん!」
兄は妹の無事を確かめた後、牢屋の鉄格子に手をかけ、必死に訴える。
「あぁ、なにもしていないよ。しいて言うなら運が悪かっただけだな」
軍人は、吐き捨てるようにそう言って部屋をでた。
「兄ちゃん、怖いよ」
「大丈夫俺が守ってやるからな」
兄は妹を抱きしめながら、励ます。
本当は自分も怖くて仕方ない。でも今は震えるわけにはいかない。
妹を少しでも安心させてやらなければ。
「おい! 起きろ!」
いつの間にか眠っていた二人を軍人が起こしに来る。
二人が目を覚まし、軍人を見る。
「楽しい実験の時間だぞ」
その顔には、人間のものとは思えない下卑た表情が浮かんでいた。
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