第36話 3-6 英雄のスピーチ
剣也は、マイクの前に立つ。
直後思考加速を使う。
世界は止まり、心を落ち着かせるには十分な時間を稼ぐ。
剣也は話す内容を考えるが、別にすごいスピーチができるわけではない。
どうしたもんかな。
そうだ! 今度テレビのインタビュー用に八雲さんが考えた台本がある。
それを使わせてもらおう。
今度のインタビューはまたもう一回考えてもらうか使いまわせばいいだろ。
マイクの前に立つ少年の、言葉による戦いが始まった。
「みなさん。はじめまして。
御剣剣也です。」
落ち着いた声で普通に喋り出した剣也に、
二菱は驚く。
「二菱会長
この度は、このような場を作っていただき
誠にありがとうございます。」
そういって、二菱会長に頭を下げる。
会長は後ずさる。
嵌めようとした子に、気まで使われた事実に。
そして、剣也は頭を上げゆっくりと喋り出す。
「世界は、今暗い闇の中にいます。
塔が起こした大震災の復興もままならぬのに、
クエストにより発生した魔獣があふれ人々を恐怖に陥れています。
でも、安心してください。
この国には、僕がいます。僕たち神の子がいます。
そして、そこにいる。
二菱静香さんも。」
剣也は会場にいた静香をさきほど思考加速中に見つけていた。
剣也が手を向けた先に、後を追うように会場のみんなも静香をみる。
静香はそれに気づき、スカートをつまみ、お辞儀した。
さすがお嬢様 挨拶も華麗だ。
「神の子学園は来年4月に開校します。
そこで生徒たちは、鍛錬を重ね、成長し、そして、日本中にあふれる魔獣を倒します。
いつかあの塔の謎だって解明してみせます。
ですが、今は不安で眠れない夜もあるでしょう。
この夜は開けないのかと感じる日もあるでしょう。
だから今は僕がこの国を照らす光になります。
みなさんが安心して暮らせる日常を必ず取り戻してみせます。」
強い口調で、話した剣也は、
そこで一旦ため、良く通る声で静かに語り掛ける。
「しかし、僕たちはまだ子供です。
僕なんてつい最近義務教育が終わったばかりです。
至らぬところも多いでしょう。
できないことも多いでしょう。
そして、挫ける時もあるでしょう。
だからどうか皆さんの力も貸してください。
親であり、師であり、そして人生の先輩であるみなさんの力もどうか貸してください。
この前が見えない闇の中では、どちらに進めばいいか正解はわかりません。
だからせめてみんなで手をつなぎ、一緒の方向に歩いていきましょう。
それがきっとこの見えない道を進むための勇気に変わります。
どうか一緒に戦ってください。
よろしくお願いします。」
ここで剣也は頭を下げた。
このセリフは、ちょっとカッコつけすぎだよ、八雲さん
直後響くのは、拍手喝采
剣也のスピーチに胸を打たれた会場の権力者達は
神の子学園への協力を密かに決意していた。
二菱会長も無意識に拍手していることに気づいた。
このガキ、この場であの土壇場であんなちゃんとしたスピーチをしやがった。
ちょっと感動してしまった自分が憎い。
「あ、ありがとう、剣也君感動的なスピーチだったよ。
まさしく英雄だ。皆さん!
これからも手を取り合って支えあい共にこの国を護っていきましょう!」
乗るしかない。この空気で悲惨なんかできない。
そして、剣也はステージを拍手でおりていく。
「すばらしかったよ剣也君。
君、将来は私の元で政治家を目指さないか?
私は全力で支援するよ? 君なら総理も夢じゃない。」
八雲が真剣な顔で勧誘してくる。
「はは、ありがとうございます。
考えておきます。」
剣也は少し顔を引き攣せながら答えた。
「静香ごめん、いきなり名前を呼んで。
君が八雲さんの近くに来たのが見えてね。
ちょっとだけアドリブをいれた。」
「べ、べつにかまわないわよ。それぐらい!」
静香はタキシードの剣也をみる。
カッコいい。
もう恋する乙女の顔になっているのだが、それに気づいたのは横にいた早乙女だけ。
横にいる早乙女がそれを察知し援護射撃のため、剣也に耳打ちする。
「けんやきゅん。乙女がめかし込んでんのよ?
褒めるのが男でしょ。」
静香はいつもの制服じゃない。
パーティー仕様だ。
モデルのようなスタイルが強調される黒いドレスに
いつもの黒髪ストレートではなく毛先をウェーブさせ
まるでお姫様のように美しく、清楚な雰囲気をだす。
正直めちゃくちゃ綺麗だとおもったので簡単に褒められる。
「いつもの静香も綺麗だけど、
今日の静香は、特別綺麗だね。
とても似合ってるよ。」
突如ほめごろされた静香は顔面が沸騰した。
「な、なにをいきなりいってるのよ! ばか!」
顔を下に向けて、罵倒する。
その顔は火が出るように真っ赤だった。
そんなことは露とも思わない剣也は
あれ?褒め方間違ったかな?と思うだけだった。
別に怒ってる感じじゃないのでまぁいいかと忘れる。
この子天然物のたらしなのね。
しずちゃん完全にやられちゃってるわ。
本当に恐ろしい子
早乙女だけが静香の心境を理解していた。
パーティーも終盤
そろそろお開きかというところで、二菱会長がこちらに歩いてくる。
どしどしと音を立てて、剣也に近づき指をさす。
震える体は剣也に対する怒りを感じさせる。
その怒りの感情を声にのせて、剣也に言い放つ。
「わしは、、、わしは、お前を認めんぞ!
お前みたいなやつに静香は絶対にやらーん!」
「は?」
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