英雄一家の〝出涸らし〟魔技師は、今日も無自覚に奇跡を創る。
右薙 光介@ラノベ作家
第1話 〝出涸らし〟
「はあ……」
大きなため息を吐きながら、僕──ノエル・アルワース──は大通りをとぼとぼと歩く。
今日は年に一度の『降臨の儀』の日。
この世界──レムシリアの人間は、誰もが十五歳でこの儀式を受ける。
そして僕は今しがた、その判定を受けてきたところだ。
『降臨の儀』を受けると、その者に最も期待を寄せる
星の数によって才能の度合いが示され、それに相応しいスキルが付与される。
僕たちレムシリアの民は、この付与スキルによって自分に課せられた生き方を神から示されるのだ。
それは一生を通じて変わることはなく、そのまま社会的な階級の指標ともなる。
『降臨の儀』の判定は、二十ニのアルカナと五つのランクから構成される。
すなわち……
才無き最底辺の『
劣等人たる『
普遍者である『
才気あふれる『
英雄の素質秘める『
……の五段階評価からなる。
そして、今日この日。
僕に下された判定は、『
つまりは、最底辺だ。
尊敬する父と同じということに、救いはあるものの、やはり『
そもそも、『
昨今は人権や平等といった言葉が推進されて、少しばかり緩和されているとは言え、それはせいぜい僕が住む
……いままでも、決して高いとは言えなかったが。
「よぉ、〝出涸らし〟」
再度の溜息をつきながら俯いて歩く僕の前に立ち塞がるようにして、背の高い少年が現れる。
同じ初等教育学校に通っていた、元同級生で……あまり、得意ではない奴だ。
できれば今日だけは会いたくないと思っていたが、どうやら僕を嗤うために待ち伏せていたらしい。
「ギルバルト」
「おいおい、ギルバルト
僕の目の前に証明書を差し出して、ギルバルトが不敵に笑う。
そこには『
前々から何かと僕にマウントを取る男だったが、それが降臨の儀によって正当性を得てしまった。
「しみったれた顔でどうしたんだよ?」
「放っておいてくれ」
世界で最も多いのは『
全人口の六割ほどがこのランクに属し、残り四割にそれ以外が分布する。
そして、中でも最も劣った能力を持つのが『
つまり、厳然たる事実として、ギルバルトは僕より優れた能力を持つ人間であり、社会的にも上位に位置しているということになる。
「ノエル……お前、『
「……!」
得意げに証明書をひらひらとさせながら、ニヤニヤ笑うギルバルト。
学生時代は家柄でマウントを取ってきたものだが、今度はランクでマウントか。
ああ、こいつはどこまでも正しいレムシリア人の姿だ。
何より、先程から挑発がわりに発せられる〝出涸らし〟という言葉が、今日はより深く突き刺さる。
──〝出涸らし〟。
いつからか、陰で僕を指す言葉になった言葉。
優れた父母から何もかもを受け継いだ姉と、何も受け継がなかった僕。
並べて対比すれば、なるほど……。僕は〝出涸らし〟なのだろう。
「これからはオレに頭を下げて生きろよ? それともオレの奴隷になるか? いや、やっぱいいわ。お前みたいな〝出涸らし〟野郎なんてクソの役にもたたねぇし──……あばァっ!?」
一発くらいぶん殴ってやろうかと握り拳を作った瞬間、ギルバルトの顔が突然へこみ……そして、通りの端まできりもみ回転しながら吹き飛んでいった。
あれは顔の骨が折れてるかもしれない。
「ノエル、迎えにきたわよ」
「姉さん?」
少し長めのストロベリーブロンドをふわりとなびかせながら、快活に笑って僕を見る姉。
母譲りの赤い瞳は静かに揺めき輝いていて、少しばかり気が立っていることを暗に示していた。
それにしても、我が姉ながらなんて絵になる人なんだろう。
ただ暴力を振るう瞬間ですら、こんなにかっこいいなんて。
エファは僕の一つ上の姉である。
『
それと同時に、僕の幼稚なコンプレックスを刺激する存在でもある。
「あ……が……」
「うるさい」
通りに転がるギルバルトが小さな声を上げていたが、それに向かって容赦なく〈
非殺傷の魔法を使うだけ優しいと言うべきかもしれないが、指先から放たれる電撃を浴びたギルバルトはいよいよ気絶してしまったようで、倒れたまま動かなくなった。
「またこいつ? 懲りないわね。ま、いいか。さ、ノエル。帰りましょ?」
笑顔の姉に、僕は俯く。
このような姉の鮮やかな姿を見てしまうと、さらに言い出しにくくなってしまった。
「うん。あのさ……僕、『
「そ。じゃ、パパと一緒ね!」
「うん」
「きっとパパ、喜ぶわよ」
なんて事ない風に笑う、優しくて過保護な姉と並んで僕は家路を歩いた。
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あとがき
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