第26話「戦乙女の戦い」
ユニアは強情だった。たった一人でエルダードラゴンとその群れを退治するというのは無理がある。俺とヒルガルドはそんな常識的な判断のもと、彼女を説得した。
「お二人の言うことはわかります。しかし、できれば店長の手を借りることなく、わたし一人で討伐したく思うのです」
再三の説得にも関わらず、彼女は譲らなかった。普段はもっと融通を利かせるというのに、今回は驚くほど頑なだ。
「ユニア。貴方がそこまで言うならなにか理由があるのでしょう。それを説明してください。そうでなければ、私もイストさんも納得できませんよ」
そう促すヒルガルドの横で、俺は無言で頷いた。ワルキューレならエルダードラゴンを討伐できる。現にヒルガルドは二匹ほど倒している。だが、危険な戦いだ。二人で戦えば相当楽になるというのに、何故そんなことを言うのか。とにかく、理由を知りたかった。
ユニアは少し迷った様子を見た後、静かに口を開く。
「ヒルガルドの姿を見て、自分を許せなくなったのです。あなたが必死に戦っている間、わたしは畑や花壇の世話を楽しんでいました。目覚めている、数少ないワルキューレなのにも関わらず」
それは、どうしようもない後悔だ。俺達が空中庭園の現状を知ったのはつい先日。それまで、空の上で激しい戦いが行われていたなんて気づく余地が無かった。それこそ、もっと早く神託でも無ければ動けなかっただろう。
神格があるとか、神の使いだとか言われても、全知全能でも万能でも無い。あらゆる不幸を取り除くなんて、それこそ神様にだって不可能だ。
「わかっています。これが合理的でないこだわりだと。自分でもわかります」
俺が言うまでも無く、ユニア自身がそれを十分承知していた。こうなると、俺には何も言えない。
「ユニア、やっぱり貴方は優しい人ですね。友人として、嬉しく思います」
一番の当事者であるヒルガルドが、そんな言葉と共に、ユニアに軽い抱擁をした。それから俺の方を振り返り、優しい笑みを浮かべながら言う。
「いかがでしょう。戦いはユニアに任せ、危険と判断したらイスト様が加勢するというのは。後からの苦情はなしということで」
「俺はそれで構わない。ユニアなりに、けじめをつけたいということだろう?」
「けじめ・・・・・・。そうですね。わたしなりに、納得にいく形で対応したいのだと思います。友人を傷つけたドラゴンを、自分の手で倒したいのです」
それならわかる。ある意味、これは敵討ちだ。ヒルガルドはまだ稼働しているが、もうどうしようもない状態であるのはまぎれもない事実なのだから。
「では、ユニア。エルダードラゴンの討伐を改めて依頼します。どうか、この空中庭園を傷つけた者に天罰を」
「承知しました。わたしの全ての力を注いで討伐します」
○○○
それから二日後、ドラゴンの群れは来た。
数としては二十ほど。問題はその内訳だ。
大きめのドラゴンが七体、ワイバーンが十二体。
そして、エルダードラゴンが一体。
崩壊した遺跡にいるワルキューレを滅ぼすには十分すぎる戦力だ。
俺たち三人は、ヒルガルドの案内で空中庭園にあった塔の最上部、今では途中で折れてしまったところに立っていた。
これから戦う相手でなければ壮観そもいえる光景をじっと眺める。
エルダードラゴンは全長二十メートル近い、灰色の鱗をしている。トカゲに翼がついたいかにもドラゴンらしい見た目に、赤く輝く目。それ自体は問題ない。
「たしかに灰色だな。見慣れない色だ。どんな種類なんだろう?」
「現代を生きる方にもわかりませんか。種別としてはダークドラゴンに近いようなのですが、詳細不明です」
灰色のドラゴンというのは一般的ではない。戦ったことも、伝承などでも聞いた覚えが無かった。
何度か交戦したヒルガルドも詳しく分析できなかったという。
なにかの訳ありだが、わからないのが不気味だ。
「倒せるのがわかっているのなら十分です」
静かにしている俺の横で、ユニアが一言呟いた。同時、その手に銀色の槍が現れる。
優美にして繊細な見た目のその武器こそ、ワルキューレに神が与えるという神具だ。
「いいな、それ。剣、槍、弓に自由自在に変化できるんだろ?」
「あげませんよ? 神から賜ったものですから」
割と本気で羨ましい。俺が神様から貰ったものは全部無くなってしまった。
ワルキューレの神具は強い上に三段変形とか多機能で格好良いところもいい。
「欲しいとまではいわないよ。それに、今が使い時だろ? まずは弓か?」
空を漂うエルダードラゴンを中心とした群れを見て言う。
セオリーなら、距離をとっての射撃からスタートだ。向こうもこちらを見えているだろうが、そこは神具をもつワルキューレ、十分対応できるだろう。
俺の言葉を受けて、ユニアは空を一瞥。神具の槍をそのまま空に向けた。
「まずは雑魚の掃除からです・・・・・・領域拡大」
瞬間、目の前の空一面に魔力が迸った。実際目に見えたわけじゃないが、感覚的にはドラゴンの群れ周辺にフィルターがかかったような印象がある。
驚く俺と動揺するドラゴン達を尻目に、ユニアはぽつりと呟く。
「スリープ」
その一言で、空中のレッサードラゴンとワイバーンが一斉に落下した。
中にはレッサーじゃないサイズのドラゴンもいたのに、一匹の例外もなくだ。
冗談みたいな動きで垂直落下したドラゴンの群れは次々に地面に叩き付けられていく。
いくら強力な種族とはいえ、数百メートル以上上空から落下すればただですまない。
「さすがです、ユニア。相変わらずワルキューレでも屈指の魔法の使い手ですね」
ヒルガルドは目の前の出来事にまるで驚いていない。それは、ユニアも同様だ。彼女は槍を構えたまま、淡々と言葉を紡ぐ。
「落ちても眠りの魔法は継続します。ワイバーンくらいは始末できたでしょうが、残りは後ですね」
それから自分の背丈よりも大きな槍を振り、空中に一匹残ったエルダードラゴンを見据える。
「これで一対一です」
瞬間、背中に一瞬魔法陣が展開。ユニアがゆっくりと浮かび上がる。
「店長、ヒルガルドの護衛をお願いします」
そう言って俺に向かってぺこりとおじぎした。
「任せろ。存分にやってくれ」
「はい。では、行ってきます」
いってらっしゃい、という俺達の言葉を聞く間もなく、一人のワルキューレが巨大なエルダードラゴン目掛けて、空を疾駆した。
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