第10話 吉田帝国滅亡RTA、よ~い、スタート!(非フラグ)
吉田帝国滅亡RTA、よ~い、スタート!
まずは、ちょっとだけ様子を見ます。
「パパッ、助けて! パパァァァァァァァ――――ッ!」
連れてこられた『贄』の一人、十歳くらいのガキが涙をあふれさせて訴える。
視線の先には、遅刻者の中の一人、四十代くらいのくたびれたオッサンがいた。
さっき、クソォと叫んでいたのが、そのオッサンだ。
こいつが叫んでいた秀和、というのがあのガキの名前なんだろう。
で、
「いいねいいね、いぃぃぃぃ~い、悲鳴だねぇ。いいよぉ、グッと来るよぉ~」
引き裂かれ、叫び合う親子を前にして『偉大なる吉田』がニタニタ笑っている。
「お、お願いします! 皇帝陛下! お願いします、息子を、お助けください!」
遅刻者の親父の方が、床に頭をゴリゴリ擦りつけて初代皇帝に懇願する。
お願いされた皇帝は「は?」と鼻をほじりながら呟き、親父に歩み寄った。
「頭が高い」
「ぐごっ」
そして、冷たく言い放ち、土下座している親父の後頭部を上から踏みつける。
「朕に逆らった分際でぇ、何? 何をお願いするって? あ? え? おい? バカか? バカだろ、おまえ。あ~、頭が高い頭が高い頭が高い頭が高い! 頭が高いんだよ!」
「うっ、ぐぎっ、ぎぁっ! が、うがっ!?」
広々とした催事場に、初代皇帝の怒声と頭を幾度も踏まれる親父の悲鳴が響く。
周りを囲む『名ばかりの吉田』はそれを見せつけられ、おののき、震えた。
ひどいとでも漏らせば、それだけで自分の『贄』が輪廻刑。それは明白だった。
「パパッ、パパァァァァァァァ――――ッ!」
「あ、ひ、ひで……」
床にジワリと血を広げながら、伏した親父が息子の名前を呼ぼうとする。
初代皇帝は、そんな親子をまるで毒虫かのような嫌悪感まみれの顔で見下ろした。
「クッセ、やっぱ『名ばかりの吉田』は臭いわぁ……。さっさとやるかぁ」
「「吉田帝国は最イケです!」」
鼻をつまんで手を振る初代皇帝に、吉田グッズを身に着けた連中が呼応した。
「あ、ぁ、よしだ、ていこく、さい、いけ……」
加えて、吉田タスキをかけた『タスキの吉田』なるゾンビもそんなことを言う。
なるほど、初代皇帝がゾンビを操るという話、本当らしいな。
『ゾンビを操る能力ですか……。魔法、とは違うのですかしら?』
小鳥エラが疑問を口にするが、俺はひとまずそれには答えない。
他の三人の遅刻者が完全に震えあがっている中、皇帝が踏みつけた親父に近づく。
そして、初代皇帝は親父の髪を掴んで、無理やり顔を上げさせた。
「それじゃ、これからおまえの息子、ゾンビになるから。よく見ててね?」
「う、ぅぅ、や、やめて……」
親父は前歯が折れて、鼻もへし曲がっていた。
大量の鼻血に顔を染め、目からとめどなく涙を流しながら、それでも懇願する。
「やめ、……くだ、さい。お、おねが、ぃ……」
「え、やだ」
グチャ、という音がする。
初代皇帝が笑いながら、親父の顔を殴りつけた音だった。
「パパァァァァァァ――――ッ!」
「うるせぇ、黙って見てろ!」
飛び出そうとするガキの方を、Tシャツの中原がブン殴って吹き飛ばした。
一方で、親父の方は初代皇帝にその顔を殴られ続けている。
「やめてほしけりゃよぉ~、最初から朕の言うこと聞いてりゃよかったんだよ! 五分もやったってのに、遅刻しやがって? あ? 人生ナメてんのか? ここで一番偉いのが誰かわかってんのか? わかってねぇから遅刻すんだよなぁ、オイ!」
血と鼻水にまみれた親父の顔を、皇帝がブチギレ顔でさらに殴り続けた。
「ここは朕の帝国だ! 朕が一番偉いんだよ! 朕が! 一番! 最高に! 偉いんだよ! わかったか! わかったのか! わかれよ! わかれ! 朕に逆らうんじゃねぇ! ここじゃ! 朕が! 神だ! 神以上だ! 神以上以上だ! 神以上以上以上だッ!」
「あ、が……」
馬乗りになって殴る皇帝と、もう言葉も発せない親父。
周りの誰も、それを止めようとしない。止めれば、親父の二の舞は必至だからだ。
まぁ、でも止めようとするヤツはいるんだけどな。
例えば、俺の隣に。
「……これ以上は、見ていられない」
小さな呟きが聞こえる。
当然、それを言ったのは音夢である。
ちらりと流し見れば、顏は真っ赤だ、体は震えてるだで、もう爆発寸前よ。
システムオールグリーン、発射準備完了。総員対ショック態勢、カウントダウンよ。
「まぁ、もうちょい待ちな」
「橘君? でも……」
だが俺は、ここで音夢の肩を掴んで止める。
「もう少ししたら、俺が行く」
「橘君が?」
「ああ。だから、ここで暴発するな。妹さん、心配だろ」
俺が妹のことを口に出すと、掴んだ肩にグッと力がこもった。
うんうん、よく堪えた。偉いぞ。
「ふぅ~、ふぅ~! 余計な手間かけさせやがってよぉ~!」
立ち上がった初代皇帝が、顔面を腫れさせて痙攣する親父を見下ろしている。
その顔は興奮から真っ赤になって汗だくで、歪んだ笑みが浮かんでいる。
「ちょっと『贄』をゾンビにするだけだろうが。……安心しろって、帝国のために十分働いたら、そのゾンビもきちんと元に戻してやるから。ヒヒ、ヒヒヒヒヒ」
お、出た出た。
俺が聞きたかった情報。やっと出た。
輪廻刑の内容を聞いた段階で、俺には疑問があった。
差し出させた『贄』を本人の前でゾンビに変えたとして、それからどうするのか。
ゾンビに変えることは、言ってみれば殺すことに等しい。
せっかく取った人質を殺すのは、間違いなく悪手。見せしめとはいえ頭が悪い。
と、なれば、刑に処したさらに先があるのではないか。
そう考えてここまで待ってみたが、当たっていた。ゾンビから元に戻す、ね。
そんなことが可能なら、それこそ初代皇帝はこの世界の救世主になれる。
ゾンビだらけのこの世界で、ゾンビを操り、ゾンビを人に戻す。
自分で言ってた神以上以上以上の存在というのも、あながち間違いじゃなくなる。
――本当に、戻せるならな。
実際にできるかどうかは、まぁ、本人にきけばいいか。
とりあえず、聞きたいことは聞けた。大体の帝国の仕組みもわかった。
細かい疑問点は幾つかあるが、もういいや。
これ以上時間かけると、隣のお人好しお節介爆弾がいよいよ炸裂しちまうわ。
『ルリエラ、人質連中は七階にいるから、よろしく』
『あら、よろしくとは、どうよろしくですの?』
『貸し一つ。それで頼むわ』
『あらまぁ、わたくしは構いませんけれど、よろしいんですの?』
『ぶっちゃけ不本意。でもこれが最短最善最適解だからな。しゃーない』
『フフフ、あなたも大概、お人好しですわね』
『今回は身内も絡んでるからな。まぁ、是非もなし、ってやつ?』
俺が言うと、小鳥エラはバササと飛び立っていった。
静寂の中に聞こえたその羽ばたきの音に、場のほぼ全員の意識がそっちに向く。
「お、小鳥?」
と、初代皇帝もルリエラを見上げたので、
「ああ、小鳥だぜキーック!」
と、俺がその背中に思いっきりドロップキックをお見舞いしてやった。
「ブギャアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ――――ッッ!!?」
初代皇帝『偉大なる吉田』、床に顔を打ちつけ、しかもザリザリザリと擦れる。
スゲェ痛そう。わぁ、何てことだ、皇帝が。神にも等しい吉田帝国初代皇帝がー!
クッソ笑うわ。
「
次に俺は初級の回復魔法を唱えて、親父の方の傷を癒す。
「な、な……!?」
突然のことに驚き固まる吉田帝国のグッズ貴族共。
だが、ンなこたぁどうでもいいんだ。ああ、どうでもいいのさ、心底な。
「昔っから言うよなぁ、仏の顔も三度までだってよ? 三度、三度だぜ? 仏様は失敗を三度も許してくださるんだってよ。慈悲深ェよなぁ~。でも、逆に言えばたった三度だけだ。それじゃあいけねぇよ、ちっと、器が狭いぜ」
カツン、と、喋りながら一歩進む。
「それに比べて情け深い俺は、最低でもその倍、何と六度は許せるね。六度だぜ、六度。わかるか? お釈迦様の倍は慈悲深いワケ。すごいね、我ながらシビれるわ」
コツン。もう一歩前に進んで、俺は肩をすくめる。
「そんな優しい俺でもよぉ~、許せねぇモンが二つある。それがゾンビと、身内を傷つけるヤツだ。吉田帝国はその両方をコンプリートした。だからよ――」
俺は、スゥと息を吸い込む。
「吉田帝国、マイナス一垓点! 俺の顔が六度までなので、総計、マイナス九九九九京九九九九兆九九九九億九九九九万九九九四点! 帝国滅亡決定でぇ――――す!」
判決、宣告、かーらーの、
「
視線の先にいる『タスキの吉田』に向かって初級の氷属性魔法を解き放つ。
喰らった『タスキの吉田』は真っ白に凍てついて、俺がそこにドロップキック。
「吉田帝国撃滅粉砕キィィィィィィィィィ――――ックッ!!!!」
ドグワシャア、と、凍った『タスキの吉田』が砕け散った。
完全に硬直して間抜け面を晒す吉田帝国の支配階級共に向かって俺は言った。
「ゾンビは、殺す」
ゾンビを操る吉田帝国も、殺す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます