第76話 追撃軍現る! そして最後のメンバーも現る!

 村人たちと、青いトゲについてわいわい言っていると、誰かがこう告げた。


「伝説の勇者様がせっかくいらしたんだから、こりゃあ祭りをしないとな!」


「あたしらのひいばあさんとか、ひいひいばあさんの代に故郷でやってたお祭りだよ!」


 どうやら宗教的なお祭りだというので、共和国側から制限されていたらしい。

 だが、あちこちの村ではこっそりとお祭りを伝えていたということなのだ。


「お祭りいいですねえー。準備を手伝いますよ!」


「いやいやいや、勇者様に手伝ってもらっちゃあ」


「あんたが主役なんだから、どーんと座っててくださいよ!」


「そうそう! 旦那さんと一緒にゆったり構えてて下さい!」


 手伝おうとしたエクセレンが、村人たちに押しやられてこっちに来た。


「旦那様!?」


「旦那様?」


 エクセレンが目を白黒させ、俺もきょとんとしてしまう。

 勘違いされているようだ。


「なんかちょこちょこそういう勘違いされますよね!」


「そうだなあ……」


 何故か仲間たちが、俺たち二人のやり取りを見て半笑いになっていた。


 さて、村のお祭りだが、魔王に見立てた大きな藁人形を用意し、これに火をくべて燃やす祭りだった。

 燃え上がる藁人形を囲んで、みんなで踊ったり飲み食いしたりする。


「ほう! 村のパンなのじゃ? 美味いのじゃー!!」


 藁人形の火で炙って焦げ目がついたパンを、ミルクでとろみを付けたスープに浸して食べているディアボラ。


「魔王が燃やされる祭りじゃないか。ディアボラは腹が立たないのか?」


「なんのなんの。偶像になってまだまだ魔王様が残ってたということはめでたいことなのじゃ! こうして思い出す者がおる限り、魔王様がずーっと生きているようなものじゃ! めでたい!」


「そういうもんなのか」


「ディアボラの感覚は興味深いな。我々が伝承を語り継ぐことを、ただ一人の記憶として持ち続けるわけだからな」


 ウインドが興味を示した。

 彼のインタビューが始まり、ディアボラが食事しながら片手間で答えている。


 それを横目に、エクセレンと一緒に鳥肉の串焼きを食べるのである。


「焼き立ては美味いな。チーズを載せて食うってのは久々だ」


「美味しいですよね! 食べ物の種類はすくないですけど、だいたいのものはミルクとチーズ使っておけば美味しくなりますし! お野菜は全部漬物にしちゃうみたいですし」


 どんなクズ野菜でも、漬物にすれば美味しく最後まで食べられるということか。

 後は長持ちするものなあ。


 この村の食べ物は、ボソボソした膨らんでないパンと、野菜や肉が入ったスープ、あとは漬物に串焼き肉。

 この四種類しかないらしい。

 だが、どれもこれもチーズを掛けたりチーズを挟んだり、ミルクに漬けたりして楽しむとか。


 まあまあいい食事じゃないか。

 共和国がなんでも揃っていすぎたんだな。

 全員が全員違う仕事をしているような国だから、何でも揃ってるんだよ。


 あそこに長くいたら堕落するところだった……!


「うむ、この素朴なスープは良いな。拙者の好みだ」


 兵糧丸をつまみながら、スープを口にするジュウザ。

 祭りを楽しげに眺めていたのだが、彼がふと顔を上げた。


「思っていたよりも迅速だな」


「どうした?」


「拙者がここに来るまでに用意していた鳴子がな。耳を澄ませてみよ」


「お?」


 祭りの喧騒の中、かすかに木材が打ち鳴らされる音がする気がする。


「共和国の追っ手であろう」


「へえ! 俺たちを追いかけるという決定ができたやつがいるんだな」


 ちょっとは共和国を見直した。

 ジュウザと俺で祭りを抜け出して、様子を見に行くことにしたのである。


「お主には隠密行動は無理ではないか?」


「追いかけられてるんだ。忍ぶ必要もないだろ」


「それもそうか。お主がいれば敵の攻撃を警戒する必要も無い……いかんいかん。これは堕落する考え方だ……」


 二人でぶらぶら道を行くと、共和国の方からぞろぞろと集団がやって来る。

 一見して明らかにやる気が無さそうだが……。


「あ、隊長、いましたよ」


「え、標的発見? 発見……発見……発見!! 命令を認識。標的への攻撃を開始する。戦闘開始! 開始せよ!!」


「なんか切り替わった感じがするな」


「命令とか言ったな。これはこやつらの行動の迅速さに説明がつこう」


「おう。こりゃあ間違いないな。向こうに何かいるな」


「魔将であろう」


「だろうな」


 やる気が無さそうだった兵士一行も、目の色を変えて襲いかかってくるではないか。


「はいはい、こっちだこっち! 俺はここだぞー!!」


「うおー! なんだかこいつに攻撃しなければいけないような気がしてきた!!」


「盾を持った大男を攻撃するために集まれー!」


「集まれー!」


 ワーッと集まって俺の盾をポコポコ叩いてくる。

 当たり前のようにダメージはゼロだよなあ。


「よし、マイティ、スイトンで押し流すぞ」


「おう、そうしてくれ。モンスター化するわけでもなくただただ襲いかかってくるだけなんだ。というか、あまりにこいつらの動きが遅すぎて、裏にいた黒幕みたいなのが痺れを切らして洗脳だけしてさっさと出向かせたのかも知れないぞ」


「ああ、なるほど。ありうるなスイトン」


 溢れ出す大量の水。

 ジュウザ曰く、異界から水を一時召喚する魔法らしい。

 効果時間はかなり短く、数秒。


 だが、敵が密集していればその効果は劇的だ。


「ウグワー!!」

「ウグワー!!」

「ウグワー!!」


 まとめて流されていった。

 そして水が消えると、地面に転がって泥だらけになった兵士たちの姿。


「やる気を失っておるな」


「転んで泥だらけになったくらいでか……。まあ、食べるためだけに兵士の仕事をしている連中だからな。さもありなん。しかし……一人だけやる気がある者がいるな」


 ジュウザが振り返る。

 そこにいたのは、隊長と呼ばれていた男である。


 その肉体が大きく盛り上がり、変容を遂げる。

 どうやらこの男一人だけには、魔王の力みたいなものが与えられていたらしい。


 そいつは青い装甲を纏ったカニ人間のような姿になり……。


「浄化!!」


 突如響いた声とともに、鞭が飛んできた。

 カニ人間の装甲が、鞭で激しく打たれると、「ウグワーッ!?」叫びながらカニ人間が倒れて泡を吹いた。

 おお、あっという間に全裸の隊長に戻っていくな。


「これは……。もう一人いるとは思っていたが」


 カニ人間の背後にいたのは、女だった。

 青く染められた、ダブっとした外套。つばの広い帽子。

 腰にはクロスボウと、手にした鞭。


「ははあ、最近共和国の攻撃が多いたあ思ったが、こりゃあ千年ぶりに魔王が現れたってえのも本当みたいだねえ」


 どういう手段なのか、人間のモンスター化を解いた女は、そう言って笑うのだった。

 誰だろう……?


 

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